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「4つの試練が私を強くした」不動産流通業界のパイオニア、東急リバブル会長が語る、人を動かし、危機を乗り越える経営哲学
ビジョナリー編集部 2025/11/21
大手不動産企業として、国内初の不動産流通業界に特化した企業として創業し、以来、総合不動産流通企業として業界をリードし続ける東急リバブル。その歴史は、バブル崩壊やリーマンショックといった数々の荒波を乗り越えてきた歴史でもある。激しい環境変化の中でいかにしてトップランナーであり続けるのか。同社の経営を担う取締役会長・太田陽一氏に、幾多の困難を乗り越える中で培われたリーダーシップの哲学、そして会社の未来像について伺った。
企業経営において大切にしている3つのこと
不動産流通業界のパイオニアとしてトップランナーであり続けるために、最も大切にされていることは何ですか?
私が経営において大切にしていることは、大きく3つあります。
一つ目は、「環境変化への対応力」 です。世の中は常に変化していますから、それに合わせて戦略を設定し、実行し続けなければなりません。これがすべての活動の大原則だと考えています。
二つ目は、「コミュニケーションとモチベート」 。つまり、相手と深く対話し、何を考えているのか仮説を立て、心に響くポイントを意識して伝えることでやる気にさせることです。そのためには、まず人を知り、現場で何が起こっているのかを正確に把握することが不可欠です。
そして三つ目が、「イノベーションのマインド」 です。月並みな言葉に聞こえるかもしれませんが、現状に満足せず常に新しいことにチャレンジし、たとえ失敗したとしても、その挑戦を許容し、奨励する環境を作ることが重要になります。
「4つの試練」が教えてくれたこと ― リーマンショックの危機をどう乗り越えたか
現在に至る太田会長ご自身の経歴のなかで、特にターニングポイントとなった出来事についてお聞かせください。
私の社会人人生を振り返ると、7割は厳しい時代でした。その中で特に大きなターニングポイントといえる経験が4つあります。私はそれを 「4つの試練」 として、常に振り返っていますが、そのすべてが今の私の糧になっています。
最初の試練は新卒で東急不動産に入社したときです。当時、私は大規模な街づくりに夢を抱いて入社したのですが、時代は変わり、実際に任されたのは過去に自社で開発した分譲地の売れ残っている土地を売却して資金を回収するという営業の仕事でした。しかしこの経験を通じて、お客様が何を考えているかを見抜き、対話する交渉力の基礎を学びました。特に延べ13年間過ごした大阪では、互いの立場を尊重しながら落としどころを探るという、独特のビジネスルールを肌で感じることができました。
その後、バブル崩壊後の過酷な事業環境に向き合ったり、東急リバブルへの出向時に予期せぬ降格人事を経験したこともありました。これらの経験から、自分と向き合い、役割を知り、謙虚に全力を尽くすことの大切さや価値を学ぶことができました。そして最大の危機が、経営企画部長時代に直面したリーマンショックです。業界全体がまだ楽観的な雰囲気に包まれていた時期に、「このままでは良くて利益が大幅減、最悪の場合は赤字に転落する」という危機感を抱きました。
上層部に、厳しいコスト削減を進言するのは大きな勇気が必要なことでした。社員の賞与のカットもありましたので、相当恨まれたことでしょう。しかし、会社の事業を継続していくためには、誰かがその役割を果たさなければなりませんでした。トップにいかにこの事実を理解してもらい、最善であると考える進路に舵を切ってもらうか。 当時はトップではありませんでしたが、その責任の重圧で24時間仕事のことを考え、夢にまで見るほどでした。結果として、私たちは赤字転落を免れ、翌年からのV字回復を成し遂げることができたのです。
社長の仕事は、こうしたスポットでの意思決定とはまた違う重圧があります。常に組織全体を担い、部下の報告に対して即座に意思決定を下さなければならない孤独な決断の連続です。また、4,000人の社員が見ていますから、常に私心なくフラットであることが必要です。これらをブレずにやり続けることが務めだと考えて実践してきました。
