
三井物産発ベンチャーが挑む「インナーケア市場」栄...
5/25(日)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/05/23
夏の暑い日に飲むキンキンに冷えたビール——その最高の瞬間を、将来気軽に味わえなくなる可能性がある、と聞いたらあなたはどう感じるだろうか。
これは決して大げさな話ではない。近年、地球温暖化による気候変動の影響で、農産物の品質の低下や、収穫量の減少などが懸念されているのだ(注1)。それにより、ビールの原料である大麦の品質が低下し、収穫量も不安定になると予測されている。
原料価格が上がれば、当然商品価格にも影響をもたらす。気候変動は遠い未来の漠然とした問題ではなく、「日常で購入するビールが高くなってしまう」という、消費者にとっても身近で深刻な問題なのである。
そのような事態を受け、いち早く新たな挑戦に取り組んでいるのが、サッポロビール株式会社である。
同社の気候変動シナリオ分析(注2)によると、地球温暖化により将来のビール原料の価格が高騰すると見られており、2100年時点で平均気温が4℃以上上昇する場合、同社における大麦の年間調達額は、2030年には約2億円、2050年には約5億円増加すると予想されている。これは、ビール業界全体にも、深刻な影響を与えうる事態である。
サッポロビール社は創業来、ビールの原料となる大麦やホップの研究・育種に注力している。“奇跡の麦"と呼ばれ、日本のビール大麦育種の礎となった『はるな二条』、生誕地である北海道空知郡の名前を冠し、世界のクラフトビール醸造家のあこがれのホップ『ソラチエース』、100年近い歴史を持つ日本の定番ホップ『信州早生』…など、数多くの自社開発品種を世に送り出してきた。
そしてこのたび、将来の危機を打破すべく開発したのが、気候変動に強い次世代大麦 である。
この大麦は、地球温暖化が生み出す「降雨量増加」という課題に対応した画期的な品種である。最大の特徴は次の2つだ。
この大麦は、令和4(2022)年に世界で初めて(注4)開発された「降雨量増加に耐えられる大麦『N68-411』」と、現在サッポロ生ビール黒ラベルにも使用されている、美味しさを長持ちさせる「LOXレス大麦(脂質酸化酵素を持たない大麦)」(注5)の2品種を掛け合わせることで誕生した。
「大麦の品種が違うと、味も変わってしまうのでは?」
と思う人もいるかもしれない。そこでサッポロビールでは、主力商品「サッポロ生ビール黒ラベル」で、この次世代大麦を使った試験醸造を行った。その結果、「従来の黒ラベルとの味覚的な類似性が高い」という検証評価が得られ、製品化への障壁が低いことが示されたのである。
実際に、この新たな大麦を使用した黒ラベルを注いでみると——。
きめ細かくクリーミーな泡立ち、爽やかでコクのある味は従来のまま。環境に配慮しながらも、美味しさを失うことはないという理想的な結果が実証された。
気候変動への耐性という環境面とビールの旨さという品質面の2つの持続可能な特性を兼ね備えた、いわば次世代の大麦の誕生である。
次世代大麦は、まさしく未来のビール造りの鍵を握る存在だ。サッポロビール社は、これからさらに品質向上と収穫量安定化を図りながら、国内外の育種パートナーとの連携を進めていくという。目標は、2030年までの新品種登録出願だ。
同社グループの掲げるサステナビリティ方針 「大地と、ともに、原点から、笑顔づくりを。」 のもと、重点課題に対する目標達成に向けて取り組みを進め、「持続可能な社会の実現」と「企業の持続成長」の両立を目指す。
そして、未来を見据えた挑戦を通じて、お客様が新たな楽しさ・豊かさを発見できるモノ造りを推進し、次世代のビールづくりへと貢献していく。