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イタリアンブレインロットとは――子どもの心をつかむ“意味不明”AIキャラクターの正体
ビジョナリー編集部 2026/02/04
「イタリアンブレインロット」という言葉を、耳にしたことはありませんか?「最近子どもが変なキャラクターばかり観ている」「何が面白いのかちっともわからない」と困惑している方も多いことでしょう。小学生低学年を中心に広がるこのブームは、SNS時代の新しい子ども文化を象徴しています。
そもそもイタリアンブレインロットとは何なのか。その不可解な魅力と拡散の背景を、ビジネス視点も交えて解説します。
「イタリアンブレインロット」、その発祥と仕組み
まず、「イタリアンブレインロット」とはどのような意味なのでしょうか。英語に直訳すると「イタリアの脳腐れ」。少し奇妙な響きですが、生成AIが作り出した意味不明で中毒性の高いキャラクターや動画コンテンツ、そしてその流行現象全体を指しています。
このブームの発端は、2025年初頭にTikTokで海外ユーザーが投稿したAI生成動画のバズから始まりました。AIが生み出した動物や物体にイタリア語風の名前を付け、ナンセンスな歌やダンスをさせたショート動画が、瞬く間に子どもたちの間で拡散。その後、YouTubeやInstagramなど他のSNSにも波及し、今や本屋や雑貨屋、カプセルトイ売り場でもイタリアンブレインロットの関連グッズが当たり前のように並んでいます。
意味不明なのにクセになる――キャラクターの特徴と人気の理由
「どんなにかわいくてカッコいいキャラクターなんだろう」と想像されるかもしれません。しかし、実態は大人から見ると“気味が悪い”“何が面白いのか分からない”と首をかしげるものばかり。たとえば、手足の生えたバット「トゥントゥントゥンサフール」、ナイキのスニーカーを履いたサメ「トララレロ・トラララ」、爆撃機ワニ「ボンバルディーロ・クロコディーロ」など、イタリア語風の意味を持たない名前と、AI特有の違和感のあるビジュアルが特徴です。
それでも子どもたちの間では、「トゥントゥントゥンサフールに恋している」という楽曲がYouTubeで3,000万回以上再生され、キャラクターのモノマネや歌を友だち同士で真似し合う遊びが日常化しています。なぜ、これほどまでに中毒性を持ち、拡散されているのでしょうか。
SNS時代の“意味なき”流行語――文脈なき連帯感
イタリアンブレインロットの現象を読み解くうえで欠かせないのが、「ネットミーム」という文化的背景です。従来、小学生の流行語といえば、アニメやゲーム、YouTuberなど明確な“推し”コンテンツがベースにありました。しかしイタリアンブレインロットは、特定のストーリーも知識も不要、誰でもすぐに口にできて、意味を持たないからこそ使うハードルが低くなっています。
この「意味なき言葉」が持つ圧倒的な力は、SNS時代のコミュニケーション構造とも密接に関係しています。短く、リズミカルで、語感が強い。Z世代よりさらに下のアルファ世代の子どもたちは、こうした“共有しやすく、誰でも使える言葉”を求めているのです。スポーツが得意な男子も、キャラクター好きな女子も、価値観や趣味を問わず同じノリで盛り上がることができる“万能ワード”として機能しているのです。
誰でも「いじれる」――インターネット時代の“遊べるキャラクター”
イタリアンブレインロットのキャラクターたちは、生成AIによって誰でも簡単に作ることができます。実際、AIに「AとBを掛け合わせた動物を、イタリア語風の名前で作ってほしい」と指示するだけで、似たようなキャラクターがいくらでも生まれるのです。だからこそ、ユーザー自身がオリジナルの物語や設定を自由に追加したり、“自分だけのイタリアンブレインロット”を簡単に作り出すことができます。
この「誰でもいじれる」「好き勝手に遊べる」感覚は、近年流行したゲームやSNSプラットフォームとも親和性が高いです。ユーザーが自ら手を加え、勝手に拡張していける“インターネットのおもちゃ”として、イタリアンブレインロットは機能しているのです。
このような「いじれる」キャラクターの存在は、実は現代インターネット社会の深い需要を反映しています。既存の人気キャラクターを勝手にアレンジしたり、パロディ化したりすることは権利上の問題もはらみますが、AI生まれで権利が曖昧なイタリアンブレインロットなら、誰もが“安心して”遊ぶことができるのです。
拡散力の正体――“型”をなぞりながらみんなが主役
ネットミームには「型」があります。イタリアンブレインロットでいえば、「AI生成の動物」「イタリア語風の名前」「意味不明な歌や語り」という三大要素です。この“型”さえ守れば、誰でも自分なりのバリエーションを作り、TikTokやYouTubeに投稿することができます。だからこそ、わずか1年あまりで130体以上のキャラクターが生まれ、短期間で爆発的な拡散力を持つようになりました。
さらに、グッズ展開も加速しています。ショッピングモールの雑貨屋やカプセルトイ売り場には、イタリアンブレインロットのキーホルダーやぬいぐるみが並びます。しかも、AI生成ゆえにライセンス料や監修のコストがかからず、商品化のスピードも異常なほど早い。こうした「無版権時代」(特定の権利主体がはっきりしないコンテンツが、流通・消費の中心になりつつある時代)のキャラクターグッズは、今後のサブカルチャー市場のあり方にも大きなインパクトを与えています。
「大人にはわからない」のが魅力――子ども文化の自立
イタリアンブレインロットの最大の魅力は、「大人が理解できない」ことかもしれません。保育園や小学校の先生が「最近子どもたちがトゥントゥントゥンと繰り返し口ずさんでいるけれど、何の意味?」と首をかしげ、親は「何が面白いのか分からないけれど、子どもが夢中になっている」と困惑する。この“説明不能性”が、逆に子どもたちにとっては「大人には内緒」の秘密の合言葉となり、仲間意識や一体感を強める要素になっています。
思い返せば、どの時代にも「大人が眉をひそめるような子ども文化」はありました。かつては『クレヨンしんちゃん』や『ちびまる子ちゃん』、そして『テレタビーズ』など、大人には理解しがたいブームが子どもたちの間で巻き起こりました。イタリアンブレインロットも、まさに令和時代の“説明できないけどクセになる”現代版ミームの象徴といえるでしょう。
文化としての意義――「意味なき体験」が残すもの
イタリアンブレインロット現象は、数カ月で消費される短命なネットミームの一種かもしれません。しかし、それがもたらす価値は決して小さなものではありません。たとえば、意味のない言葉やキャラクターをみんなで共有し、盛り上がった“空気感”や“体験”そのものが、子どもたちの記憶や世代文化として蓄積されていきます。
また、こうした現象はAI技術の進化とともにますます身近になり、今後も新たな「いじれるキャラクター」や「意味より語感が先行する流行語」が次々と現れることでしょう。大人が「何が楽しいのか」「なぜそんなに夢中になるのか」と疑問に思うのも当然ですが、子どもたちにとっては「みんなで盛り上がること自体」が最大の価値なのです。
おわりに――イタリアンブレインロットが映し出す今と未来
イタリアンブレインロットは、単なる“気持ち悪いAIキャラ”のブームにとどまりません。SNS時代のコミュニケーション、AI技術の活用、そして子どもたちの文化的自立心など、現代社会のさまざまな側面を映し出しています。「意味はないが、意義はある」――この言葉が、イタリアンブレインロット現象の本質を最もよく表現しているのではないでしょうか。
今後、こうした現象がどのように進化していくのか。大人も子どもと一緒に、肩の力を抜いてその熱狂を眺めてみるのも悪くないでしょう。


