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2026

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    好奇心と素直な心が未来を拓く——ロングタームで舵を取る経営の本質

    #28好奇心と素直な心が未来を拓く——ロングタームで舵を取る経営の本質

    原石からダイヤへ

     私のキャリアを振り返ったとき、いくつかの大きな転機がありました。最初の挫折は学生時代、卓球で日本一の選手との圧倒的な実力差を悟ったときです。代々木体育館でシチズンの高橋浩選手と対戦した経験は、「自分は今後どの道に進むべきか」を深く考え直すきっかけとなりました。しかし、この挫折があったからこそ、私は「先を見る」こと、つまり現状を冷静に分析し、将来性のある分野を見極めていくことの大切さに気づくことができたのです。短期的な成否にとどまらず、長期的な視点で自分が社会にどんな価値を提供できるのか。その判断軸は、私の仕事への向き合い方の根底に深く根づいています。

     成長を支え続けるために、経営者として、そして一人の人間として最も大切にしてきたのが「好奇心」です。学生時代、NHKの『ラジオ英会話』で松本亨先生がおっしゃった“When a man stops being curious, he stops growing.”(人間は好奇心を失うと成長が止まってしまう。)という言葉は、今でも私の血肉となっています。振り返れば、私はペットフード業界の枠にとどまらず、人とペットの共生、補助犬、福祉など、様々な分野のイベントやセミナーに誰よりも貪欲に足を運び続けてきました。知らないことを「なぜ?」と問い続ける子どものような好奇心こそが、ビジネスを前進させる原動力なのです。

     物事の根幹には常にストーリーがあり、優れたブランドの背景には必ず創業者の熱い想いが存在します。マーク・モリス研究所のマーク・モリス博士が、腎臓疾患に苦しむ盲導犬「バディ」を救いたいという一心で療法食を開発した物語もその一つです。私はペットフードを単なる商品として売ったことはありません。それは「ペットの命と健康に貢献する仕事」であるという確固たる使命感を持って取り組んできました。だからこそ、業界全体の知識底上げを目指して、獣医師や動物看護師の先生方向けのセミナー活動に全力を注いだのです。その想いが実を結び、元日本獣医生命科学大学名誉教授・農学博士の本好茂一先生や前日本獣医師会会長の山根義久先生をはじめとする諸先生方と「日本ペット栄養学会」や東京大学名誉教授の辻本 元先生と共に「日本獣医内科学アカデミー(JCVIM)」の立ち上げをサポートできたことは私の誇りです。このことによって、私はペットのQOL(生活の質)向上に寄与できたのです。

     重要な意思決定を行う際、私が何よりも重んじているのは、京セラの稲盛和夫さんから学んだ「それが本当に善であるか、正しいことなのか」という問いと、松下幸之助翁が実践されていた「中長期(ロングターム)の視点」です。外資系企業のトップとして単年度の売上・利益目標を達成することは当然の義務でしたが、それと同時に300年後を見据えるような大局観を忘れてはならないと、日本の偉大な先人たちから教わりました。

     この「ロングタームの信念」が試されたのが、かつてアメリカ本社が動物病院向けの海外新ブランド「ヘルスブレンド」を日本に即座に導入するよう命令してきたときでした。私は日本の現場を守るため、世界で唯一、本社に対して明確に「ノー」を突きつけました。もし目先の命令に従って主力製品を切り替えれば、これまで「サイエンス・ダイエット」を信頼してくださっていた獣医師の先生方との絆が崩壊し、中長期的に甚大なシェアを失うと確信していたからです。本社のイエスマンにならず、現場の信頼を優先した結果、数年後にそのブランドは本国でも失敗に終わり、日本の市場は守られました。

     私は松下幸之助翁の「成功は成功するまでやり続けることだ」という言葉が好きで大切にしていますが、一方で経営者には「引き際を見極める、やめる決断力」も求められます。将来の社会情勢やマクロ環境の変化を予測したとき、これ以上資金を投入しても社会的な価値を創出できないと判断した事業からは、中長期の目標に基づき、思い切って撤退する決断も重ねてきました。世界情勢から日本の政治経済、そして自分たちの業界へと視野を狭めていく「マクロの視点」を持てたからこそ、ブレない意思決定ができたのだと感じています。

     吉川英治の「我以外皆我師也(われいがいみなわがしなり)」という言葉の通り、私はどんな人からも、たとえ街で出会うタクシーの運転手さんからであっても、素直な心で学びを得ようと努めてきました。先入観を持たずに物事を素直に見るという姿勢もまた、松下翁の「朝に夕に素直な心になろう」という教えに共鳴し、実行してきたものです。

     こうした経営の判断力や判断の幅は、20代の頃から持ち合わせていたわけではありません。数多くの魅力的な人々との出会い、そして本を読み、活字から学び続けることで、少しずつ磨かれていったものです。どんな時代であっても、本質を見極める素直な心と未知への好奇心を失わなければ、道は必ず開ける。私はそう信じて、これからも次なる使命に向かって歩みを進めてまいります。

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