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「なぜテレビで見られない?」の裏側──WBC独占配信が示すメディアの構造変化
ビジョナリー編集部 2026/01/21
「どうしてWBCがテレビで見られないの?」と驚いた方も多いのではないでしょうか。2026年に開催される野球ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、米国の動画配信大手Netflixが日本国内で独占配信します。これまで国民的なスポーツイベントといえば、テレビの前で家族や友人と一緒に盛り上がるのが定番でした。しかし、時代は大きく転換点を迎えています。なぜ、地上波テレビがスポーツやエンタメの「主戦場」から退く状況となったのでしょうか。その裏には、私たちが普段意識しない「予算」という大きな壁が存在しています。
「無料で見られる」時代の終焉
かつて日本のテレビ局は、五輪やW杯、WBCといったビッグイベントの放映権を確保し、誰もが無料で視聴できる環境を守ってきました。2023年のWBCではTBSやテレビ朝日が日本戦を放送し、決勝戦は視聴率42.4%という驚異的な数字を記録しました。ところが、次回大会ではNetflixが放映権を獲得し、地上波での中継は姿を消すことになったのです。
Netflixの凄まじさは、投じる予算の規模に表れています。2023年のWBC日本国内放映権は約30億円だったと推定されていますが、次回大会では、放映権料が数百億円規模に達するとの報道もあり、従来とは桁違いの水準に跳ね上がったと見られています。テレビ局がこれだけの大金を単独で負担するのは現実的ではありません。なぜなら、テレビ局はスポンサー企業から広告費を集めて番組制作費や放映権料を賄う仕組みだからです。
一般的な日本のテレビ番組制作費は1時間あたり1,000万円前後です。高視聴率のドラマや大型バラエティでもせいぜい数千万円から1億円ほどです。WBCの日本戦を放映するだけでも1試合で4億円強が相場でしたが、現在では1試合あたり20億円規模に達し、広告収入だけでこの巨額を回収することはほぼ不可能なのです。
一方、Netflixのようなグローバル配信サービスは、会員からのサブスクリプション収入という安定した資金源があります。日本国内で1,000万人を超える会員がいると言われるNetflixの場合、単純計算ではありますが、WBCをきっかけに150万人の新規会員を獲得できれば、月額890円でも150億円の投資を回収できる計算になります。しかも、NetflixはWBCだけでなく、映画やドラマ、音楽といった多彩なコンテンツで視聴者を囲い込めます。WBCはあくまで「入り口」であり、長期的な会員獲得戦略の一環として巨額の放映権料を投入できるのです。
皮肉なことに、テレビ局が巨額の放映権料支払いを回避したことで、株式市場ではTBSやテレビ朝日の株価が上昇しました。短期的には「損失回避」として歓迎されましたが、長期的には地上波テレビの立場がますます弱体化する分岐点とも言えるでしょう。
グローバル市場を見据えた「制作力」の差
予算の差は、ドラマや映画などエンタメ分野でも顕著です。Netflixのオリジナル作品は、日本の地上波では考えられないほどの制作費と準備期間をかけています。俳優の山田孝之さんも、Netflixのイベントで「日本の俳優のギャラは安すぎる」との発言も話題になりました。実際、日本の地上波ドラマでは、主演クラスでも1話数百万円規模にとどまるケースが多い一方で、Netflixや韓国ドラマでは1話数千万円、時に1億円を超えることも珍しくありません。
Netflixの強みは、日本だけでなくアジアや欧米など「世界同時配信」を前提にしている点です。日本のテレビ局が国内市場だけで回収しなければならない制作費を、Netflixはグローバル市場から回収できます。だからこそ、作品ごとの予算規模も、俳優へのギャラも「世界基準」で設定できるのです。
また、日本の芸能界では、テレビCM出演が俳優の最大収入源となっており、ドラマの出演料は「知名度アップのための手段」とみなされてきました。しかし、グローバル配信サービスの隆盛により、俳優も「世界で活躍し、正当な報酬を得る」時代が到来しています。韓国の俳優が『イカゲーム』をきっかけにハリウッドからオファーを受けるように、日本の俳優にも国際的なチャンスが広がりつつあります。
スポーツとエンタメ、両方で進む「ネット独占」の現実
スポーツ中継だけでなく、ボクシングや格闘技、話題のドラマや映画でも「ネット独占」が進み、地上波では見られないコンテンツが増えています。スマートフォンやタブレットで、いつでもどこでも視聴できる利便性は大きな魅力ですが、その反面、「無料で見られる」機会は失われ、新たなファン層の獲得には課題も残ります。
テレビ局は広告収入の減少や視聴率低迷に直面しつつも、独自の配信サービス(たとえばフジテレビのFODなど)で巻き返しを図っています。しかし、Netflixなどグローバル勢の資本力とは依然大きな差があります。
イギリスや韓国では、国民的なスポーツイベントの無料中継を義務付ける「ユニバーサルアクセス権」が法制度化されています。日本でも同様の仕組みが必要なのか、それとも市場原理に委ねるべきなのか、議論が本格化しつつあります。「スターの活躍を誰もが見られる権利」をどう守るのか──。これは単なるテレビとネットの対立ではなく、社会全体の価値観の転換点とも言えるでしょう。
まとめ
私たちのエンタメ体験やスポーツ観戦のあり方が根本から変わろうとしています。Netflixのようなグローバル企業は、巨大な投資と長期的視点でビジネスを展開し、地上波テレビは従来型の収益構造から脱却できずにいます。
「なぜテレビで見られないの?」と疑問に思ったとき、その背景にある「予算」や「ビジネスモデルの違い」を思い出してみてください。この大きな転換期に、私たち視聴者自身も、「何をどう見たいか」を選ぶ力が、今まさに問われているのかもしれません。


