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南鳥島沖のレアアース──国産化の可能性と商業化への壁
ビジョナリー編集部 2026/03/04
南鳥島沖で深海底からのレアアース泥の試験回収が成功し、「日本が資源を掘り起こす時代が来るかもしれない」と期待が広がっています。しかし、それを現実の産業基盤へと結びつけるには何が必要なのでしょうか。国産化の可能性と、商業化を阻む現実的な課題について紐解きます。
供給網の危機感
自動車やスマートフォンなど、あらゆるものづくりの裏には“産業のビタミン”とも呼ばれるレアアースが不可欠です。日本の製造業が誇る高品質なモーターや電子部品は、この資源がなくては成り立ちません。
ところが、この重要資源の約7割を日本は中国からの輸入に頼っています。過去には外交摩擦をきっかけに突然の輸出規制が発動し、“モノが作れなくなる”リスクが現実になりました。
こうした危機感から、日本は自国での供給体制の構築を目指し、国を挙げて新たな資源開発に乗り出しました。その象徴が、東京から遠く離れた太平洋上、南鳥島沖での深海底探査です。
南鳥島沖──世界でも異例の高濃度資源が眠る海底
「日本の海底に、世界屈指の鉱床が眠っている」
この発見は、10年以上前に大学の研究グループが南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)で高品質かつ大量のレアアース泥の分布を突き止めたことに始まります。特にディスプロシウムやガドリニウムなど、電気自動車の高性能磁石や原子炉の制御装置に必須とされる“重希土類”が豊富に含まれている点は、世界でも珍しい特徴です。
推定埋蔵量は1,600万トン規模とも言われており、これは日本の年間需要を何十年も満たせるほどです。国の命運を左右する切り札として注目されています。
2026年には、内閣府主導のプロジェクトで、深海5,000~6,000メートルという過酷な環境からの連続回収に、日本の探査船が世界で初めて成功しました。1日に350トン規模を海底から引き揚げる実証試験も視野に入れています。
「商業化」の壁は高い
採れればすぐに使える——そう単純にはいかないのがレアアースの難しさです。もっとも、南鳥島沖での技術開発は着実に進んでいます。海底からの揚泥装置の開発や、船上での分離・濃縮プロセスの実証、環境負荷を抑える手法の研究などが重ねられています。
それでも、商業規模で安定稼働させるにはなお多くのハードルが存在します。深海底から大量の泥を安定的に吸い上げ、必要な元素を選別・精製するプラントは国内にほとんど前例がなく、実装段階には技術的・制度的な課題が残されています。
海底泥は陸上鉱石とは成分や含水状態が大きく異なり、既存の精製技術がそのまま流用できるわけでもありません。どのような手順で不純物を取り除き、コストと品質を両立させるかは、「やってみなければ分からない」領域なのです。
さらに、採算性の問題も重くのしかかります。深海での掘削は初期投資が莫大です。加えて、分離・精製工程、輸送コストも含めると、世界市場での価格競争力を確保できるかは未知数です。海外メディアからも「現状では採算度外視の国家プロジェクト」と指摘されることも少なくありません。
日本の戦略──“一点突破”ではなく“多層防衛”
では、南鳥島沖だけに頼るのが日本の戦略なのでしょうか。実はそうではありません。日本は「供給源の多角化」と「技術力の涵養(かんよう)」を両輪として、リスクを分散する道を選んでいます。
ひとつは、北海道や東北での鉱床調査の継続です。国内陸上の鉱石資源も候補として研究が進んでいます。規模では南鳥島沖に及びませんが、国内供給の“もう一本の柱”を目指した取り組みが続いています。
もうひとつは、「都市鉱山」と呼ばれるリサイクル技術の強化です。使い終えたスマートフォンや家電、自動車部品からレアアースを回収するこの分野は、日本が国際的にもトップクラスの実力を持っています。環境負荷を抑えつつ、国内循環型の資源供給網を構築できるのが強みです。
加えて、製造現場での使用量削減や、代替材料の研究も盛んに行われています。EVモーター用磁石のディスプロシウム使用量を減らす技術や、新素材開発がその例です。使う量を減らせば、供給リスクも低減する──この発想が国策として推進されています。
つまり、日本の狙いは“一点突破”ではなく、供給リスクを構造的に下げるための多層的な安全網の構築にあります。
まとめ
南鳥島沖でのプロジェクトは、まさに“未知への挑戦”の連続です。期待と課題が入り混じるなか、日本は「自分たちの手で資源を掘り起こし、未来の産業を守る」新たな一歩を踏み出しました。
たとえすぐに商業化が実現しなくとも、この取り組みは次世代の競争力の土台を築く大きな意味を持っています。その先には、世界に負けない持続可能なものづくりの未来が広がっているかもしれません。


