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2025

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    世界が実践する人と野生動物の共存戦略――北米の厳格ルールと欧州の経済モデル

    世界が実践する人と野生動物の共存戦略――北米の厳格ルールと欧州の経済モデル

    野生動物と人間の距離が急速に縮まり、思いがけない事故や被害が国内外で増えています。日本でも熊被害等が深刻な課題となっていますが、世界ではすでにさまざまな対策が制度として根づき、「人と野生動物が共に生きるための仕組み」が確立されつつあります。

    今回は北米・欧州の取り組みをひもときながら、日本が学べる“共存のヒント”を探ってみましょう。

    北米の「厳格ルール」が生む人とクマの共存意識

    まずは、野生動物対策の先進地ともいえる北米の事例からご紹介します。アメリカやカナダの国立公園を訪れたことがある方なら、一度は「フードロッカー」を目にした経験があるかもしれません。キャンプ場や登山道の入り口、さらには駐車場まで、そこかしこに設置されている頑丈な保管箱。食料や匂いの強いものは、必ずここに入れることが求められています。

    その背景には「クマに人間の食べ物の味を覚えさせてはいけない」という強い危機感があります。一度でも人の食料を手に入れたクマは、山から下りて集落やキャンプ場に現れるようになってしまう。こうして「危険個体」と認定されれば、最悪の場合は駆除が避けられません。

    人とクマの双方にとって不幸な結末を防ぐため、北米の国立公園ではルールの徹底が当たり前になっています。パークレンジャーが定期的にパトロールし、違反があれば注意や場合によっては罰金も科されるほどです。実際、車内にクーラーボックスを置いていただけで罰金を受けた観光客もいるそうです。少しの油断が、動物と人間双方の「未来」を左右する。北米には、そのような強い自覚が根付いています。

    一方、日本の登山やアウトドア文化は「自己責任」が前提になっています。山小屋に「食料は片付けてください」といった注意書きがあっても、食料管理が徹底されている場所はまだ少数派です。夜のテント場で食べかけの菓子がそのまま残っていたり、車の中に食材を放置したまま登山に向かう人も少なくありません。

    北米レベルのルールをそのまま日本に導入するのは難しいかもしれませんが、現実にはクマが人里に現れるケースも増えています。「クマ鈴をつけていれば大丈夫」「食料はザックに入れておけば安心」という意識では、野生動物に人間が食料を持っていることを学習されるリスクを十分に防げていないのが実情です。

    獣害さえビジネスにする発想転換

    野生動物による被害、いわゆる「獣害」は日本だけの問題ではありません。ヨーロッパでも、シカが林業地の樹皮を剥いだり、幼樹の葉を食べてしまうことで森林経営に大きな影響が出ています。春先には、家畜用の牧草地にシカが押し寄せて一番草を食べつくすこともあります。

    しかしヨーロッパの林業家や農家は「獣害=絶対的な損失」とは考えていません。背景には、「狩猟権」という制度があります。土地の所有者には、そこに生息する動物を狩猟する権利、あるいはその権利をハンターに販売する権利が認められているのです。

    たとえばシカが増えすぎて被害が出た場合、所有者は「自分で駆除して被害をすぐに止める」か、「狩猟権をハンターに売り、猟期にまとめて捕獲してもらう」かを選択できます。狩猟期には捕獲数の上限が決まっているため、今すぐ駆除するのか、それとも猟期まで待って狩猟権を販売して収益を得るのか。経済的な判断が働くのがヨーロッパ流です。

    スウェーデンの「クマ狩り」

    もう一つ、ヨーロッパのなかでも特徴的なのがスウェーデンのクマ対策です。環境保護先進国として知られるスウェーデンですが、実は「スポーツハンティング」としてのクマ狩りが合法になっています。毎年、全個体数の20%近くが狩猟対象となることもあります。

    もちろん、無制限に狩っているわけではありません。狩猟期間は約1ヶ月と定められ、年間の上限頭数も厳格に管理されています。2025年には約3000頭いるとされるクマのうち、465頭の狩猟が認められました。

    背景には、古くから続くクマ狩りの文化や、ハンター団体による政治的な働きかけがあります。スウェーデン国内でも環境団体から「頭数管理の科学的根拠が薄い」という批判の声はありますが、クマによる人的被害は極めて少なく、現地当局は「頭数管理によって自然環境と人間生活の安定が図られている」と説明しています。

    近年では、海外からのハンターを受け入れる「クマ狩りツアー」もビジネスとして定着しており、3日間のツアーが約70万円で販売されるなど、観光資源としても注目されています。環境問題と経済、歴史的な文化など、さまざまな要素が絡み合い、スウェーデン独自の「現実的な共存モデル」が形作られています。

    世界の事例から見えてくる「共存の条件」

    ここまで、北米やヨーロッパの事例をみてきました。国や地域によって制度も価値観も違いますが、共通して感じるのは「人間の行動が野生動物の運命を左右する」という事実です。北米では厳格なルールで「人馴れ」を防ぎ、ヨーロッパでは獣害さえも資源と捉え直し、頭数管理と経済的インセンティブを両立させています。

    これらの仕組みを日本にそのまま持ち込むのは難しいかもしれません。しかし大切なのは、「一人ひとりの行動が、未来の共存をつくる」ことを意識することではないでしょうか。

    まとめ

    野生動物と人間の衝突は、「被害と対策」だけでは語りきれません。その土地の文化や経済、歴史、そして人々の意識が密接に関わっています。世界の事例を知ることで、「自分たちにもできること」が見えてきます。

    身近な自然と向き合うとき、海外の知恵と工夫も思い出してみてください。「自分の行動が、未来の共存をつくる」。その積み重ねが、動物も人も安心して暮らせる社会につながっていくのではないでしょうか。

    #野生動物#人と動物の共存#獣害対策#クマ対策#野生動物対策#サステナビリティ#自然共生#生物多様性#環境問題

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