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2026

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    【独自レポ】「損得」より「善悪」、「善悪」より「美醜」。吉野家HD河村会長が語る、サステナビリティと経営の美学

    【独自レポ】「損得」より「善悪」、「善悪」より「美醜」。吉野家HD河村会長が語る、サステナビリティと経営の美学

     2026年2月3日(火)、一般社団法人日本メンズファッション協会(以下、MFU)主催の「第99回ファッションマーケティング研究会」が原宿・東郷記念館にて開催され、定員80名のところ、120名弱のビジネスリーダーたちが参集した。

     今回の講師は、吉野家のアルバイトから東証プライム上場企業のトップへと登り詰め、2025年にはベストドレッサー賞も受賞した株式会社吉野家ホールディングスの河村 泰貴取締役会長。

     講演のタイトルこそ「バイトから会長までのすべての視座を体験してみて学んだことのいくつか」だったが、それには「“損得”より“善悪”、“善悪”より“美醜”」という挑戦的なテーマが掲げられていた。講演では、サステナビリティマネジメントの本質と、一アルバイトが社長に至るまでの軌跡から得たリーダーシップ論が語られた。その熱いメッセージを詳報する。

    主催者挨拶:社会貢献、平和、サステナビリティ。MFUが描く「期待以上」の未来

     研究会の冒頭、MFUの八木原 保理事長が登壇。昨年度の各事業が経済産業省や業界から高い評価を得たことに触れ、感謝を述べた。

     「昨年のMFUは『社会貢献』『世界平和』『持続可能な社会の進展』を3本柱に据え、ベスト・ファーザー賞やベストドレッサー賞など、多くの認知度の高い事業を展開してまいりました。次年度はさらに磨きをかけ、皆様に期待以上の価値を提供していきたい」と語った。

     また、本日の講師である河村会長について、「吉野家の再建を担い、常に挑戦を続ける河村会長の生き様から、これからのビジネスやサステナビリティのヒントをつかんでほしい」と期待を込めた。
    記事内画像 ▲「講師の話から少しでもビジネスのヒントをつかんでほしい」と語ったMFU理事長の八木原 保氏。

    偶然を必然に変えた、吉野家との「寝坊」から始まった出会い

     河村会長の講演は、自らのキャリアの原点である「アルバイト時代」の回顧から始まった。

     「かつては努力が報われないことに燃え尽き、大学も中退したフリーターでした。吉野家で働くことになったのも、実は他の中華料理店の面接を寝坊し、そのことを叔母に咎められ、しぶしぶ出かけた道すがら、偶然オレンジの看板を見つけたから。人生、何があるかわからないな、と思います」

     しかし、その「偶然」を「天職」に変えたのは、河村氏が抱いた強烈な誇りだった。

     「吉野家の牛丼を370円で提供している。このスピードと味、価値は、 お客様の損を自分たちの得にしていない 、と心から信じられた。この後ろめたさのない仕事こそが、長く続いた最大の理由でした」

     24歳で正社員になった際、高卒の新卒が自分の歳になるまでには6年あると考え、「自分は彼らの6倍頑張って初めて同じスタートラインに立てる」と決意。マニュアルを丸暗記し、ページまでも完璧に覚えきって自らの居場所の意味を問い続けた結果、38歳ではなまるうどん社長、そして吉野家ホールディングスのトップへとつながった。

    飲食業の再定義:マックジョブからの脱却と「ダチョウ」への挑戦

     河村会長は、飲食業が世界的に「マックジョブ(McJob;低賃金・低スキルの単調な仕事)」と蔑まれている現状に対し、強い憤りを露わにした。

     「人の満足がその場でわかる素晴らしい仕事なのに、地位が低い。これを打破するためには、飲食業を再定義し、差別化を図る必要があります」

     その差別化の鍵として、独自の品種(種)、機械、商標の3点を挙げた。中でも注目を集めたのが、新規事業である「ダチョウ事業」だ。

    • 環境負荷の低減:牛肉に比べCO2排出量が少なく、飼料効率が極めて高い。
    • リスク分散:牛肉相場に左右され続けてきた歴史への挑戦。
    • 美と健康:肉だけでなく、親和性の高いオイルを用いたスキンケア商品やレザー製品への展開。

     
    「牛肉で125年商売をしてきたからこそ、地球環境に責任を持つ。これが我々のサステナビリティです」と語った。 記事内画像 ▲「『マックジョブ』という言葉を知った時、あまりの怒りに、失神しそうになりました」と語る河村会長。

    リーダーの決断基準:「美醜」を物差しにする理由

     講演のクライマックスは、リーダーシップにおける意思決定基準について。河村会長は、意思決定を「判断(論理的に決まること)」と「決断(右か左か正解のないこと)」に分けた。

     「リーダーの仕事は『決断』です。そこには常に説明責任が伴います。私が決断する際、自分に問いかけるのは 『損得より善悪、善悪より美醜』 という基準です」

     なぜ「美醜(かっこいいか、みっともなくないか)」を重視するのか。

     「現場の2万人の仲間が、共感を持ってついてきてくれるのは、みっともないことをしない会社だからです。短期より長期、楽な方よりしんどい方を選ぶ。その姿勢こそが、組織に誇りをもたらします」

     最後に「良きリーダーである前に、良きフォロワーであれ」との言葉で締めくくり、会場は大きな拍手に包まれた。

    その時必要な情報が書かれた本は、必ず光ってみえる

     その後、質疑応答の時間が設けられ、手が挙がった。「信号で立ち止まり、吉野家の看板を見てそちらに行かれたってすごい! と思いました。まさに偶然と必然ですね。その時行くはずだった中華料理屋さんはその後、どうされたのでしょうか(笑)」という質問だ。

     河村会長は、「皆さんにもきっとあると思いますが、本当に偶然とは思えない人や書籍との出会いは何度もあります。例えば、要所で、解決したい問題のことを真剣に考えていて本屋に行った時に、本が光って見えることがあるのです。手に取ると、まさに今の自分が欲している情報がそこにある、みたいなことが何度かありました。中華料理屋は、10年ほど前にはまだありました(笑)」、そうユーモアたっぷりに答え、研ぎ澄まされた感覚を持つ一面をのぞかせた。

    おわりに

     河村会長の講演を通して一貫していたのは、サステナビリティを経営者自身の美意識と覚悟の問題として捉える姿勢だった。

     「損か得か」ではなく「善か悪か」、さらにその先に「美しいか、醜いか」を問う――この基準は、短期的な合理性に流されがちな現代経営に、強烈な問いを突きつける。 アルバイトから会長にのぼり詰めるまで、一貫して現場の誇りを失わず、飲食業の価値そのものを再定義しようとする挑戦。そして、牛丼一筋の歴史を背負いながらも、ダチョウ事業という“異端”に踏み出す決断。そのすべてが、「みっともなくない選択」を積み重ねてきた結果だといえるだろう。

     河村会長の言葉は、立場や業界を超えて、すべてのビジネスリーダーに自らの意思決定軸を問い直す機会を与えてくれた。

     
    ▶「ファッションマーケティング研究会」を主催するMFU理事長 八木原 保氏の半生を綴った連載記事「原石からダイヤへ」はこちら

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