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2025

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    過去の意味は未来の生き方で書き換えられる

    #27過去の意味は未来の生き方で書き換えられる

    原石からダイヤへ

    私が長年続けてきた剣道には、「後の先(ごのせん)」と「先の先(せんのせん)」という考え方があります。「先の先」とは、自ら果敢に仕掛けて相手を圧倒する、絶対的な強者の戦い方です。一方で「後の先」は、相手の動きを冷静に読み、その力を利用して勝機を見出すスタイル。私はどうやら、「後の先」のほうが性に合っているようです。対峙する剣先を見つめながら、思考を巡らせ、相手の力を借りて返す一瞬を狙う。その緊張感と静かな駆け引きが、私は好きでした。

    この感覚は、私のビジネスや日々の判断にも通じています。時代の流れを読み、変化の兆しを捉え、適切なタイミングを見極めて動く。

    以前、アントレプレナー選手権の選考の場で日本IBMの元会長である北城恪太郎さんから「君はコミュニティを仕事にするというが、社会の変化に応じて、求められるコミュニティも変わっていく。君は、その変化に合わせて、自らの事業を常に変え続ける覚悟があるのか」という私の人生を貫く、鋭い問いをいただいたことがあります。その言葉は、私の胸に深く突き刺さりました。私は迷わず「必ずそうします」と即答しましたが、あの一言がなければ、変化を恐れずここまで事業を転換し続けることはできなかったかもしれません。

    以来、私は常に時代の変化を読み、適切なタイミングを見極めることを大切にしています。決して焦らず、しかし躊躇もせず。まさに「後の先」のように、静かに構えながら、勝負どころでは一気に踏み込む。そんな判断の軸を、私は剣道と出会い、そして人生の師の一言から学びました。

    しかし、時に「今、動かなければ!」と、脳天を打たれるような強い衝動に駆られる瞬間が訪れるのです。以前ある対談で、「なぜ楠本さんは、やると決めたらすぐに実行できるのですか?」と尋ねられたことがあります。私にとって行動の原理はシンプルで、「退路を断つ」こと。そうすれば、やるしかなくなる。だから私は、「飲み会の約束は契約書より重い」とよく言っています。自分で決めたことは、自分にとっての絶対的なルールにするのです。

    私のこうした、「決めたらやる」という考え方は、生まれ持った好奇心と、社会の荒波に揉まれて得た経験、その両方から培われたものです。後天的に私の価値観を大きく揺さぶったのは、新卒で入社した直後に経験したリクルート事件。この出来事は、社会には理不尽や不条理が存在するという厳然たる事実を全身で受け止め、「なんて自分は甘かったんだ」と痛感させられました。それはまるで、いきなり金づちで頭を殴られたような衝撃でした。毎日を生き抜くしかない。逃げられない現実の中で、一日一日を必死に越えていくしかない。目の前の課題から逃げることは許されない。その厳しさを社会人としてのスタートラインで学んだ経験は、非常に大きかったと感じています。

    もし、あのとき不動産の実務をもっと学べていたら、別のスキルが身についたかもしれません。でも、「あれさえなければ」とか「誰かのせいだ」と思った瞬間に、すべてが停止してしまう。それは行動できない自分を正当化する“できない理由”になってしまうからです。だから私は、どんな出来事も「良かった」と受け入れるようにしています。

    リクルート事件を「あのせいでチャンスを失った最悪の20代だった」と嘆き続けることもできます。そうなれば、その後の人生もずっとその過去に縛られてしまうでしょう。しかし、その後の未来を懸命に生き抜き、結果を出せば、「あの逆境があったからこそ今の自分がある」と、感謝することすらできるのです。

    年齢を重ねたことで、20代の頃に比べれば未来を多少は予測できるようになりました。でも、社会の動きは誰にも予測できません。結局は、後悔しないように今を動くしかないのです。トライアスロンを始める時も同じです。どんなコースで何が起きるかわからない、真っ暗な海に飛び込むのは何度やっても怖い。私には海で溺れたトラウマもあって、大勢の選手がもみ合うスタート直後は特に恐怖を感じます。それでも、飛び込む。その先にしか、未来はないからです。繰り返すうちに、未来のために努力することが楽しくなってきます。

    なぜなら、私は信じているからです。「過去の事実は変えられなくとも、その“意味”は、未来の自分によって書き換えられる」――と。同じ出来事でも、その意味は未来の行動次第で変わる。だからこそ私は、未来を恐れず、暗闇に飛び込む。過去は、未来によって書き換えることができるのですから。

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