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2025年施行「スマホ新法」とは何か――便利になる一方で増える“自己責任”
ビジョナリー編集部 2025/12/24
2025年12月18日、日本のスマートフォン市場に新しい風が吹き込みました。「スマートフォンソフトウェア競争促進法(通称:スマホ新法)」が全面施行されると発表されたからです。
この法律は、日本のスマホユーザー全員に影響を及ぼします。日々何気なく使っているスマートフォンの“当たり前”が、確実に変わろうとしています。しかし、その変化は便利になるだけではなく、思わぬ落とし穴も待ち受けているのです。
今回は、スマホ新法で何がどう変わるのか、そしてどんな点に注意が必要なのか。新しい時代のスマホライフを安心して楽しむために、具体的な事例や実際に起こり得る問題も交えながら、わかりやすく解説します。
「スマホ新法」とは? その目的と背景
「スマホ新法」の正式名称は「スマートフォンソフトウェア競争促進法」です。この法律が目指すのは、スマートフォン市場における公正な競争環境の実現です。
背景には、アップルやグーグルといった巨大IT企業が、スマートフォンのOSやアプリストア、ブラウザ、検索エンジンといった領域で大きなシェアを握り、事実上の“寡占”状態となっている現状があります。たとえば、iPhoneユーザーはアプリのインストールがすべてApp Store経由、AndroidユーザーはGoogle Playが中心となり、課金システムについても、長らく両社のサービスに依存する形が続いてきました。
こうした構造に対しては、「本当に自由な選択肢があるとは言えない」「手数料が高すぎるのではないか」といった指摘が、国内外で以前から上がっていました。実際、ヨーロッパではEU(欧州連合)を中心に、この問題を早くから課題として捉え、巨大IT企業の影響力を抑え、競争を促すための制度整備が段階的に進められてきました。
また近年では、韓国が2022年からアプリ内課金における外部決済を認めるなど、アジアの一部の国や地域でも分野を限定した対応が始まっています。スマホ新法は、こうした海外の動向も踏まえながら、日本の市場環境に即した形で競争促進を図ろうとするものです。
スマホ新法は、そうした海外の先行事例も踏まえながら、日本のスマートフォン市場においても競争環境を整える必要があるとして制定された法律です。
何がどう変わる? スマホ新法で変わるポイント
スマホ新法の施行によって、スマートフォンの使い方はどのように変わるのでしょうか。主な変化は、大きく分けて3つあります。
1. ブラウザや検索エンジンを“自分で選べる”時代へ
これまでiPhoneならSafari、AndroidならChromeが“当たり前”のように使われていました。これは単なる利用者の好みというよりも、端末やOSの設計、そして事業者間の契約によって、事実上それらのブラウザが標準として義務付けられてきた側面があるためです。しかし、スマホ新法の施行によって、端末の初期設定やOSアップデート時に「どのブラウザを使うか」「どの検索エンジンを使うか」を自分で選ぶ画面(=チョイススクリーン)が表示されるようになります。
たとえば、Microsoft EdgeやFirefox、BingやYahoo!検索など、複数の選択肢から好きなものを選べます。もちろん、途中で変更することも可能です。
ここで注目したいのは、「自分に合ったサービスを選べる」ことで、より快適なスマホ体験が得られる可能性が広がるという点です。AI検索機能を持つ最新の検索エンジンを使ってみたり、プライバシー重視のブラウザを選ぶことも自由なのです。
2. アプリストアや決済方法の“開放”で広がる選択肢
これまではiPhoneならApp Store、AndroidならGoogle Play以外からのアプリ入手はほぼ不可能でした。これは、iPhoneではOSの設計上、App Storeを経由しないアプリ配布が原則認められておらず、AndroidでもGoogle Playを利用するための契約条件によって、他のアプリストアの利用は事実上困難な状況が続いてきたためです。新法施行後は、これに加え「他社が運営するアプリストア」や「外部の決済サービス」も利用できるようになります。
