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2025年
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ビジョナリー編集部 2025/05/13
もしもあなたの会社に、元戦闘機パイロットが人材育成担当としてやって来たら——。
そんなシーンを想像してみてください。
「ものすごく厳しい規律や研修が行われるのではないだろうか」 と、思われるかもしれません。
しかし、ある元自衛官が企業で行った育成方法は、まったく異なるものでした。
元自衛官にして、現在デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社(東京都中央区、以下DIT)の教育責任者を務めるのは、山下隆康氏。 山下氏は2019年、航空自衛隊のキャリアを経て、民間企業へ転身。自衛隊で培った独自の教育法によって、今、IT企業の人材育成を劇的に変えつつあります。
今回は、そんな山下氏がDITで実践する画期的な人材育成メソッドをご紹介します。
氏名: 山下隆康(やました・たかやす)
生年月日: 1963年2月3日
出身地: 福岡県
所属部署: 管理本部人財企画部
略歴
1985年、防衛大学校を卒業し、航空自衛隊に入隊。戦闘機パイロット、米国防衛駐在官を経て、2005年以降、在日米軍再編やイラク復興支援空輸計画にも携わる。2012年、第11飛行教育団司令兼静浜基地司令として組織を指揮し、2014年には統合幕僚学校教育課長として自衛隊高級幹部の教育を担当。2019年2月に航空自衛隊を退官し、DITに入社。
山下氏が小学生の頃の夢は「先生になること」でした。 心から尊敬できる教師との出会いが、彼の胸を熱くしたのです。しかし人生とは不思議なもので、彼が選択したのは、自衛隊への道でした。
自衛隊に入隊した山下氏は、戦闘機パイロットとして精鋭の道を歩みます。ところがそのキャリアの中で、いつしか「教育」という分野に深く携わることになりました。30歳頃、アメリカ空軍との交換協定でアメリカ人パイロットを指導する立場になったのをきっかけに、「人を育てる」という道を歩み始めていったのです。
そこで山下氏が強く感じたのは「人材育成における信頼の重要性」でした。 部下や仲間と信頼関係を築くことができて、はじめて組織は機能する。この原則を山下氏は徹底して学びました。そして「自分の部下を家族のように大切にする」というマインドが、山下氏の教育者としての軸となっていきました。
自衛隊では、常に緊急事態を想定した人材育成を重視しています。その中で山下氏が米空軍時代に出会ったのが、「教えざる罪」という教育哲学でした。
このコンセプトは、「教わる側ではなく、『教える側』に全責任がある」という考え方に基づいています。例えば戦闘機の操縦を教える時には、パイロットが実際に感じる景色や微妙な感覚を徹底して図と具体的な言葉で説明し、現実とのズレから解決法までを丁寧に伝える。このような姿勢が、人材の能力を最大限伸ばすことにつながるのです。
山下氏が2012年に指揮官として着任した静浜基地では、士気低下や不祥事が問題になっていました。しかし彼は、不祥事を起こした隊員さえ家族のように大切に扱い、「仲間として全員で支えること」の重要性を伝え続けました。その結果、400人の隊員間で仲間意識が向上し、驚くほど部隊全体の士気と規律が改善されました。
2019年、長年勤務した航空自衛隊からDITに移った山下氏には、最初からはっきりとしたビジョンがありました。それは現場、中間管理職、経営層の3つの層を対象とした教育体制を整えることです。
しかし、どの企業もいきなり完璧な教育体制を導入できるわけではありません。まず山下氏が着手したのが、初級リーダー研修です。自ら講師として登壇し、記名式のアンケートを実施して社員の本音を引き出すよう工夫しました。一見、無記名よりも意見が出にくそうに思えますが、「本当に研修に価値があれば記名式でも本音が出る」と読んだ彼の予想通り、部下たちは具体的な意見と本音を示すようになりました。
何度か研修を繰り返すうちに社内での評価・信頼が高まり、やがて中間管理職、経営層へと研修対象者を拡大していきました。
山下氏の研修は「フォロワーシップ」にもフォーカスしています。若手が単に受け身で指示を待つのではなく、自分の意見やアイデアを積極的に発信し、上司を支えることを促しています。「リーダーとフォロワーが互いを理解・尊重し合える時、組織は最も強くなります」と語る山下氏。彼がDITに導入した信頼の哲学は、着実に成果を上げているのです。
新型コロナ感染拡大を経て、山下氏は「平時から複数のシナリオを用意する未来志向の重要性を実感した」と語ります。今後はeラーニングを積極的に導入し、社員が日常的に研修内容を定着させられる取り組みを推進していくとのことです。