「地球は青かった」人類初の宇宙飛行士ガガーリン、...
SHARE
アダム・スミスから学ぶ経済学の原点
ビジョナリー編集部 2025/08/26
「神の見えざる手」というフレーズを聞いたことはありませんか?
18世紀のスコットランドで活躍したアダム・スミスが生み出した考え方です。
アダム・スミスの思想は、今日のビジネスパーソンが直面する課題や意思決定に、実は直接的なヒントをもたらしてくれるからです。
ビジネスの現場で「どう利益を生み出し、どう組織を機能させるか」を考える際、彼のアイディアは今も色褪せることがありません。
アダム・スミスとはどんな人物だったのか
経済学と道徳哲学の2つの顔
アダム・スミスは、スコットランド出身の哲学者・経済学者です。
「経済学の父」と呼ばれ、現代経済学の土台を築いた人物でありながら、実は道徳哲学者としても大きな足跡を残しています。彼の生涯は、グラスゴー大学やオックスフォード大学での学びと教鞭に始まり、スコットランド啓蒙運動の中心的人物として活躍するものでした。その功績は、代表作『道徳感情論』と『国富論』という2冊の著書に濃縮されています。
スミスが生きた時代背景
スミスが生きた18世紀のイギリスは、産業革命や資本主義の夜明けを迎えた劇的変化の時代でした。政府が経済を厳しくコントロールする「重商主義」体制から、民間主導の産業資本主義へと舵が切られつつありました。
そのなかで、彼は「自由な市場経済」と「個人の自由な行動」が最大の豊かさをもたらすと説いたのです。
アダム・スミスの経済思想のエッセンス
「見えざる手」――個人の利己心が社会全体の利益へ
スミスの思想を語る上で外せないのが「見えざる手」の概念です。
見えざる手とは、各人が自分の利益を追求して行動することで、結果的に社会全体の富や調和がもたらされる現象を指します。
たとえば、パン屋が儲けるために美味しいパンを作る努力をすることで、消費者も美味しいパンを得ることができ、社会全体が満たされていきます。
分業による生産性の向上
スミスは、工場の生産工程を分析し、分業こそが生産性を飛躍的に高めると主張しました。
何でも一人でやろうとするのではなく、各自が得意分野に集中し、チーム全体でアウトプットを最大化する。
こうした働き方が、現代の企業や組織でも生産性を引き上げるコツとなっています。
重商主義批判と富の定義
重商主義とは、国が金銀を蓄積し、輸出を奨励、輸入を抑制することで国力を高めようとする考え方です。その結果、低コストで輸出をするために、労働者に過度な負担を強いる弊害が出ていました。
スミスは、富とは、金銀ではなく、国民が生産し享受する生活必需品や便益品の総量であると考え、だからこそ自由な分業と市場の拡大が必要であると説いたのです。
小さな政府の思想
スミスは「政府の関与は最小限にとどめ、市場のメカニズムに任せるべきだ」と考えました。
これは現代でも「小さな政府」論として、国家の経済介入の是非を考える際の重要な視点となっています。
スミスの経済思想の根底にある共感と道徳
ビジネスの現場で誤解されがちなのが、「利己心=自己中心的で何をしてもOK」というイメージです。しかし、スミスは『道徳感情論』で「人間には共感の能力がある」と説いています。
公平な観察者の視点
人は他人の目や評価を意識し、自分の行動が賞賛されるか非難されるかを判断します。そして、他人の気持ちと自分の気持ちを照らし合わせながら、他人の評価を意識することを繰り返すことで、「公平な観察者」という第三者の視点に立てるようになります。
この「公平な観察者」の意識が、極端な行動や不正を抑え、社会全体の秩序を守るとスミスは考えました。
ビジネスでアダム・スミスの考え方を活かす
分業と専門性を最大限に活かす
- 得意分野を徹底的に磨く
「自分の強みは何か?」を明確にして、その力をチームや会社の中で最大限発揮できる環境を作りましょう。 - 役割分担を明確にし、無駄な重複を減らす
例えば、営業・マーケティング・開発・バックオフィスなど各部門の専門性を活かすことで、全体の業績が加速します。
利己心を健全な競争と創造性に変える
- 「自分のため」も「社会のため」も両立できる
「自分のキャリアアップを目指す」「会社の利益を追求する」という行動が、最終的には顧客や社会全体への貢献につながります。こうしたマインドセットは、モチベーション向上にも直結します。 - チーム内のインセンティブ設計
「個人の成果がチームの成果に結びつく」報酬制度や評価制度を設計することで、健全な競争と協力が生まれます。
「見えざる手」に委ねすぎない、共感と倫理観のバランス
- 不正や倫理違反は長期的に淘汰される
短期的な利益のために顧客を欺く、同僚を利用する――こうした行為は一時的には得をするかもしれませんが、長期的には信用を失い、市場や組織から排除されるリスクが高まります。 - 「第三者の目」を意識することが重要
スミスが説いた「公平な観察者」を自分の中に持つことで、自分の行動が倫理的かどうかを常にチェックできるようになります。
注意点:アダム・スミスの思想を誤用しないために
「自由放任=何でもアリ」ではない
スミスの自由放任主義は、「ルール無用の弱肉強食」を推奨しているわけではありません。市場には信頼や倫理、法制度が不可欠であり、これらを無視した経済活動は社会的な制裁を受けることになります。
分業の弊害にも目を向ける
分業は生産性を高める一方で、過度な分業は「全体像が見えなくなる」「やりがいを感じにくい」といった弊害を生みます。
ビジネス現場では、分業のメリット・デメリットをバランスよく管理し、時には「ジョブローテーション」や「越境的な学び」の機会を設けることも重要です。
市場の失敗や格差への配慮
スミスの理論が主張する「自由な市場」が常に最善とは限りません。
現代社会では、環境問題や所得格差など、市場原理だけでは解決できない課題も多く存在します。
こうした場合には、適切なルールや社会的なセーフティーネットも必要となります。
まとめ
- 分業と専門性を活用し、組織の生産性を最大化する
- 個人の利己心を、チームや社会の利益に結びつける仕組みを作る
- 倫理や共感も忘れず、信頼を築くことを優先する
アダム・スミスが18世紀に示した知見は、現代のビジネスシーンでも通用します。
複雑化・グローバル化する現代社会だからこそ、「自分の強み」「分業の力」「公平な観察者としての自分」を意識し、健全な競争と協力を両立させることが、成功への近道です。
ぜひ、今日からあなたのビジネスにスミスのエッセンスを取り入れてみてください。きっと、組織も個人も、より豊かで持続的な成長を実感できるはずです。


