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「癒し」が心を支配する――スクイーズ人気から見える新たな依存の正体
ビジョナリー編集部 2026/07/23
ぎゅっと手のひらで包みこむと、もちもちとした柔らかな感触が指先に広がり、形がゆっくりと元に戻る。その一瞬だけは、忙しい現実を忘れてほっと肩の力が抜ける。近年、SNSで話題を集める「スクイーズ」と呼ばれる玩具が、ストレス社会を背景に、「癒し」や「ストレス解消グッズ」として多くの人の心をつかんでいます。
しかし一方で、購入費が給料を超えてしまうなど、生活を圧迫する“依存症”とも呼べる状況に陥るケースも見られます。
そもそも「スクイーズ」とは何か
スクイーズは、スポンジやシリコン、低反発ウレタンといった素材で作られる、手で握ると形が変わり、ゆっくり元に戻る玩具です。その感触はもちもち、ふわふわ、ぷにぷになど多彩で、指先にじんわりと伝わる柔らかさが特徴です。
まるで本物そっくりのパンやケーキ、フルーツを再現したものから、動物やキャラクター、さらには「プッシュポップ」と呼ばれる押して遊ぶタイプまで、五感を刺激するバリエーションが登場しています。この「触覚」への刺激が、私たちの脳に心地よい安心感をもたらします。
科学的にも、手や指を使うことで脳がリラックス状態に導かれることが分かっており、握る時の音や感触が人気の要素のひとつとなっています。
「スクイーズ人気」の背景と現状
まず大きな要因として、SNSとの相性の良さが挙げられます。TikTokやYouTubeなどの動画共有サイトでは、スクイーズを握ったときのむにゅっとした音や、形がゆっくり戻る映像が「ASMR動画」として拡散されています。こうした映像は、見ているだけで癒されると感じる人が多く、何度もリピート再生される傾向にあります。
さらに最近では、数千円もする高級ブランド品や、限定デザインのプレミアム商品が登場しました。「ここでしか手に入らない」「今だけ限定」といった演出で、希少性を高めてコレクション欲を刺激します。
結果として、子どもだけでなく大人まで巻き込む形で、購買意欲が一層高まっていきました。
加えて、コロナ禍で在宅時間が増えたこともブームを後押ししています。外出自粛や人付き合いの減少によるストレスや不安を、手軽に癒してくれる存在として需要が高まったのです。誰にも迷惑をかけずリラックスできる「お守り」的なグッズとして、現代人の暮らしに定着しています。
「スクイーズ依存症」とはどのような状態か
しかし、癒しやコレクションの枠を超えて、生活に支障をきたすほどの“依存”に陥る人も少なくありません。
趣味の範囲であれば、購入や収集は生活の余裕の範囲内でコントロールが可能です。しかし、依存状態になると、自分の意思で止められなくなります。「今月はもう買わない」と決めても誘惑に勝てず、気づけばクレジットカードの支払いが給料を超えていたり、リボ払いが常態化して生活費を圧迫してしまう。さらには部屋がスクイーズで溢れかえり、収納スペースが足りなくなるのに“やめられない”状況に陥るのです。
こうした状態は、心理学的には「買い物依存」や「浪費依存」とも呼ばれます。購入した瞬間に脳内でドーパミン(快楽物質)が大量に分泌され、一時的な高揚感や安心感を得るものの、その効果はすぐに薄れ、また新たな刺激を求めて買い続けてしまいます。
さらに、SNSやネットショップでは常に新作や限定商品が告知され、「今しか買えない」「売り切れ前に手に入れたい」といったFOMO(取り残される不安)が強く働きます。この仕組みによって、衝動的な購買行動が習慣化されやすくなっているのです。
実際に、毎月の支払いが給料を上回り、貯金を使い果たし、さらには他の生活費を削ってまで購入する実例が、SNSにも投稿されています。
なぜスクイーズが「依存の対象」になってしまうのか
ここまで強い「依存性」を持つ理由には、「手軽さ」と「身近さ」があります。ギャンブルや高級ブランド品に比べ、1個数百円から手に入るものが多く、「これくらいなら大丈夫」という油断が積み重なりやすいのです。また、どこでもネットで簡単に購入でき、24時間いつでも注文できる環境が整っていることも、依存行動を助長しています。
もうひとつは、「癒し」を求める現代人の心の隙間です。人間関係や将来への不安、孤独感に悩む中で、握るだけでホッとでき、その短い時間だけは現実を忘れられる。この逃避先としての心地よさが、徐々に深みにはまりやすいのです。
今後の課題と必要な視点
依存の本質は玩具そのものではなく、現代社会に生きる人の「心のSOS」にあります。忙しさや孤独、将来への不安を一時的に和らげてくれる存在が、気づけば生活を圧迫する「依存」へと変わっていく背景には、手軽な癒やしに頼らざるを得ないほど、現代人のメンタルヘルスが脆弱になっている現実が見え隠れしています。
依存状態に陥らないためには、ストレスの発散方法をひとつに限定しないことが大切です。友人と会って会話を楽しむ、体を動かす、他の趣味に没頭してみるなど、複数の手段を持つことで、ひとつへの依存を予防することができます。
また、自分だけでコントロールできない場合は、同じ悩みを持つ人と交流したり、専門家のサポートを受けることも有効です。
身近にある「かわいい」や「癒し」が、時に生活を支配する存在になる。この現象は誰にでも起こりうることだと認識し、自分や身近な人の変化に気づける社会的な仕組みも必要です。
スクイーズ人気の裏側にある現代人の孤独やストレスとどう向き合うか。今後は、心の健康や社会のあり方までを問い直す視点が求められています。