「3つの業界No.1」への挑戦
貴社が業界No.1ブランドを目指す上で、大切にしてきた理念について教えてください。
元々No.1への挑戦は、当時の社長から、「業界No.1ブランドにならないと生き残っていけない、1番になれ」と言われたことに端を発しました。では、何をもってNo.1ブランドとするのか。議論の末、私たちが掲げたのが、「お客様評価」「事業競争力」「働きがい」という 「3つの業界No.1」 です。単に売上規模を追うのではなく、この3つを実現できれば真の1番になれると考えたのです。
そして、これらを個別の目標で終わらせず、「お客様に評価されると働きがいが向上し、品質の高い仕事によって事業競争力が高まり、それがまたお客様からの評価に繋がる」という好循環(サービスプロフィットチェーン) を生み出すことで、会社全体のステージを上げていこうと考えました。お客様からの紹介を1つのKPIに据えたのも、品質の高い仕事をしていなければ、胸を張ってお客様に紹介の依頼をすることができないからです。
これまで不動産流通業界は、取引が一回限りであることが多く、成立しなければ報酬に結びつかないこともあり、お会いしたすべてのお客様の顧客満足度(CS)を高めて紹介やリピートに繋げるという発想が根付きにくい土壌がありました。だからこそ、私たちは 「CSを高めること自体が、他社に対する強力な参入障壁になる」 と気づいたのです。
もちろん、この考えがすぐに浸透したわけではありません。経営企画・推進部門が旗を振るだけでは、現場はなかなか動きませんでした。しかし、諦めずに「種蒔き」を続けた結果、数年後には現場の社員から「やはりお客様の評価は大事だ」という声が自発的に上がってくるようになりました。上から言われるのではなく、現場の人間が自分で「良いことだ」と気づき、動き始める。 その時に初めて、組織は本当に変わるのだと実感しました。
不動産業の枠を超える。情報と課題解決で描く未来
不動産流通業界をリードしてきた貴社の、他社に負けない強みとは何でしょうか。
私たちの強みは、お客様が抱える課題を解決することにあります。例えば「リバブル売却保証」や「リバブルあんしん仲介保証」といった業界初のサービスも、すべてはお客様の「売れなかったらどうしよう」「買った後に欠陥が見つかったら不安だ」という課題を解決するために生まれました。
私たちは自らの事業を 「情報産業」 だと位置づけています。お客様との対話という川上で情報を掴み、それを加工して売却という出口に繋げていく。そのバリューチェーン全体を担うことで、私たちの価値は高まります。
この 「情報をもとに課題を解決する」 というモデルは、不動産流通業の枠を超えて応用できるはずです。今後は現状の事業領域にこだわらず、商社や証券会社がビジネスモデルを変革させてきたように、不動産領域の殻を破るような事業展開をしていくべきだとも考えています。多くの企業が踏み込まない、エンドユーザーとの直接の接点にこそ、大きなチャンスが眠っているのです。
次代を担う人材に求める「3つの資質」
これからの貴社を発展させていく人材には、どのような資質を求めますか?
これからの組織を担う社員には、3つの資質を求めたいと考えています。
一つ目は 「顧客目線」 。常に相手の視点で物事を考え、感じ取る力です。 二つ目は 「仮説思考」 。課題に直面した時、理屈を積み上げるだけでなく、スピーディーに解決策の仮説を立てて準備をする力。これは仕事上の経験だけでなく、人生経験や幅広い教養によって培われるものだと考えています。 そして三つ目が、困難から逃げずに課題と向き合い 「やりきる意志」 です。
私自身、特定の誰かを師と仰いだ経験はありません。それは、陸軍将校になる直前に終戦で翻弄され、「自分で考えて自分で決める」という生き方を貫いた父の影響が大きいのかもしれません。自分で納得しなければ動かない頑固さも一つの持ち味です。社員一人ひとりが、それぞれの持ち味を活かしながら、この3つの資質を磨き、未来を切り拓いていってくれることを願っています。


