
第一次産業が成長産業になるために
8/2(土)
2025年
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楠本 修二郎 2025/07/28
「楠本さんは、なぜ思い立ったらすぐに行動できるのですか?」
講演の場などでよく聞かれるこの質問。たしかに、素晴らしいアイデアを持っていても、なかなか一歩を踏み出せない方は多い。私は子どもの頃から、考える前にまず動いてしまう性分でした。変化を恐れず、常に「やってから考える」。そんな習慣が自然と身についていたのだと思います。
福岡から上京した初日に六本木で歌っていたり、大学では企画サークルに没頭したり、就職もうまくいった…と思った矢先にリクルート事件が起き、大前研一さんの事務所で徹底的に鍛えられたり。私の人生は常に目まぐるしく動いてきました。その中で私が辿り着いたのが、「カフェ」という概念。人と情報が集まり、新しい価値が生まれる場として、あらゆる分野を“カフェ化”できるのではないかと考えるようになりました。
例えば、ベンチャーキャピタルのような金融の世界も、人々が集い、情報が交差し、新しい価値が生まれる「カフェ」のような場にすれば、もっと民主化が進むはず。「フィンテック」という言葉が生まれる前から、兜町で金融の民主化をテーマにしたビジネスサロンを手がけていたのも、その一環でした。私は直接のプレイヤーになるのではなく、社会に“きっかけ”という小さないたずらを仕掛ける。そしてムーブメントが起きたら、そっと離れていく。友人からは「『良かったね』じゃないだろう。当事者としてちゃんとやれよ」と叱られますが、それが私のアダプター(媒介者)としての役割だと考えています。
そんな私が、最終的に深く取り組むべきだと確信したのが「食」でした。インターネットとは異なり、食はライフスタイルそのもの。変化に時間がかかるからこそ、面白い。フードテックと言っても、食べ物そのものが変化するわけではなく、本質は変わりません。日本の多様な気候や土地、水質が育んだ食文化は、他国には決して真似できない深みと可能性を秘めています。
そして、そこに革命を起こす技術が、食材を長期間・高品質に保管できる「ZEROCO」です。人類は有史以来、食の腐敗という課題と戦い続けてきました。もし、その時間をピタッと止め、さらには空間を越えて自在に移動させることができたらどうでしょう。それは、食の世界における「どこでもドア」や「四次元ポケット」を手に入れるようなものです。これまで成し得なかった「時をとめる」「場所を移動する」という2つを、ZEROCOの技術は可能にします。
この革命的な技術を、私たちは自社で独占するつもりはありません。むしろ、異業種を巻き込んだ「コミュニティ」として共有し、活用されてこそ意味があると考えています。共に新しい価値を創造していきたいのです。例えば、アパレル企業が「ZEROCOがあるなら、うちも外食をやってみよう」と参入してくるかもしれません。
ビームスの設楽洋社長は、ファッションではなくライフスタイルを提案してきた方です。彼らが出版してきた本には、700人ものクリエイターの愛する食が紹介されています。それを「ビームスの700食」として商品化したら、どんな未来が生まれるでしょうか。ZEROCOを活用すれば、それが実現できるのです。
ZEROCOは、作りたての美味しさをそのまま「レコーディング」し、いつでもどこでも再現することを可能にします。食の可能性は、まだまだ無限に広がっています。技術だけでなく、それを“誰と共有するか”が、未来の鍵を握っているのです。