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いま若者の間で「メタ観戦」が広がっている――試合を見なくても熱狂できる理由
ビジョナリー編集部 2026/01/23
「最近、スポーツのライブ中継を最初から最後まで観たことがありますか?」
そう問いかけると、多くの若い世代は少し首をかしげるかもしれません。かつてはテレビの前に座り、家族や友人と一緒に歓声を上げながら試合を見守ることが、スポーツ観戦の“当たり前”でした。
しかし今、その「当たり前」は確実に変わりつつあります。近年、若者の間で広がっているのが「メタ観戦」と呼ばれる新しい観戦スタイルです。試合を最初から最後まで通して観るのではなく、SNSに流れてくるハイライト動画や名場面、選手の発言、ファンのリアクションといった“試合の外側の情報”を通じてスポーツを楽しむ。そんな関わり方が、いま主流になり始めています。
こうした変化の中心にいるのが、Z世代をはじめとする若い世代です。彼らはスポーツを「結果を見守るもの」としてではなく、「話題になった断片を自分なりにつなぎ合わせて楽しむコンテンツ」として受け取っています。
「試合を見ない観戦」が主流に?変化の中心にいる若者たち
2026年のWBCやワールドカップを控える中で、スポーツ観戦の方法が大きく入れ替わろうとしています。従来の「試合そのものを観る」スタイルは、若い世代の間で急速に別の形へと進化しています。
今やZ世代を中心とした若者たちは、試合の最初から最後までをじっくりと見ることを前提にしていません。それにも関わらず、SNSや動画プラットフォームでは、選手のスーパーゴールや劇的な逆転シーン、さらには選手の素顔が垣間見える“切り抜き動画”が爆発的な人気を集めています。
彼らにとってスポーツは「結果を見守る対象」ではなく、「物語の断片を自分なりにつなぎ合わせて楽しむコンテンツ」へと生まれ変わっているのです。
“ハイライト消費”の時代へ
最近の若者の間では「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉が日常語として定着しています。限られた時間の中で、いかに効率よく“美味しいところ”だけを味わえるか。スポーツ観戦も例外ではありません。
Z世代に代表される若者は、長時間の試合を通しで観ることを「時間コストが高い」と捉えています。そのため、SNSやTikTok、YouTubeなどにあふれる短尺のハイライト動画や、“推し”選手のインタビュー、裏側のオフショットなど、編集された“名場面”だけを次々と消費しています。
実際、2025年の世界陸上に関する関連調査では、Z世代の44%が「切り抜き動画」で観戦し、ライブ中継を観る層はわずか17%にとどまっています。
“ライブで試合を追いかける”のではなく、“SNSのタイムラインで話題になった断片をつなぎ合わせる”という、新しい観戦様式が定着しつつあるのです。
なぜ「試合を見ない」のに熱狂できるのか
多くの人にとって、「試合を見ずにどうやって盛り上がるの?」という疑問が浮かぶかもしれません。しかし、今の若者たちはSNSを中心とした“断片的な体験”に慣れ親しんだ世代です。
彼らは「その瞬間、その場、その話題」で盛り上がることに価値を見出しており、リアルタイムで全体を追いかけるよりも、SNSでバズった場面や友人がシェアした動画から“盛り上がっている部分だけ”を手軽に楽しみます。
例えば、日本代表戦後に渋谷のスクランブル交差点で多くの人々が集まり勝利を祝う光景は、ニュースやSNSで繰り返し流されます。その場にいなくても“渋谷で盛り上がっている自分”をSNSで表現できる。その瞬間だけの一体感を求める行動が中心となっています。これは「その場にいなくても、熱狂に参加している自分を演出できる」という、現代的な観戦意識の象徴とも言えるでしょう。
若者が“推す”のは「国」や「チーム」より「選手個人」
さらに大きな変化として、スポーツ観戦の軸が「国」や「チーム」から「推し選手個人」へと移りつつある点が挙げられます。
従来であれば「日本代表だから応援する」「地元チームだから観る」という動機が主流でしたが、今では選手の人柄やSNSでの発信、日常の素顔がファン化の決め手になっています。
推し選手のSNS投稿をチェックしたり、選手のストーリー性に共感したりと、スポーツ観戦は“応援”というよりも“推し活”の一部、さらには自己表現やライフスタイルの一部にまで溶け込んでいます。
実際に、Z世代が選手を好きになる理由として「実力・記録」だけでなく、「人柄」「SNSでの発信」が大きな割合を占めています。憧れの存在というより、“自分と同じ時代を生きる親しい存在”として、選手に共感しやすい環境が整っているのです。
女性スポーツが急成長する理由
この“物語消費”や“推し活”といった新しい観戦様式は、女性スポーツと非常に親和性が高いという特徴も見逃せません。
女子サッカーや女子バスケットボールなどでは、選手個人のSNS発信力が強く、ファンとの距離が近いことが顕著です。
ファンは試合の結果以上に、選手がどんな苦労を乗り越え、どんな価値観で生きているのか、どんな仲間に支えられているのかといった“裏側の物語”に強く惹かれます。
この流れは日本国内でも顕著で、WEリーグやWリーグの女子選手がTikTokやInstagramを活用し、新たなファン層を生み出しています。
スポーツ界・メディアが直面する課題と可能性
このような変化を前に、スポーツ界やメディア、スポンサーは従来型の「試合を見せる」発想から、「物語や体験を提供する」発想への転換が求められています。
これからは、試合そのもの以上に、選手の裏側や練習風景、日常の一コマ、家族や仲間との関係、感情の揺れといった“非競技の情報”が観戦の核となっていくでしょう。
Z世代のSNS文化と親和性が高いこうした素材こそが、スポーツという“熱狂”をさらに拡張し、新しいファン層を呼び込む原動力になるはずです。
まとめ
スポーツ観戦は今、かつてない変革の時を迎えています。若者たちは、試合のフルタイム視聴や現地観戦といった“伝統的な観戦スタイル”に縛られることなく、自分なりのペースで、好きな瞬間だけを選び抜き、SNSを介して物語化し、仲間と共有しています。こうした関わり方は、試合そのものだけでなく、その周囲で生まれる反応や文脈までを楽しむ「メタ観戦」という新しい観戦文化として定着しつつあります。
彼らにとってスポーツは、ただ結果を追いかけるものではありません。“つながるための場”であり、“自己表現”の舞台であり、他者の反応や物語を取り込みながら意味を再構築していく“創造”の対象でもあります。
若者たちがリードするスポーツ観戦の未来は、今後どのように広がり、深化していくのでしょうか。スマートフォンの画面越しに流れるハイライトや、“推し”選手のつぶやき、その瞬間に生まれる熱量を追いかけながら、彼らの新しい楽しみ方にも目を向けてみてはいかがでしょうか。


