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2026

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    なぜWBCは、ここまで“本気の大会”になったのか――世界を動かした野球の進化と挑戦

    なぜWBCは、ここまで“本気の大会”になったのか――世界を動かした野球の進化と挑戦

    今や世界中の野球ファンが熱狂し、日常生活の話題にまで昇華した「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」。しかしWBCが誕生した当初は、これほどまでに“本気”の戦いになると想像していた人は多くありませんでした。なぜWBCは各国が威信をかける舞台へ進化したのでしょうか。

    「世界一を決める必要があるのか?」から始まった大会

    WBCが正式に発表されたのは2005年、メジャーリーグのオールスターゲームが開催されたデトロイトの地でした。しかし、野球の母国であるアメリカでは、「そもそも世界一を決める必要があるのか?」という懐疑的な声が少なくありませんでした。米国では、MLBそのものが“最高峰”であり、わざわざ国別で競う意義に疑問を持つ関係者も多かったのです。

    しかし2006年の第1回大会で、その前提は大きく揺さぶられました。アメリカ代表は苦戦を強いられ、予選すら突破できなかったのです。決勝に進出したのは、メジャーリーガーの数は限られていた日本代表と、MLB経験者ゼロのキューバ代表。「MLBのスターがいれば勝つ」と思われていた予想が、見事に覆された瞬間でした。

    侍ジャパンの存在がアメリカを“本気”にさせた

    WBCの評価が徐々に変化していくなかで、重要な役割を果たしたのが日本代表の存在です。WBCの歴史を振り返ると、侍ジャパンの活躍が大会の価値を大きく押し上げてきたことは間違いありません。日本代表は第1回大会からベストメンバーを揃え、国の威信をかけて挑み続けてきました。2009年の第2回大会でも、アメリカ代表との激戦を制し、連覇を果たしました。こうした日本の本気度は、アメリカや中南米諸国にも次第に波及していきます。

    一方、アメリカ代表は長らくWBCを本気で戦ってきたとは言いがたい状況が続きました。MLBの公式戦を最優先とし、主力投手の多くがケガのリスクを理由に出場を辞退。選手たちも、WBCをシーズン前の「調整の場」と位置づけていたのです。

    変化のきっかけ――2023年決勝「大谷翔平vs.マイク・トラウト」

    アメリカの意識が変わった転機の1つは、2023年の第5回大会決勝でした。日本とアメリカが決勝で激突し、世界中が固唾をのんで見守るなか、マウンドには大谷翔平、打席にはマイク・トラウト。エンゼルスの盟友同士が国の威信を背負って対峙したあの場面は、野球史に刻まれる名シーンとなりました。

    大谷がトラウトから三振を奪い、日本の優勝が決まった瞬間。雄叫びを上げる大谷選手の傍らで、トラウト選手はヘルメットを外し、悔しさをにじませていました。試合後、彼は「これはエキシビション(調整や親善を目的とした試合)じゃない。本気で勝ちたかったし、本当に悔しい」と語り、アメリカ国内でも「次こそ世界一を」との機運が一気に高まったのです。

    MLB最高峰のメンバーが集結――「最強アメリカ代表」誕生へ

    こうした流れを受け、2026年大会(第6回)に向けてアメリカ代表は史上最強のメンバー編成に動き出しました。現役サイ・ヤング賞投手(年間最優秀投手)のタリク・スクバルとポール・スキーンズが出場を表明し、打者ではMVP経験のあるアーロン・ジャッジやブライス・ハーパー、捕手として史上最多の60本塁打を放ったカル・ローリーなどのスーパースターが次々と出場を決定。これまでリスク回避のためWBCを遠ざけていたトップ選手たちが、優勝という明確な目標のもと集結し始めているのです。

    監督のマーク・デローサ氏は「大谷翔平を抑えるために最善を尽くす」と公言し、左腕投手やトップリリーバーの招集にも積極的に取り組んでいます。アメリカ野球界がWBCを“最高の舞台”と認識し始めた証拠だと言えるでしょう。

    WBCが世界に与えたインパクトと野球の普及

    WBCの影響は日本やアメリカだけにとどまりません。第5回大会ではチェコ代表が初出場を果たし、消防士や教師など本業を持つ選手たちが大舞台で奮闘。その姿は「野球のワールドカップ」としてWBCが野球を新興地域にも広げるという意義を世界に示しました。

    MLB機構はWBCを野球普及の“切り札”と位置づけ、アジア・中南米だけでなくヨーロッパへの進出も強化。WBC出場は多くの国々にとって最大の目標となり、“野球後進国”のプレーヤーにも夢を与えています。こうした多様性と国際色の濃さも、WBCが“本気の大会”へと成長した大きな要因です。

    まだ“本気の頂点”には届いていない? 今後の課題

    一方で、WBCが“完全に本気”の大会となるためには、まだ課題も残っています。たとえば、開催時期がMLB公式戦の直前であるため、球団側が選手の出場や調整に制限を設けるケースがあることです。現役トップスター全員が万全の状態で揃うには、シーズン中開催や試合数の見直しといった改革が必要です。MLBも近年は公式戦の試合数削減案や新たなトーナメントの検討を進めており、今後の動向が注目されます。

    WBCが教えてくれた“野球の原点”と“未来”

    WBCの躍進は、野球という競技が持つ多様性や奥深さ、そして「国の誇りをかけて戦う」という原点の感動を私たちに改めて示してくれました。競技人口の減少や娯楽の多様化といった課題を抱えるなかで、WBCがもたらした熱狂と感動は、次世代の野球ファン創出や国際普及へと大きく貢献しています。

    WBCという舞台でどんなドラマが生まれるのか――その瞬間を見届け、野球の新たな可能性に期待を寄せていきたいと思います。

    #WBC#ワールドベースボールクラシック#WorldBaseballClassic#野球#侍ジャパン#MLB

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