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2026

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    終末時計はなぜ進み続けるのか──科学者たちが鳴らす人類への警鐘

    終末時計はなぜ進み続けるのか──科学者たちが鳴らす人類への警鐘

    「終末時計」をご存じでしょうか。人類の絶滅を「午前0時」とし、それまでの残り時間を毎年発表しているものです。2026年、米国の原子力科学者会報は、終末時計を過去最短となる「残り85秒」に更新し、世界的な注目を集めました。

    人類の絶滅危機がどのように進行しているのか、どのような背景で時計を使って示すようになったのか、本記事ではその歴史を紐解いていきます。

    “午前0時”は人類滅亡の瞬間──終末時計とは何か

    終末時計とは、米国の「原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic Scientists)」が1947年から毎年発表してきた象徴的な時計です。この時計は「午前0時」を人類滅亡の瞬間に見立て、そこまでの残り時間が「あと何分(秒)」と表現されます。実際の時計が動いているわけではなく、「午前0時直前」を強調した象徴的な文字盤イラストが用いられています。

    この終末時計の針は、世界の情勢や技術の進歩、国際社会の緊張によって進んだり戻ったりします。冷戦時代、核戦争の可能性が高まれば針は前へ進み、緊張が緩和すれば後ろに戻る──人類の運命を映すように、時代ごとの危機を可視化してきました。

    誕生の背景にあった科学者たちの葛藤

    終末時計が生まれた背景には、「マンハッタン計画」(第二次世界大戦中にアメリカが主導した原子爆弾の極秘開発計画)と、科学者たちの深い葛藤がありました。シカゴ大学の研究者たちは、原子爆弾の開発を通じて人類史に消せない爪痕を残しました。1945年、彼らは核の脅威を社会や政治の側面からも真剣に考え、「フランク・レポート」と呼ばれる警鐘を米政府に提出しています。その内容は、核兵器の拡散競争を防ぐ国際合意の必要性や、原爆の無警告投下の再検討を訴えるものでした。

    しかし、当時の政府は既に原爆投下を決定しており、科学者たちの警告は無視されてしまいました。この苦い経験から、彼らは「科学が生み出す脅威」について社会に啓発し続ける責任を強く自覚するようになります。戦後、「シカゴ原子力科学者会」を結成し、その会報誌が後の「原子力科学者会報」へと発展。そして、1947年6月、表紙に初めて“終末時計”が描かれたのです。

    終末時計のデザインは、物理学者ハイマン・ゴールドスミスの依頼によって、アーティストのマーティル・ラングズドーフが手掛けました。冷戦の緊張が高まる中、核戦争の危機を社会に分かりやすく伝えるにはどうしたらいいか──。その答えが、午前0時直前の針を示した「時計」だったのです。ラングズドーフが考えたのは、複雑な核戦争の危険性を「一目で理解できる象徴」に置き換えることでした。最初に針が「7分前」に設定された理由については、象徴性や視覚的な印象を重視した結果だったとも伝えられています。その後は核兵器開発や国際情勢を受けて専門家の議論により時刻が決められるようになりました。

    時代ごとの危機の映し鏡

    終末時計の針は、一方的に進み続けるわけではありません。たとえば、1953年には米ソ両国の水爆実験によって「2分前」まで進み、世界が核戦争の淵に立たされました。一方、冷戦終結後の1991年には、米ソの核軍縮条約調印やソ連崩壊を受けて「17分前」まで大きく戻り、「人類史上最も安全な時」と評価されました。

    しかし、近年は再び危機感が高まっています。ロシアとウクライナの戦争、気候変動の深刻化、AIやバイオテクノロジーの暴走リスク、新型ウイルスのパンデミックなど、複合的な危機が人類を包み込んでいます。2026年には「残り85秒」と過去最短を更新し、今この瞬間も世界はかつてない緊張状態に直面しています。

    何をもって「秒針」は動くのか?──基準と批判

    終末時計の針の進退は、単純な数値データによって決まるものではありません。核兵器の保有数や国際条約の有無だけでなく、気候変動対策の進捗、AIの倫理的リスク管理、感染症の広がりといった多様な要素が総合的に評価されます。かつては核兵器だけが主な基準でしたが、1989年からは環境破壊やバイオテクノロジーの脅威も考慮されるようになりました。

    しかし、こうした決定プロセスはしばしば「科学的根拠に乏しい」「数字が恣意的」と批判されることもあります。なぜ「85秒」なのか、何をもって「5秒進める」のか、明確な計算式が存在しないためです。ですが、終末時計は毎年世界中のメディアで大きく報じられ、人々に強いインパクトをもたらしています。

    終末時計が持つ本当の意味──未来を予言するものではない

    終末時計は決して「未来を予言」するものではありません。むしろ、現時点で人類がどれだけ危機に向かって進んでいるか、その“警告灯”としての役割が重視されています。

    ケンブリッジ大学の人類存亡リスク研究センターでは、「終末時計は人類が直面しているリスクの大きさを示すのではなく、それに対して私たちがどれだけ適切に対応できているかを伝えるもの」とも解釈されています。つまり、終末時計の“針”を動かしているのは、危機の存在そのものではなく、それにどう向き合うかという人類全体の姿勢なのです。

    科学者から市民へ──社会啓発のメッセージ

    終末時計が誕生してからすでに70年以上が経過しました。当初は科学者が自らの責任感から社会に訴えかけるためのものでしたが、今では世界中のリーダーや市民が意識を共有するシンボルとなっています。誌面では、核軍縮や平和維持のための提言、気候変動対策の重要性などが繰り返し議論されてきました。

    また、核兵器廃絶を目指す国際科学者会議「パグウォッシュ会議」のような活動にもつながり、1995年にはノーベル平和賞を受賞するなど、その社会的影響力は計り知れません。“終末時計”は、社会を動かすきっかけとなる「問い」を投げかけ続けているのです。

    まとめ──終末時計が私たちに問い続けるもの

    終末時計の歴史を振り返ると、そこには科学者たちの強い責任感と社会への真摯な問いかけが込められています。針が進んだ時も、戻った時も、それは人類がどのように危機と向き合い、どんな選択をしてきたかの“記憶”でもあります。

    私たちが今できる行動──核軍縮への関心を持つこと、気候変動対策に参加すること、AIなど新技術のリスクを正しく理解すること──それが“時計の針”を少しでも戻す第一歩となるはずです。

    #終末時計#核兵器#核軍縮#国際情勢#国際安全保障#地政学リスク#グローバルリスク

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