教育資金も「非課税運用」へ!こどもNISAの仕組...
SHARE
家族信託とは何か――認知症による資産凍結を防ぐ新しい備え
ビジョナリー編集部 2026/02/02
「もし親が突然、認知症になったら…」そんな不安を感じたことはありませんか?高齢化が進む日本において、今や他人事ではないこの問題。親の預金が引き出せなくなる、所有している不動産が売れなくなる、そんな “資産凍結” のリスクが現実に起きています。しかし、こうしたトラブルを未然に防ぎ、家族みんなが安心できる仕組みがあることをご存じでしょうか。それが「家族信託」です。
家族信託の仕組み
家族信託とは、信頼できる家族や親しい人に自分の財産管理を託し、その人が自分や家族のために財産を管理・運用・処分する仕組みです。正式名称は「民事信託」ですが、一般には「家族信託」と呼ばれています。
この仕組みには3つの役割があります。まず、自分の財産管理を託す「委託者」。その委託者から財産を託されて管理・運用する「受託者」。そして、その財産から利益を受け取る「受益者」。多くの場合、親が委託者兼受益者、子が受託者となるパターンが一般的です。
たとえば、認知症のリスクに備えたい高齢の父親が、息子に財産の管理を託すとしましょう。父親がまだ元気なうちに信託契約を結ぶことで、息子が父親のために財産を管理・運用し、必要なときは売却や出金も自由にできるようになります。これにより、本人の判断力が低下しても、財産が凍結されることなく、生活費や介護費用に充てることができるのです。
なぜ「家族信託」が注目されているのか
超高齢社会を迎えた日本。それに伴い、認知症患者の増加が社会の大きな課題となっています。もし認知症を発症すると、銀行口座は引き出し制限がかかり、不動産の売却や名義変更もできなくなります。
こうした資産凍結のリスクに対し、元気なうちから自分の意志で財産管理のルールを決めておけるのが家族信託の大きな魅力です。成年後見制度も同じく財産管理のための制度ですが、裁判所の監督が入り、資産運用や売却の自由度が制限されるなど、柔軟性に欠ける側面があります。一方、家族信託は、家庭ごとにオーダーメイドで設計できる柔軟さが特長です。
家族信託と従来の「相続」「成年後見制度」との違い
相続は、人が亡くなった後に財産や義務が相続人に引き継がれる仕組みです。遺言書があれば、誰にどの財産を譲るか指定できますが、それも「一次相続」までです。二次相続以降、つまり「自分の死後、妻が亡くなったら次は甥に」など、複数世代にわたる承継指定は原則できません。
しかし家族信託なら、「後継遺贈型受益者連続信託」と呼ばれる仕組みを使えば(=受益者を数世代先まで指定できる信託)「まずは妻、その後は子、さらに孫へ」というように、数代先まで承継先を指定できます。しかも、信託契約を生前に結ぶことで、認知症など判断能力がなくなった後も、当初の設計通りに財産管理や承継が進むのです。
成年後見制度との違いも見逃せません。成年後見人は裁判所が選任し、財産の管理や支出は厳しく監督されます。たとえば不動産の売却には裁判所の許可が必要であり、資産運用や生前贈与など積極的な管理はできません。しかも、司法書士など専門家が後見人になると毎月数万円の報酬が発生します。家族信託は、信託契約による家族同士の取り決めなので、受託者の報酬をゼロにすることも可能です。
どんな財産が信託できるのか
家族信託で託せる財産は多岐にわたります。最も一般的なのは、現金や預貯金、不動産(自宅や収益物件)、株式などの有価証券です。たとえば、親の預金を家族信託専用の「信託口口座」に移し、子が必要なときに生活費や医療費の支払いに充てたり、不動産を信託して、子がアパート経営や売却を柔軟に行ったりすることができます。
ただし、年金受給権や農地といった一部の資産は信託の対象外です。年金は本人だけが受け取れる権利なので、信託できません。農地の場合も、法律上の制約が多く、事前に宅地転用などの手続きが必要です。こうした点は、事前に専門家と相談することをおすすめします。
家族信託のメリット――自由度と安心感
