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ソニーとホンダの共同EV「AFEELA」開発中止の舞台裏
ビジョナリー編集部 2026/04/01
ソニーとホンダが手を組み進めていた、次世代の日本製EV「AFEELA(アフィーラ)」。その開発と販売が突如中止になったニュースは大きな衝撃を与えました。この決断の背景には、世界規模の市場の激動や政策の急激な転換が影響しています。本記事では、その舞台裏と市場の変化について紐解きます。
夢の共演――アフィーラが象徴した日本の希望
2022年、ソニーとホンダが共同出資した「ソニー・ホンダモビリティ」。ITと自動車それぞれで大きな力を持つ2社が「新時代の日本EV」を生み出すという構想は、多くの人々の心を躍らせたものです。
2026年には北米市場向けに「AFEELA(アフィーラ)1」を投入し、続いて第2弾の計画も進んでいました。1月のCESでは、ホンダの幹部が展望を語り、カリフォルニア州では予約も始まっていました。現地の消費者からも注目を集めていたのです。
ソニーが誇るエンターテインメントのノウハウを車内に持ち込む発想は斬新でした。アニメやゲーム、音楽など、移動手段以上の価値を提供することで、両社の強みがどこまで発揮されるのか、期待は高まる一方でした。
発売目前で計画は白紙に
しかし、華々しい計画が一変します。発売を目前に控えていた「アフィーラ1」の開発・販売中止、さらに第2弾についても計画を白紙にするという突然の発表が行われました。
公式発表によれば、「2026年3月に発表されたホンダの電動化方針の見直しにより、当初想定していた技術や生産体制の活用が困難になった」とのことです。
世界を揺るがすEV市場――アメリカの政策がもたらした余波
なぜ、これほど急な方向転換が起きたのでしょうか。その根底には、世界のEVを取り巻く環境の変化があります。とりわけ、主要ターゲットだった米国での政策転換は大きな誤算でした。
バイデン政権下では大規模な補助や規制強化が打ち出され、「2030年までに新車の半分を電気自動車に」という目標も掲げられていました。しかし、トランプ政権が復活すると、一気に流れが変わりました。
EVの義務化は撤廃され、カリフォルニア州の独自規制も連邦レベルで無効化。さらに、2025年には購入時の税額控除の早期終了や、自動車部品への追加関税も発動されました。この結果、メーカーのコストは増大し、消費者にとっても割高な選択肢となってしまいました。
こうした動きにより、2025年の米国での販売比率は7.8%程度で頭打ちとなり、市場全体も停滞。電気自動車最大手のテスラですら主力モデルの生産終了を決めるなど、最大手すら守りの姿勢を強いられています。
ホンダの決断、そして日系メーカーが直面する困難
アメリカでの販売の鈍化を受け、ホンダは事業計画の見直しを余儀なくされました。「2040年までに新車をすべてEVや燃料電池車へ」という意欲的なビジョンを掲げ、2030年度までに10兆円規模の投資を進めていました。しかし、政策の変化と市場の停滞により、2027年3月期までに最大2.5兆円の損失を見込む事態となり、根本的な戦略転換へ舵を切ることになりました。
ソニー・ホンダモビリティの事業は、ホンダの生産技術や体制に大きく依存していました。ホンダが電動化事業の一部縮小を決断したことで、ソニー側もこの枠組みでの継続は困難と判断せざるを得なくなったのです。
こうした苦境は他の日本メーカーにも波及しています。たとえば、スバルは2020年代半ばに1.5兆円を投じる予定だった戦略を見直し、ハイブリッド車の開発強化へと切り替えました。
世界各地のEV政策――現場の実感とのギャップ
ヨーロッパでは厳しいCO2規制によりEVのシェアが急増しました。しかし、ドイツやイタリアといった自動車大国の要請もあり、2035年以降のエンジン車全面禁止方針は事実上緩和(CO2削減100%→90%)されました。
フランスでは補助金制度の再設計や環境スコア制度導入、ドイツでは財政難を背景に補助金打ち切りが相次いでいます。こうした政策変更により、メーカーは戦略の見直しや減損処理を迫られ、短期的な販売目標達成のため無理な価格戦略を強いられるなど、欧州市場のリスクも明らかとなっています。
一方、中国ではNEV(新エネルギー車)政策のもと、2025年の普及率が30%を突破する勢いです。しかし、低価格競争の激化や利益率の低下など、市場は新たな課題に直面しています。補助金の段階的縮小も進み、今後の持続的な成長には不透明感が漂い始めました。
日本の現状――EV導入の課題
日本では2025年時点で普通乗用車のEV新車販売比率は1.6%ほどであり、軽自動車やプラグインハイブリッドを合わせても3%程度にとどまるのが現実です。
国としては「2035年までに新車販売の電動車100%」を目標に掲げていますが、ここにはハイブリッドや燃料電池車も含まれます。補助金拡充などの支援策は続くものの、住宅環境に適した充電インフラの整備や、車両課税の見直しなど、課題は山積みです。
まとめ
「AFEELA」の開発断念は、単なる一プロジェクトの失敗ではありません。それは、世界的なEVシフトの停滞、激変する米国の政治情勢、そして「伝統的な車づくり」と「ソフトウェアの革新」を融合させる難しさが生んだ、日本の製造業における苦渋の、しかし不可避な決断でした。
ホンダは最大2.5兆円という巨額の損失を出し切ることで、ハイブリッド車を含む現実的な戦略へと舵を切りました。一方、ソニーが磨き上げた車内エンタメや自動運転の知見は、決して無駄にはなりません。今後は「自社で車をつくる」という枠組みを超え、他社へのソフトウェア供給やAI統合など、目に見えない形での「モビリティの進化」へと姿を変えていくことになるでしょう。
「夢の共演」の第一章はここで幕を閉じました。しかし、この挑戦から得られた教訓は、不透明な時代を生き抜くための「新たな日本の指針」として、次のモビリティ社会へ引き継がれていくはずです。


