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2025

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    カフェという実験、カフェという人間交差点

    #12カフェという実験、カフェという人間交差点

    原石からダイヤへ

    前回、「カフェだ」と思った瞬間に、私の中でこれまでの経験が一つの線につながったことをお話ししました。

    たとえば、シリコンバレーのパロアルトでは、ベンチャー経営者と投資家がカフェで自然に出会い、フラットに会話し、フラットに握手を交わします。そしてそれに対し、周囲にいる人たちが拍手を送ります。「おめでとう!」「イエーイ!」と。その場には上下関係も垣根もなく、カフェがひとつのプレゼンテーションの場として機能しているのです。

    スターバックスが掲げる「サードプレイス」という言葉は、「家庭でも職場でもない第三の場所」という意味ですが、私が思い描いたのは、それとは少し異なるものでした。カフェが家庭にもなり、職場にもなる。朝から晩まで過ごせるけれど、使い方は人それぞれで、それぞれが価値を生み、きちんと対価を支払ってくれる——それでいいじゃないかと。会議室として使ってもいいし、応接間、バー、食堂として使ってもいい。家庭でも職場としても使える、使い方自由な場としてのサードプレイス。そんな自由で柔軟な空間をつくりたいと考えました。

    だからこそ、多様な人たちが集まってくる。ただコーヒーを飲みにくるのではなく、その場にコミュニティが自然と生まれてくる。そうした「複雑な交差点」としてのカフェを実際に運営してみると、それがとても面白かったのです。

    以前、大前研一事務所にいたときには、47都道府県を出張で回りました。会議室が荒れた場所だったこともありましたが、そこで例えば丁寧な説明が求められるときは正面を向いた“90度の空間”をつくったり、アイデアを創発させたいときは“斜め45度の空間”を意識したりすることで、まったく違う空間が生まれました。こうした出来事も、点ではなく線としてつながっていったのです。

    私の頭の中には、自分の記憶や風景がデータベースのように蓄積されています。それをきっちり整理してしまうと、かえって大事なアイデアが浮かんでこなくなる。だからこそ、ふわふわと浮かんでいるイシュー同士が、あるときふっと結びつき、新しいアイデアとして現れてくる。

    そうして生まれたカフェのかたちは、実に多様です。文化や価値観が異なる人たちが集い、調和し、新しい価値をつくりだす場所。それが、私にとってのカフェの本質です。

    シリコンバレーのカフェ文化がベンチャーと投資家の関係性を生むように、シンガポールの屋台街「ホーカーズ」もまた、人種や職業を超えて多くの人々が集まる場です。インド料理、マレー料理、中華料理、さらには白人のビジネスパーソンまで入り混じり、地元の人も観光客も肩を並べる。私はこうした空間が元々大好きでした。きっと博多の屋台文化で育ったからかも知れません。

    屋台文化には「ごちゃまぜ」の魅力があります。インドネシアやフィリピンでは「チャンプルー」、沖縄でも同じく「チャンプルー」、長崎では「チャンポン」、東京でも「チャンコ」。黒潮の流れに乗って文化が混ざり合い、形を変えて広がっていく。そのプロセスこそが旅であり、新しい価値観を育てる土壌です。

    私自身、アーティストとして何かを表現するというよりは、人と人との交わりの中から新しい価値を見出していきたいと考えてきました。たとえば、博多の屋台、シンガポールのホーカーズ、台湾の夜市。いずれも今では観光地化が進んでいますが、もともとは「ごちゃまぜ」から生まれた場所です。

    カフェという場の可能性を考えるとき、パリのカフェ文化にも学ぶところがあります。革命期のフランスでは、人々が自由に議論を交わす場がカフェでした。損害保険会社ロイズの原点もまた、ロンドンのコーヒーハウスです。カフェが、自然発生的に互助会としての損害保険や議会制民主主義へと発展していったのです。

    つまり、誰と一緒に場をつくるか。「この人と組んだら面白そう」「この人を巻き込んだら何かが起こる」。そんな直感を頼りに始まるプロジェクトこそが、これからの時代をつくっていく——そう信じています。

    ただ、そうしたカフェの形を経営として拡大していくには、限界があります。10店舗、20店舗、30店舗、50店舗までは良かった。しかし、このやり方では100店舗を超えるのは難しいと感じていました。理由は単純で、オペレーションが複雑化しすぎてしまうからです。

    チェーンストアが単一ブランドで運営されるのは、効率的な経営が可能だからです。でも私は、それは自分の仕事ではないと考えていました。だからこそ、自分のカフェ事業は50〜100店舗が限度だと思っていたのです。ところが、その想定をはるかに超えて、事業は急拡大していきました。

    #楠本修二郎#食産業#foodbusiness#コミュニティ#zeroco#一次産業
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