また、スマホ新法では、アプリの配布経路とは別に、アプリ内で利用者がどの決済サービスを使うかについても、大きな転換が起きます。これまでApp StoreやGoogle Playを通じて配布されるアプリでは、アプリ内課金に際して、AppleやGoogleが指定する決済システムの利用が事実上義務付けられていました。開発者が外部の決済サービスを案内したり、別の支払い方法へ誘導したりすることは、原則として認められていなかったのです。
スマホ新法の施行後は、こうした制限が見直され、アプリ開発者は自社の決済サービスや、クレジットカード会社、電子マネー事業者など、複数の決済手段を提示できるようになります。利用者にとっても、「どこで、どの方法で支払うか」を自分で選べる余地が広がることになります。
たとえば、App Store以外のストアからアプリをダウンロードしたり、アプリ内課金の際にアップルやグーグル以外の決済サービス(PayPayやクレジットカード会社の独自決済など)を選択できるようになります。これにより、アプリ開発者が負担していた最大30%もの手数料も引き下げられる見込みです。
3. デベロッパーにも広がる自由と挑戦の場
アプリやサービスを提供する企業・開発者は、App StoreやGoogle Play以外のストアを運営したり、独自の決済システムを導入したりすることが可能になります。これによって、小規模なスタートアップや新規参入企業にもチャンスが広がり、ユニークなアプリやサービスが生まれる土壌が整っていきます。
実際に、すでに大手ゲーム会社が外部決済を導入し、利益率の向上を実現した事例も生まれています。今後は、これまで以上に多彩なサービスがスマホ上で選べるようになるでしょう。
新たな自由の裏に潜む「3つの注意点」
「選べる範囲が広がる」「料金が下がるかもしれない」と聞くと、良いことづくめに思えるかもしれません。しかし、自由には必ず「責任」と「リスク」がついて回ります。スマホ新法で特に注意したいポイントを、ここでしっかり押さえておきましょう。
1. セキュリティリスクの増大
公式ストア以外のアプリストアや、外部決済サービスの導入が進むことで、セキュリティ面のリスクは高まります。
例えば、これまでのApp StoreやGoogle Playでは、アプリ審査が厳格に行われてきました。マルウェアや詐欺アプリ、不正なコンテンツが排除されていたのです。しかし、他社が運営するストアや外部の決済サービスでは、必ずしも同じ基準・審査体制が担保されるとは限りません。
欧州でスマホ新法に先行した法律である「デジタル市場法(DMA)」では、実際に施行後、マルウェア被害や違法アプリの流通が急増したという報告もあります。日本のスマホ新法でも、セキュリティやプライバシー保護を目的とした例外規定や「アプリ公証(Notarization)」(※アプリ公証の審査実務はOS提供事業者(Apple・Google)が担うが、その判断基準や運用が競争を不当に制限しないよう、日本政府(公正取引委員会など)がルール設計と監督を行う仕組みとなっている。)制度など、安全対策は盛り込まれていますが、注意は必要です。
また、サイドローディング(公式ストア以外からのアプリインストール)が普及すると、ユーザー自身が“本当に安全なアプリかどうか”を見極めなければならない場面も増えていくでしょう。特に、スマホ操作に不慣れな方や、子ども・高齢者の利用には十分な注意が必要です。
2. プライバシーと青少年保護――「保護の壁」はどうなるか
公式ストアや既存のブラウザエンジン(iPhoneならWebKit)には、青少年向けのフィルタリングや個人情報保護の仕組みが組み込まれています。今後、他社製のブラウザや新たなストアが登場することで、従来のフィルタリング機能やプライバシー保護が効かなくなるリスクも指摘されています。
