
対立こそ進化の源泉──ヘーゲルが伝えたかったこと
8/23(土)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/08/22
18世紀に、一人のドイツ人哲学者が認識論に革命を起こしました。その名はイマヌエル・カント。彼の考えは、天動説が常識だった時代に地動説を唱えた天文学者コペルニクスになぞらえて「コペルニクス的転回」と言われ、
「カント以前の哲学はすべてカントに流れ込み、カント以後の哲学はカントから流れ出る」
と言われるほどに、多方面に大きな影響を与えました。
カントの思想を知ることは、ビジネスマンが現代社会で迷いなく意思決定し、信頼されるリーダーになるための大きなヒントになります。本記事では、カントの哲学のエッセンスと、ビジネス現場での活用法をお伝えします。
カントの代表作は『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』の3つです。ここでいう「批判」とは否定することではなく、徹底的に考えるという意味です。カントは、「人は何を知ることができるか」「人は何をすべきか」「人は何を望むのか」を徹底的に問い直しました。
カントは、人が物事をどのように認識しているかを考察しました。
それまでは、人は世界を「そのまま」認識していると信じられていました。例えば、机の上に本があれば、そのまま「机の上に本がある」と認識する、という具合です。
しかし、カントは、人は世界を認識する時に、「感性・悟性・理性」というフィルターがかかっていると説きました。「感性」とは特徴を直感的にとらえる力、「悟性」とは情報を整理して判断する力、「理性」とは思考する力です。
机の上に本がある場合に、
という段階を経て認識をするとカントは考え、このことを
「認識が対象に従うのではなく、対象が認識に従う」
と表現しました。「認識が対象に従う」というのは世界をありのままに認識することであり、「対象が認識に従う」というのは世界を頭の中のイメージを通して認識しているということです。
この考え方は「コペルニクス的転回」と呼ばれています。天動説を地動説に転換したように、カントは見方を180度変えたのです。
当時、「経験主義」と「合理主義」という2つの理論がありました。
「経験主義」とは、知識は経験によって得られるという考え方です。対して「合理主義」とは、知識は理性によって得られる(人は生まれつき正しいことを考えられる能力が備わっている)という考え方です。
経験主義と合理主義の違いは、根幹にある価値観に見ることができます。経験主義には、見ることや触れることなどの経験を重視して、知識は経験や実験を通して増やしていこうとする価値観があります。一方合理主義には、考えることや理解することを重視して、論理的に考えれば知識を増やせるという価値観があります。
カントは、知識は経験に基づき、経験は理性によって整理されると主張し、経験主義と合理主義を統合させました。
カントは「定言命法と仮言命法」や「自律と他律」などから、「道徳とは何か」を考えました。
例えば、人が困っている時に、純粋に助けようとだけ考えて動いた場合は、定言命法に基づいて行動したと言えます。一方で、助ける時に見返りを期待していた場合は、動くのに見返りという条件があり、仮言命法に基づき行動したと言えます。
カントは、定言命法に基づいて行動することを「自律」、仮言命法に基づいて行動することを「他律」と言いました。そして「自律」とは欲望から自由になって行動ができる状態であり、「他律」とは欲望に支配されている状態であると説きました。
「人格」とは自律的に行動する人のことであり、カントは自分や他者の人格を手段として用いず、目的として扱うべきであると説きました。
例えば商売をする際に、消費者を利用して儲けようとすることは人格を手段にしており、消費者が豊かになることを目指す場合には人格を目的としてとらえています。
カントは人の認識の仕方に関して当時の常識を覆し、人は世界をありのままには認識できないことを示しました。
ビジネスの現場では、「常識」や「過去の成功体験」に縛られがちです。カントの認識論を意識することで、物事を多角的に見ることができます。
ビジネスにおいて利益を出すことは必要ですが、消費者を利用するのではなく、消費者のためになるかと考えてみましょう。無条件に動くことが、長期的に信頼と価値を生み出していきます。
カントの哲学は、現代ビジネスに通じる本質を鋭く突いています。
これらはいずれも、現代のビジネスマンに求められているものです。
カントの哲学を活かすことで、あなた自身の判断力と信頼、そして組織の成長力を大きく高めることができるはずです。
ぜひ、今日から「自分の認識を疑う」「自律的に行動する」ことを意識してみてください。あなたのビジネスにも「コペルニクス的転回」を起こせるかもしれません。