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荀子の哲学――性悪説の真意を学ぶ
ビジョナリー編集部 2025/08/18
ビジネスの現場で、部下や取引先との信頼関係で悩むことは少なくありません。そんな時、「人を信じるべきか、警戒すべきか?」という議論が頭をよぎる方も多いでしょう。
この問いに、古代中国の思想家・荀子は大胆な考えを示しました。
「人間の本性は悪である。だからこそ教育とルールで善を育む必要がある」と。
荀子の「性悪説」は、単なる悲観論や人間不信ではありません。むしろ、現実を直視し、組織や社会をより良くするための力強いメッセージが込められています。
荀子とは何者だったのか?
荀子は、中国の春秋戦国時代末期に活躍した思想家です。この時代は、各国が激しく争い、社会秩序が崩れかけていました。人々は「どうすれば混乱を鎮め、安定した社会を築けるのか?」という課題に直面していたのです。
荀子は孔子の儒家の流れをくみつつも、より現実的・合理的な視点を持っていました。
荀子は50歳を過ぎてから学問の都・斉の稷下学宮で教鞭をとり、政治の実務にも携わりました。その後、政争に巻き込まれて職を失い、晩年は楚国で著述に専念します。
荀子の弟子には、法家思想を完成させた韓非子や秦の法整備に貢献した李斯がいて、後の中国に大きな影響を残しました。
荀子の哲学
1. 性悪説
荀子は「人間の本性は悪である」と説きました。
ここでいう「悪」とは、犯罪や反社会的な行動のことではありません。
「自分の利益を優先したい」「快楽を求めたい」「他人より得をしたい」
このような利己的な性質が、誰しも生まれつき備わっているという意味です。
そのため、正しい行動をするためには教育が必要であり、教育によって善に導くことが出来ると、荀子は説きました。
2. 「礼」の重視
荀子は「礼」が人の欲望を抑え、社会秩序の基礎として重要であると説きました。
ここでの「礼」とは、単なる挨拶や儀式作法にとどまらず、人間関係を調和させて秩序を維持するための行動規範全般を指します。
「礼は人為なり」
人間が知恵を絞ってルールをつくり、徹底することで秩序と安定の実現を目指す考え方です。
3. 学びの重要性
荀子は「知は学より始まる」「学は積むに如かず」と説きました。
日々の努力と継続的な学習こそが、自己を磨き、高い道徳性を持たせる道だと考えたのです。
これは、ただ知識を増やすだけでなく、自分の欲望や感情を客観的に見つめ、意識的に行動を改めていく、現代のセルフマネジメントにも通じる教えといえるでしょう。
荀子の哲学を活かすポイント
1. 人を動かすには工夫が必要
荀子の性悪説をビジネスに応用するなら、
「人は放っておけば自分の利益を優先する」
「一人ひとりの価値観や欲望はバラバラ」
という現実を、まずしっかりと認識することが出発点です。そこから工夫(教育)をすることで、どのように導くかを考えることが重要です。たとえば、
- 営業チームのノルマ未達
「やる気が足りない」と精神論で叱咤するだけでは解決しません。目標達成が個人にとっても組織にとっても利益になるように、評価やインセンティブを見直すことで、全体の推進力を高めます。 - 新人育成での離脱防止策
「社会人らしい行動を自然にできるはず」という思い込みは危険です。明文化されたルールや手順を示し、定期的なフィードバックと表彰制度を導入することで、成長速度を向上させます。
「ルール(礼)とモチベーション(恩賞)」をバランスよく設計することがポイントです。
2. 「学び」の仕組みを日常に組み込む
荀子が重視したのは「学びの継続」です。現代ビジネスでも、知識やスキルを日々アップデートすることは避けて通れません。
- 社員の勉強会
社員が自発的に学び、課題解決に取り組む文化を作るために、例えば「月1回の勉強会」や「新しい知見の共有会」を制度化し、組織全体のレベルアップとイノベーションの創出を目指します。 - 学び直しの支援
資格取得や外部セミナーへの参加など、継続的な学びをサポートする福利厚生を設けることで、社員の成長意欲を引き出す好循環が生まれます。
荀子の「学びは積むに如かず」という考え方は、現状維持は後退とも言い換えられるでしょう。成長に貪欲であり続けることが、競争力の源泉となります。
まとめ
荀子の「性悪説」は、「人を疑え」というメッセージではありません。
「人間の弱さや欲望は誰にもある。だからこそ工夫と努力で、それを克服し社会の力に変えよう」
という、混迷する現代社会・ビジネス環境を乗り越えるための哲学です。
- 人の弱さを前提に、ルールや仕組みを最適化する
- 継続的な学びと成長の文化を根付かせる
これらを意識することで、一人ひとりの「自発的な成長」と「安定した秩序」が両立した強い組織を作ることができるはずです。荀子の哲学が、あなたのビジネスに新たな視点をもたらすことを願っています。