家族信託の最大のメリットは、やはりその自由度と柔軟性にあります。たとえば、親が認知症で判断能力を失っても、受託者(子)が信託契約に基づき財産を管理し、親の生活や介護の資金を親の財産からスムーズに支払えます。家族が立て替える必要がなく、親のために親のお金を使えるのです。
また、不動産が兄弟姉妹の共有名義になっている場合、誰か一人でも判断能力を失うと売却や賃貸もできなくなります。家族信託を活用すれば、受託者に管理処分権限を一本化できるため、共有名義のリスクも回避できます。
さらに、遺産分割協議の負担も軽減します。家族信託で承継先を決めておけば、信託財産については相続人全員で協議する必要がなくなるため、トラブル防止にもつながります。
事業承継にも家族信託は有効です。たとえば、オーナー経営者が自社株式を信託し、後継者に議決権を託すことで、急な判断能力喪失があっても会社経営が滞りません。複数世代にわたる承継指定もできるため、老舗企業の資産管理にも活用例が増えています。
家族信託のデメリットと注意点
メリットの多い家族信託ですが、注意すべき点もあります。まず、信託契約の内容はオーダーメイドであり、法的な知識が不可欠です。特に不動産が関わる場合は登記手続きも必要となり、専門家のサポートが必須と言えます。司法書士や弁護士、税理士に依頼すれば報酬が発生し、設定時に30万円~60万円程度、複雑な信託だと100万円を超えるケースもあります。(費用は信託する財産の種類や数、承継設計の複雑さによって大きく変わります。)
また、家族信託は財産管理や承継に特化した制度であり、本人の医療や介護サービス、施設入居など生活に関する代理権(身上監護権)はありません。これらは成年後見制度でカバーされる領域です。家族信託と任意後見制度を併用するケースも少なくありません。
さらに、家族や親族間の信頼関係が前提となる制度です。受託者だけが財産を管理することで、他の相続人や親族から誤解や不信感を持たれることもあります。契約時には家族全員で十分に話し合い、納得して進めることが大切です。
どんな人に家族信託が向いているのか
高齢の親の認知症リスクに備えたい、障がいのある家族の将来を守りたい、収益不動産を円滑に管理・承継したい、事業承継をスムーズに進めたい――こうしたニーズを持つ方には家族信託が特に有効です。逆に、預貯金が少なく不動産を持たない場合や、すでに生前贈与で資産移転が済んでいる場合は必要性が低いかもしれません。
また、家族信託は「相続税の節税策」として直接の効果はありません。しかし信託後に資産運用や組み換えを行うことで、結果的に相続税対策につながることもあります。あくまで目的や家族の状況を整理し、どの制度が最適かを見極めることが重要です。
家族信託を検討する際に大切なこと
家族信託は、家族の「想い」と「資産」を次世代に引き継ぐための選択肢です。契約には、委託者(財産を託す人)、受託者(託される人)、受益者(利益を受ける人)全員の合意と信頼関係が不可欠です。「自分の財産を、誰に、どのように、どんな目的で託すのか」を家族でしっかり話し合いましょう。
また、契約は判断能力がしっかりしているうちに結ぶ必要があります。認知症が進んでからでは契約自体が無効になる恐れもあるため、早めの準備が肝心です。家族信託の設計や運用には、信託法や税務、民法などの知識が必要不可欠ですので、信頼できる専門家に相談することをおすすめします。
まとめ――家族信託は「家族のための安心をつくる」新しい仕組み
誰にでも訪れるかもしれない親の認知症や介護の問題。従来の「相続」「成年後見制度」だけではカバーしきれない悩みが増えている今、家族信託は“家族による、家族のための”財産管理の新常識となりつつあります。柔軟で自由度が高く、しかも家族の安心につながるこの仕組み。もし将来に不安があるなら、家族信託という選択肢について、一度家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。
きっと、あなたの家族の未来を守る大きな一歩になるはずです。


