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「かつては銀行だった」と言われる未来へ。世界初の価値を生み出し続けるセブン銀行松橋社長が語る、モノづくりの原点とAI時代のATM進化論
ビジョナリー編集部 2026/06/10
2001年の創業以来、コンビニエンスストアという身近な場所にATMを設置し、私たちの生活に欠かせない社会インフラを構築してきたセブン銀行。キャッシュレス化やAI技術の進化など、社会環境が目まぐるしく変化する中で、同社はどのような未来を描いているのか。
今回は松橋正明代表取締役社長にインタビューを敢行した。20代後半での苦い経験から見出した「社会の役に立つ」という使命感、学生時代から変わらない「違うものを組み合わせる」モノづくりの原点、そして2029年に向けた「第5世代ATM」の構想。常に常識を疑い、挑戦の歩みを止めないトップが語る、新たな時代の切り拓き方に迫る。
AI時代にこそ問われる「感性」と指揮者としての役割
ここ数年で様々なAIが登場し進化を続けていますが、この流れの中で守るべきものと破壊すべきものの判断についてはどのようにお考えですか。
私は2016年頃から、AIの可能性に強い関心を持っていました。当時、機械学習や強化学習によって自ら試行錯誤しながら最適なルートを見つけていくAIの動きを見たとき、「これからはプログラマーやエンジニアがいらなくなるな」と直感したのです。AIを活用すれば、いずれ自分にすべてを任せられる銀行が作れるようになる。そう考え、淘汰される危機感とともに自らAIの取り組みを始めました。
ITが進化すればするほど重要になるのは、オーケストレーター、つまり全体をコントロールする指揮者の存在です。これからの時代は、最高の指揮者がAIを使って社会を変える のだと思います。コンサートのためにテーマを決め、出したい音に合わせて臨機応変にAIを使いこなせる指揮者が、世界を塗り替えていくのでしょう。
そのような時代において「破壊すべきもの」は、前例踏襲の考え方です。常識を疑い、業界の垣根を越えることはもはや当たり前です。一方で「守るべきもの」は、お客さまの立場で考えることと、挑戦を続けることの2つです。私たちが提供しているのはサービスであり、日頃使っていただくお客さまが何を感じているかを把握し、感覚や感性を磨き続けなければならない という、事業者としての責任があります。AIの視点だけで考えるのではなく、社会が変化したときにどこに課題があるのかを見抜く「勘」や「感性」を持って攻めていくことが、より大切になると考えています。
「3年間の空白」が教えてくれた、社会の役に立つモノづくりの本質
松橋社長が経営で大切にしているスタイルや、モノづくりへのこだわりに行き着いた原体験があれば教えてください。
20代後半の頃、開発だけを進めて顧客ニーズに全く合わない「売れない商品」を作ってしまったことがあります。なぜ売れないのかと考えたとき、事業者側の都合だけで作ってしまっていたことに気づきました。その3年間は、世の中の誰のためにもなっていない、完全に無駄な時間でした。
この経験を活かしたいという思いから、世の中のため、社会が便利になるために自分の時間を使っていくべきだ と強く考えるようになりました。技術を使って少しずつ社会を変えていくことが、私の存在意義です。また、やりたいことに思い切りチャレンジし続けるためには、一つひとつの事業でしっかりと利益という成果を出さなければ次へは進めません。その両立が、現在の経営基盤に繋がっています。
実は、モノづくり自体は学生時代から大好きでした。車のデザイン画を描いたり、バイクのプラモデルを「チョッパー」と呼ばれる形に自分で変形させたりしていました。既存のものをそのまま作るのが嫌で、想像を働かせて自分だけのオリジナルにしたいという思いが強かったのです。
▼松橋社長が改造したバイクのプラモデル

例えば、プラモデルの写真を撮って画像編集ソフトで合成し、スタジオで撮影したかのように見せるといった工夫もしていました。この違うものを組み合わせて新しい価値を作る という発想は、私の仕事の原点です。銀行の窓口端末を作った際にも、郵便局のOCR(光学文字認識)技術を組み合わせて、お客さまの伝票を自動で読み取れるようにしました。異質なものを掛け合わせて新しい製品を作るというアプローチは、昔から変わっていません。
▼画像編集ソフトで合成したプラモデル

セブン-イレブンのDNAと「違うものの組み合わせ」が革新を生む
独自のサービスを生み出し続ける背景には、どのような考え方があるのでしょうか。
当社のパーパスである「お客さまの『あったらいいな』を超えて、日常の未来を生み出し続ける。」を実現するためには、誰も追従できないレベルまで考え抜き、高度に仕上げたものを作らなければなりません。中途半端な差別化ではすぐに真似されてしまい、社会にインパクトを出せないからです。
