トップとしての覚悟——「社員の生活を守る」仕組み...
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#11トップを走る者が陥る「驕り」の罠と、国境なきビジネスに不可欠な人間性
越村 義雄 2026/07/11
アジア太平洋地域の責任者として各国を統括していた頃、私はただ机の上で数字を見るだけでなく、自ら現地の動物病院やペットショップの店頭へと足を運んでいました。店舗を訪れては棚の並び方をチェックし、代理店のスタッフと一緒に商品の並べ替え作業を行ったりしました。
ある時、現地のスタッフが「高い棚の上が目立つと思って並べました」と言うのを、「いや、消費者が一番注目し、手に取りやすいのは、目線から少し下がった位置だよ」と自ら手を動かしてレクチャーしたこともありました。外資系企業において、売上と利益の拡大は絶対的な使命です。一般的に2年連続で業績を落とせば即座に更迭(クビ)される厳しい世界ですが、私は激しい為替の変動期を除いて、2年連続で業績を落とすことは一度もありませんでした。そして私の日本における最終年である2009年には、売上高269億円、営業利益90億円という、日本のヒルズの歴史で過去最高額を計上して退任の日を迎えたのです。
しかし、その後のヒルズの歴史は、外資系企業が陥りがちな典型的な罠にはまることになります。私の後を継いだ歴代の社長たち——アメリカ人、オーストラリア人、日本人、ヨーロッパ出身者という4名のトップは、「ここまでブランドが確立したのだから、わざわざ手間とコストをかけて大学や動物病院、ペットショップにサンプルを配ったり、大々的且つ地道なセミナーを続けたりしなくても売れるだろう」と判断し、有益なプログラムを次々と廃止してしまったのです。
これは、トップを走る者が最も警戒すべき「驕(おご)り高ぶり」の罠です。外資系の社長の多くは、前任者とは異なる独自の新しい方針を打ち出したいという欲求がどうしても強くなりがちです。しかし、そのためにすでに成功している本質的な仕組みまでも止めてしまったのです。その隙を突いて、競合他社が一気に大学や病院のネットワークへ入り込み、結果として、ヒルズは長年守り続けてきたトップの座から転落し、4人の社長たちは短期間での交代を余儀なくされました。
私がヒルズを離れて長い年月が経ちましたが、最近になって非常に嬉しい出来事がありました。現在新しくヨーロッパから赴任してきた新社長が、歴代の社長の中で初めて「かつての成功の歴史から学びたい。ぜひいろいろと教えてほしい」と、私のもとを訪ねてきてくれたのです。会社へ出向いて話をしましたが、彼は非常に素直で、日本語も懸命に勉強しようという熱意を持っていました。さらに今週には、彼のさらに上のグローバルマネジャーが来日し、私と昼食をともにしながら意見交換をする予定になっています。
この新社長の姿勢を見て、私は改めてビジネスにおける「人間性」の大切さを深く噛み締めています。外資系か日本企業かという国籍や文化の違いは、本質的な問題ではありません。最も大切なのは、他者から学ぼうとする謙虚な姿勢であり、松下幸之助翁が言われたような「素直な気持ち」で物事を見つめられるかどうかです。相手がどれほど大きな実績を持つ人間であっても、あるいは過去の歴史であっても、そこに敬意を払い、素直に耳を傾けることができる人間性。それこそが、時代を超え、国境を越えて、再び持続可能な成功を手にするための唯一の鍵なのだと確信しています。


