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2025

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    街の小さな町工場が日本を動かす企業に――月島ホールディングス120年の歩み

    街の小さな町工場が日本を動かす企業に――月島ホールディングス120年の歩み

    産業の近代化を支えた、町工場の挑戦

    月島ホールディングスの歴史は、1905年、東京・月島に設立された小さな町工場から始まった。社名の由来ともなったその地で、機械修理を主としていた同社に大きな転機が訪れる。それが、当時輸入に頼るのが一般的だった製糖*1機械の国産化への挑戦だった。

    記事内画像 見事、製糖機械の国産化を成功させたことで、同社は業界内での存在感を一気に強めていくこととなる。近代的な精糖工場が次々と稼働し始めると、製糖機械の販売を拡大。さらに、そのプロセスで培った晶析、分離、乾燥といったコア技術は、のちの同社の成長を力強く支える原動力となるのであった。

    製糖*1:サトウキビなどの原料から砂糖をつくること。

    時代の要請に応え、化学・鉄鋼分野へ

    記事内画像 1930年代に入り、日本の産業が急速な近代化を遂げる中、同社は遠心分離機などの機器を提供することで、重工業や化学分野の生産拡大を支える重要な役割を担った。 特筆すべきは、第二次世界大戦後の食糧難の時代だ。政府が化学肥料の緊急増産策を打ち出すと、重要な肥料となる硫安*2のニーズが急増。すでに硫安製造装置で実績を積み上げていた同社には、発注が相次いで舞い込んだという。まさに、時代の要請が同社を次のステージへと押し上げたのだ。その後も、紙パルプ、繊維、樹脂といった新たな領域にも事業を拡大していった。
    この時期、同社は海外企業との技術提携にも積極的に取り組んだ。国内の工業地帯に製油所、製鉄所、発電所、化学工場などが続々と建設されることを見据えた動きであり、遠心分離機やガスホルダ、ろ過機、乾燥機といった装置の分野でニーズに応じた改良開発を進め、技術基盤をより強固なものにしていった。

    硫安*2:硫酸アンモニウム。窒素肥料の一種として広く利用される。

    社会課題の解決が、新たな市場を切り拓く

    戦後復興を経て、日本は急速な人口増加と都市化という新たな課題に直面する。衛生環境の整備や水資源の確保が急務となり、上下水道の普及が進む一方で、水処理過程で発生する「汚泥」の処理が問題となり始めた。当時、汚泥処理は埋め立てが主流であったが、環境負荷や埋立地確保の問題が顕在化しつつあったのだ。

    記事内画像 ここに、同社の新たなビジネスチャンスがあった。産業分野で培ってきた、ろ過、乾燥、焼却といった技術を汚泥処理に応用し、他社に先駆けてこの市場を開拓したのである。現在では、長年の技術とノウハウを生かし、上下水処理施設の設計から建設、維持管理までを一手に担う企業へと成長。「安全な水と資源の循環」を支える社会インフラの一翼を担う存在となっている。

    • ダイヤモンド・ビジョナリー 水環境事業の紹介ページ

    新たなる領域へ M&Aで描く成長戦略

    1980年代以降、地球温暖化などのグローバルな課題が顕在化し、快適な生活環境や脱炭素社会への貢献が求められるようになると、同社は「環境技術」を軸に、新たなステージへと進んだ。

    記事内画像 水インフラを支える水環境事業では、省エネ機器の拡販や、下水汚泥から再生可能エネルギーを創り出す事業で業界をリード。自治体の財政難や労働力不足といった課題に対し、民間企業のノウハウで老朽化した水インフラを支える官民連携事業にも積極的に取り組んでいる。

    記事内画像 一方、豊かで快適な暮らしを支える素材を生み出す産業事業では、製造業の生産性向上はもちろん、電気自動車向けリチウムイオン電池材料の製造など、環境負荷低減に資する技術で社会に貢献。さらに、M&Aを戦略的に活用し、化粧品・医薬といったライフサイエンス分野へも技術領域を拡大している。

    120年のその先へ

    2025年8月、月島ホールディングスは創業120周年を迎えた。産業機械の国産化で日本の発展に貢献するという創業者の夢から始まった歩みは、今や水環境と産業の両分野で社会インフラを支える企業へと進化した。 「『Made by Tsukishima』をさらに進化させ、脱炭素社会の実現、循環型社会の構築、そして快適で持続可能な暮らしの創造に挑み続ける」と同社は語る。120年の歴史は、ゴールではなく未来への出発点。その挑戦は、次の100年を見据えている。

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