2001年の創業時にコンビニATMを立ち上げた際も、ゼロからハードウェアを作り上げ、未だに他社が真似できない「現金を数えないオペレーション」の仕組みを構築しました。
そしてもう一つ重要なのが、セブン-イレブンのDNAを金融に持ち込んだことです。セブン-イレブンには、美味しいチャーハンを作るために、専用の鍋から開発するという発想があります。私たちもそれと同じように、理想とするものを作るためにインフラから作り直す という技術的アプローチをとりました。警備機能を一体化させ、現金センターや警備会社の配送の仕組み自体を、コンビニの共同配送のように作り直したのです。私の原体験である「差別化して作る」ことと、「セブン-イレブンの発想」を掛け合わせた結果が、今のセブン銀行の基盤となっています。
リアルな接点だからこその安心感。第5世代ATMが描く未来
これから第5世代に向けて、ATMのビジョンをどのように描かれていますか。
現在、2029年に第5世代のATMを出すことを視野に入れ、私たちが提供すべき価値は何かを徹底的に議論しています。
これからの環境変化を考えると、サイバー空間やネットに対する不信感や疲れが出てくる一方で、AIはさらに普及していきます。その中で、リアルな接点を持っている私たちだからこそ提供できる「手堅く大事なもの」が必ず残ると考えています。たとえば、スマートフォンで行うには心理的ハードルが高い高額な処理でも、ATMに足を運び、キャッシュカードや多要素認証を使うことで得られる「安心感」という世界観は確実にあるでしょう。
当面の目標は、お金の出し入れだけでなく、情報の出し入れを安全に行うプラットフォーム へと進化させることです。銀行業務や行政サービス、さらには学校の手続きなど、現在人が行っている業務の多くをATMで代替できる世界を作っていきたいと考えています。
また、デジタル化が進むほど、人間が主体性を持ってコントロールしている感覚 が重要になります。何でも機械に自動化されてしまうと、人間はつまらなく感じてしまう。だからこそ「ここだけは自分で操作したい」「自分が操っている」という感覚を、リアルなATMというインターフェースを通じて提供していくことに価値があるのです。
国ごとの「違い」を楽しむ。三方良しを追求するグローバル展開
海外展開を進める中で、日本独自のノウハウをどのように反映させているのでしょうか。
海外は国によって金融の習慣が全く異なります。たとえばアジアの一部では、銀行口座は持っていないけれどQRコード決済のアカウントは持っている人が増えており、「QRコードから現金を引き出したい」という新たなニーズが生まれています。また、本人確認の技術も国ごとに様々に進化しています。
私たちは日本のノウハウをベースにしながらも、現地の習慣や事業者に合わせて最適化されたサービスを展開しています。無理に一つのモデルに統一するのではなく、自分たちだけが勝つのではなく、お客さま、提携機関、そして私たちという「三方良し」のモデル を作ることにこだわっているからです。持続可能なビジネスにするためには、現場に合ったローカライズが不可欠です。
国ごとに全く違うシステムやセキュリティの考え方が乱立する状況は、ある意味で複雑ですが、私はそれを楽しんでいます。AIにはできない、泥臭くて人間らしい最適化のプロセスにこそ、ビジネスの面白さがあると感じています。
「かつては銀行だった」と言われる未来へ。チャレンジャーが覚醒する組織
社会が変化していく中で、セブン銀行という会社を今後どのようにしていきたいとお考えですか。
目指しているのは、「かつては銀行だった」と言われるくらい、社会の変化に応じて変容している企業でありたい ということです。社会の変容に常に対応し、常にお客さまの役に立つ存在であり続ける。私たちが新しいサービスを出したときに、世の中の人から「ワオ!」と驚いてもらえるような存在が理想です。
それを実現するためには、チャレンジャーが次々と覚醒していく企業 でなければなりません。社員が「やりたい」というWILL(意志)を最大の原動力にできるよう、最新のAIツールにアクセスできる環境を整えたり、手を挙げれば挑戦できる仕組みを用意したりしています。
また、対話を重視し、私自身もメンバーとフラットに議論を交わします。半年に一度のアワードなどで挑戦者を全社的に称賛し、ロールモデルを作ることで「自分もああなりたい」という連鎖を生み出しています。実際に、新しい事業を立ち上げる部隊は若手が中心で、非常に高いエンゲージメントで難題に挑んでくれています。
自分自身も進化し、メンバーが育ち、会社全体が進化していくのを日々感じられるのは本当に嬉しいことです。難しい課題ほど楽しい。「他で誰もできないなら、私たちでやる」。そんなチャレンジ精神が当たり前のように根付く組織と共に、これからも新しい社会のインフラを創り続けていきます。


