死を前に恩師が教えてくれた真のリーダーの姿
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#18「レブロン大革命」で貫いた「名前を呼ぶ」コミュニケーション
浅見 隆 2025/11/18
私がレブロンに着任した当時、会社は30年間赤字という惨状でした。顧客や消費者からの信頼は失墜し、労働組合もあって社員のモチベーションは圧倒的に低下していました。「2年以内に黒字転換しなければ日本市場から撤退する」という、まさに崖っぷちの状況です。
しかし、その絶望的な状況下でも、再生の可能性は残されていました。レブロンは長い歴史を持つ世界の化粧品ブランドであり、日本市場での知名度は抜群に高い。ワールドワイドの財務基盤は強固で、組織内には優秀な人材がまだ多数残っていたのです。
私は、リーダーシップと変革について論じたジョン・コッターの「変革の8段階プロセス」を基本ベースに、再生戦略を実行することを決意しました。この変革の道筋において、私が掲げた目標は2つです。それは「継続的利益ある成長」を達成すること、そして「素晴らしい職場環境」を絶対に作ることでした。
まず早急に実施すべきは、すべての分野での大変革、すなわちイノベーションです。そして何より、落ち込んだ社員のモチベーションを上げることでした。
そこで、私は一つの制度を導入しました。それは「ボーナス制度」です。従来の外資系企業は年俸制が基本で、ボーナスはありません。部長以上は年俸にボーナスが含まれていましたが、これを一般社員も含めた全員に拡大したのです。たとえ10万円でも20万円でも、今までゼロだったものが支給されれば、誰だって嬉しいはずです。
しかし、モチベーションとは、上から「君たちはこうなんだ」と大上段に構えて説教しても上がりません。
部長以上の管理職は会社の損益計算書に興味がありますが、現場の若い社員たちは、そんなことより「毎日楽しく働けるか」「ワクワクしながら仕事ができるか」に興味があるのです。多くの経営者は、自分が興味を持つ売上や利益には注力しますが、「素晴らしい職場環境」や「ワクワク感」といったことには照準が合っていません。ここを見落としては、人の心は動かせないのです。
私は、クリスマスパーティーや、夏休みの特別休暇、お花見などを企画しました。当時、オフィスは半蔵門にあり、私の部屋からは桜の名所がすぐそこに見えました。そこで週に4回もお花見昼休みを企画したり、ボウリング大会を開いたりと、小さなことから社員のモチベーションを上げていきました。
この「レブロン大革命」を成功に導いた要因は、いくつかあります。
第一に、私自身が発揮した「熱く強いリーダーシップ」。第二に、役員や部門長クラスの「マネジメント力強化」。第三に、「明確な戦略」です。これらにものすごく注力しました。
第四に、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の一環として、全社的に「OGSM」を導入し、戦略からアクションプランまでを「可視化」したこと。
そして第五に、全員の「コミットメント」を徹底させたことです。「今年度の売上100を達成できるか?」と訊かれたとき、日本の社員は「なんとか100に向かって頑張りたいと思います」と答えがちです。しかし、それではダメなのです。「100、間違いなくやってみせます」と答える。極論すれば「達成できなければ腹を切る」くらいの意識、それがコミットメントです。「頑張る」といった曖昧な言葉は一切受け付けませんでした。私自身も、ニューヨーク本社に対して厳しくコミットメントしていましたから。
第六の要因は、「社員とのコミュニケーション」です。
「コミュニケーションが重要だ」などということは、二流、三流の会社でも言っています。しかし、その本質を理解しているリーダーは多くありません。それは、理屈の塊のような親父が多すぎるからです。
コミュニケーションとは、もっと単純なことです。
私は、ジョンソン・エンド・ジョンソンにいたとき、ある社員が「うちの社長が、私の名前を知っているんだ」と感激しているのを聞いたことがありました。人間関係を良くする最もシンプルな方法の一つは、「相手の名前を呼ぶ」ことです。
私はレブロン時代も含め、20年間、社長時代は、毎朝6時に会社に行っていました。4時45分に起き、車で出社し、まず自分自身のテンションを最高潮に上げるのです。リーダーである私がテンションを上げなければ、社員はついてきません。
そして夜7時。私がいると皆が帰りにくいので、私は先に退社します。社長室は一番奥にありましたが、そこから出口まで歩く間に、本社にいる社員一人ひとりに声をかけていきました。
「山田君、お先に」「吉田さん、お先にね」「市川さん、お先にね」。
ただ「皆さんお先に」と言って通り過ぎるだけでは、全くインパクトはありません。「〇〇君お先にね」と、一人ひとりの名前を呼んで声をかける。これだけで、社員のモチベーションは上がるのです。馬鹿にできません。
これは、中小企業のオッサン的な発想に見えるかもしれません。しかし、私のスポルディング時代の上司が実践していた「マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド」(歩き回って声をかけるマネジメント)や、かつてスコット・クリールマンという偉大な人物が、私のような若造に同じ目線でUFOの話を熱心にしてくれた経験が、私の根底にあります。
あれだけ偉い人が、決して威張らず、私個人に接してくれた。その記憶が今でも鮮明に残っています。
OGSMのような仕組みでのコミュニケーションはもちろん重要ですが、それ以上に、リーダーが人間としてどう振る舞うか。小さなことの積み重ねこそが、組織を、そして人を変えるのだと、私は強く信じています。