たとえば、子どもが有害コンテンツや違法アプリにアクセスしやすくなったり、個人情報が複数の事業者に分散管理されて流出リスクが高まる可能性もあります。
このため日本のスマホ新法では、青少年保護やプライバシーの観点から、外部決済を使う際の「保護者承認」や、13歳未満の子ども向けアプリへの外部リンク制限など、きめ細かなルールが設けられています。しかし、運用がスタートしてみなければ、どの程度実効性があるかは未知数です。
3. 決済・契約・サポートの「複雑化」と「自己責任」
選択肢が増えることで、どの決済方法を選べば良いのか、どこのストアからアプリをダウンロードしたのか、万が一トラブルが起きた際にどこに問い合わせれば良いのか——こうした“管理の複雑化”が新たな悩みの種になるかもしれません。
今後は、「外部ストアで購入したアプリの返金は、ストア運営会社が個別対応」といった具合に、サポートの窓口も分散します。
たとえば、外部決済で購入したアプリで返金トラブルが発生した場合、AppleやGoogleのサポートは対応してくれません。消費者自身が契約や決済の管理、リスクの判断力を問われる場面が増えるでしょう。
欧州DMAとの違い――日本独自の“安心”への配慮
先にも触れましたが、スマホ新法に先行した欧州の法律が「デジタル市場法(DMA)」です。DMA施行後、EUでは新機能の提供が遅れたり、マルウェア被害や違法アプリの流通などの様々な問題も起きています。
日本のスマホ新法は、こうした欧州の事例を踏まえ、より慎重な設計がなされています。たとえば、対象となるサービス範囲をスマホのOS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジンに限定し、SNSやクラウドなどは含まれていません。そのため、実際に使い勝手が大きく損なわれる心配は少ないといえます。
また、セキュリティやプライバシー、青少年保護のための例外規定が盛り込まれている点も特徴的です。AppleやGoogleが一方的に機能制限を主張し、競争原理を骨抜きにするのを防ぐため、規制当局の厳しい審査が行われることになりました。
さらに、アプリの「公証」サービスを導入し、公式ストア以外のアプリストアでも安全性を担保する仕組み作りが進んでいます。これにより、利用者保護と自由な市場競争のバランスを取ろうとしているのです。
これからのスマホ活用
スマホ新法施行後は、ユーザー自身が「どのサービスを選ぶか」の主体的な判断を求められる時代に突入します。
「どのブラウザが良いかわからない」「みんなと同じでいい」という人も多いでしょう。そうした場合は、iPhoneならSafari、AndroidならChrome、検索エンジンはGoogle、決済は公式ストアを使う——従来通りの選択をしてもまったく問題ありません。
一方で、「より安く、便利に」「最新の機能を早く使ってみたい」と感じる人は、新しいストアや決済サービス、AI検索エンジンなどを積極的に選ぶことで、スマホの可能性を広げることができるでしょう。
ただし、その分リスクも増えます。自分が何を選んだのか、どこに責任があるのかをしっかり把握しておくことが大切です。特に、お子さんや高齢者がいるご家庭では、フィルタリングやサポート体制の変化に十分注意してください。
まとめ
スマホ新法は、一見すると「ユーザーのための自由な競争」を実現する法律に見えます。しかし、その裏には「利用者の自己責任」がこれまで以上に重くのしかかる現実があります。
安心・安全なスマホライフを守るために、これから私たちに求められるのは
- 「新しい選択肢が増えたことでのメリットとデメリットを冷静に見極める力」
- 「セキュリティやプライバシー、サポート体制の変化への柔軟な対応」
- 「家族や身近な人たちとリスクや情報を共有し合う姿勢」
です。
「知って選ぶ」ことで、便利さも安心も両立できる時代はすぐそこまで来ています。スマホ新法の施行を機に、ぜひ一度ご自身のスマホ環境を見直し、最適な選択を考えてみてはいかがでしょうか。新たな自由と責任が、私たちのスマホライフをもっと豊かにしてくれるはずです。
※ 記事内の情報は2025年12月時点のものです。


