人生は邂逅(かいこう)――出会いを運命に変える法
SHARE
#27報告書では見えない本音――私が店舗の普通の店員と食事をした理由
浅見 隆 2025/11/27
トップ・マネジメントの立場にいると、現場を見ていない人が実に多いことに驚かされます。部長や本部長からの報告書だけで満足し、すべてを把握した気になってしまう。しかし、それでは本当の世界は見えてきません。
私は「三現主義」――すなわち、「現場」に足を運び、「現物」を手に取り、「現実」をこの目で見る――ということを徹底してきました。
私が携わってきた一般消費財ビジネスの「現場」は、ドラッグストアやスポーツショップといった小売店です。そこに行かなければ、何も始まりません。売り場に行き、自社製品だけでなく、必ず「競合の現物」を手に取ります。すると、「競合の方がPOP(販促物)が分かりやすいな」といった、社内の会議室では決して見えない「現実」が分かるのです。
レブロン時代、私は8年かけて全国80数店舗あったソニープラザなどの販売店をすべて回りました。これも、現場主義の実践にほかなりません。
そして、私が現場で最も重視していたのは、店長と話すことではありませんでした。私が話を聞きたかったのは、そこで実際に商品を売ってくれている「一般の女性社員(店員)」の方々です。なぜなら、そこにこそ「本音」があるからです。
店長に話を聞くと、どうしても政治的な配慮が混じる可能性があります。しかし、現場の店員さんに「レブロンとロレアル、どっちが売れてますか?」と率直に尋ねると、「いや、最近はロレアルの方が売れてます」といった、耳の痛い、しかし貴重な現実が返ってくる。本社の部長からの報告とは、まったく違う景色が見えてくるのです。
私はこの現場主義をさらに一歩進め、懇親会を開く際も、取引先の社長や店長ではなく、あえて「現場の女性店員さん3人」といった形でお呼びしていました。
外資系メーカーの社長が、一介の店員を食事会に招待するなど、他の会社ではまずあり得ません。だからこそ、彼女たちは「あのレブロンの社長に招待してもらった」と、ものすごく喜んでくれる。それだけで、彼女たちはレブロンの強力な「ファン」になってくれるのです。
これが、私が「ファンマーケティング」と呼ぶものです。広告やPRといった「大上段」の戦略も重要ですが、こうした「草の根」の活動で、いかにファンを作っていくか。リーダーの役割が「フォロワーを作ること」であるならば、社外においては「ファンを作ること」がリーダーの仕事だと考えています。
戦略や理論といった形式知はもちろん重要ですが、一般消費財の世界では、こうした「人と人との接点」こそが、最終的な勝敗を分けるのです。
この「人と人との接点」を重視する姿勢は、社内でもまったく同じです。
ジョンソン・エンド・ジョンソン時代、私は社員のモチベーションを上げることが大きな目的の一つでした。そこで、まずフロアで「一番暗くて、口数が少なく笑顔を見せない人は誰ですか?」と何人かにヒアリングしました。すると、皆が口を揃えて「Hさんですね」と言うのです。
それ以来、私は「Hさん戦略」と名付け、あえて戦略的にHさんに声をかけ続けました。私は基本的に暗い人があまり好きではないのですが、そこは関係ありません。帰るとき、出かけるとき、必ず「Hさん、お先に失礼します」「Hさん、ちょっと出かけてきます」と、彼の名前を呼び続けたのです。
すると、ある雨の日、私がオフィスを出ようとした時、そのHさんの方から「社長、今雨が降ってますけど、傘はお持ちですか?」と声をかけてくれたのです。こんなことを言ったことのない人でしたから、私は「彼が心を開いてくれた」と確信しました。
これは、かつて私が飛行機の中でスコット・クリールマン氏から温かい声をかけられた経験とも通じます。理屈ではありません。
モチベーションを上げるとは、単に給料を上げたり、功績を認めたりすることだけではないのです。特に大きな会社では、「社長が自分の名前を覚えてくれている」という、ただそれだけの事実が、人の心を打ち、感激につながる。そうした小さなことの積み重ねこそが、組織を動かす最も重要な力なのだと、私は信じています。


