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「自由ほど不自由な時代」の仕事服を再定義する――AOKIホールディングス会長が語る「SUITing」構想と失敗から学ぶ「リカバリー」の組織論
ビジョナリー編集部 2026/05/28
スーツの枠を超え、エンターテイメントやブライダルなど「人々の喜びを創造する」事業を多角的に展開する株式会社AOKIホールディングス。コロナ禍での激動を経て、人々の働く環境や価値観が大きく変化する中、同社はいかにして新たな価値を生み出し続けているのか。ビジネスウェアのカジュアル化に対する解となる「SUITing(スーティング)」構想から、数々の新規事業を生み出してきた「リカバリー」を重んじる組織風土、そしてリアル店舗が担うエモーショナルな体験価値まで、青木彰宏代表取締役会長にその真髄を伺った。
振れ幅の大きい多角化経営の根底にある「つくる力」と「販売する力」
ファッションからエンターテイメント、ブライダルまで幅広い事業を展開されていますが、それぞれの事業におけるシナジーの核心はどこにあるのでしょうか。
AOKIグループのコンセプトは「人々の喜びを創造する」ことです。祖業であるスーツのファッションビジネスにおいて、私たちのコアとなる強みは 「スーツをつくる力」と「スーツを販売する力」 の2つに分けられます。「つくる力」とは、お客様の潜在的なニーズやウォンツを汲み取り、新しい価値を生む商品を作り続けること。そして「販売する力」とは、その商品の利便性や喜びを、おもてなしの接客を通じてお客様にしっかりとお伝えする力です。
ビジネスウェアを扱う「AOKI」や「ORIHICA」、複合カフェ「快活CLUB」をはじめとしたエンターテイメント事業の「快活フロンティア」、そしてウェディングを手掛ける「アニヴェルセル」。これら、全く異なる業態においても、根本にあるのはこの2つの力です。来店頻度を最大化するビジネスと、一生に一度という大きなビジネスでは、お客様が求めるものも全く異なります。経営陣にとってはバランス感覚が求められますが、結果として長くお客様に愛されるための企業としての経営力が鍛えられていると感じています。
コロナ禍の窮地から生まれた「パジャマスーツ」。顧客の声を素早く形に
価値観が大きく変化したコロナ禍において、御社が提供する価値はどのように変容してきたのでしょうか。
コロナ禍ではスーツの必要性が薄れ、大きな危機感がありました。その中でヒットしたのが「パジャマスーツ」です。当時はリモートワークが普及し、リラックスした服装で自宅で仕事をすることが一般的になりましたが、オンライン会議中の急な宅配便の対応などで「上半身はスーツでもボトムはスウェットで困った」といったリアルな悩みが現場の接客を通じて見えてきたのです。
まだ顕在化していないお客様の微妙な変化の兆しや絶妙な心情を、店舗のスタッフがスピーディーに吸い上げました。その情報をもとに仮説を立て、全国の店舗やカスタマーセンターに寄せられたお客様の声とすり合わせていく。そうして生まれたのが、スーツ屋だからこそできる「程よいきちんと感」と「快適な着心地」 を両立させたパジャマスーツでした。失敗を恐れず、圧倒的なスピードで新しい価値を形にする仕組みが機能した結果です。
働く服の「自由化」に迷うビジネスパーソンへ。「SUITing」という新たな提案
ビジネスウェアのカジュアル化が進む中、スーツが提供する価値はどのように変わっていくとお考えですか。
現在、ビジネスウェアのカジュアル化が進み、働く服のスタイルバリエーションが飛躍的に増えました。しかし、実際には 「自由ほど不自由なことはない」 というのが実情です。例えば、会社から「スマートスタイル」や「オフィスカジュアル」を指定されても、明確な定義がなく戸惑うお客様が店舗に数多く来店されます。日本の文化において、TPOや相手に合わせた服装を選ぶことは非常に重要ですが、毎日一から考えるのは大変です。
そこで私たちは、「同素材の一揃えの服」を 「SUITing(スーティング)」 という新しい概念として定義しました。そしてスーツやセットアップ1着を自由に着まわす「1×3(ワンクロスリー)」というコーディネート提案をしています。スーツのジャケットに綿パンを合わせたり、インナーを変えたりすることで、誰でも簡単に「程よいきちんと感」を保つことができます。ビジネスウェアの着こなしという「フレーム」を私たちが提供し、その中で自由を楽しんでいただく 。これが、これからの時代におけるスーツ屋の新たな役割だと考えています。
挑戦と「リカバリー」を後押しする、AOKIグループ独自の組織風土
長年キャリアを積まれる中で、ターニングポイントや「AOKIらしさ」を感じた瞬間についてお聞かせください。
私のターニングポイントは、若手時代に経験した「ORIHICA」の立ち上げです。右も左も分からない状態でしたが、挑戦させてもらいました。AOKIグループには、若手が挑戦できる 「いい環境」 、背中を押し、時に叱咤激励してくれる 「いい人」 、そして手の届く距離感で見守ってくれ、壁にぶつかった時には手を差し伸べてくれる 「いい規模」 が揃っています。
そしてもうひとつ重要なのが、失敗から立ち直る「リカバリー力」 を育む風土です。挑戦してうまくいかなかった時、どこが間違っていたのか仮説を立て、プロセスを見直して再挑戦する。小さな失敗を繰り返しながら反省改善を重ね、自身の学びにしていくこのリカバリーのプロセスこそが、人を最も成長させます。
これから社会に出る若手や中堅社員にも、 「精度よりも頻度」 を意識してほしいと伝えています。完璧な答えを探すのではなく、6割の出来でもいいから上司や周囲に自分の思いを言語化して発信する。その頻度を高めることが、自らのリカバリー力を鍛え、チャンスをつかむ原動力になるはずです。
リアル店舗でしか生み出せない「エモーショナルな感動体験」
デジタル化に力を入れられていますが、リアル店舗とデジタルは今後どのように役割を持ち、進化していくのでしょうか。
私たちは、リアル店舗とデジタルの「ハイブリッド」がこれからの最適解だと考えています。デジタルは、事前にお客様の好みやサイズといったデータベースを活用し、店舗で商品を購入し手ぶらで帰れるような「究極の利便性」を提供する基盤となります。
一方で、インターネットで完結できる時代にわざわざ店舗へ足を運んでいただくからには、そこでしか味わえない感動が必要です。商品の素材感、空間の演出、そして何より 「人による接客」が生み出すエモーショナルな体験 です。
例えば、「プロポーズをする予定で、どんな服で行けばいいか」と相談に来られたお客様に、スタッフが「この服で勝負しましょう!」と背中を押す。後日、そのお客様が「成功しました!」と報告に来てくださることもあります。服を通してお客様の人生の節目に立ち会い、想像を超える感動や自信を提供する 。
それこそが、AIやデジタルには決して代替できない、リアル店舗の最大の存在意義だと確信しています。


