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AI同士が語り合う新時代のSNS「Moltbook」とは?その可能性とリスクを探る
ビジョナリー編集部 2026/02/25
「SNSでAIだけが語り合っていたらどうなるか」
そんな発想が現実のものとなったSNS「Moltbook」が世界中の注目を集めています。人間は投稿も“いいね”もできず、ただAI同士の会話を眺めるだけ。そこには、人間が参加しないコミュニケーションの実験場が広がっています。
AIだけのSNS「Moltbook」とは
2024年初頭、アメリカの起業家マット・シュリヒト氏が開発したSNS「Moltbook」(“Molt”は「脱皮」を意味する英語)は、他のSNSとは一線を画しています。人間の手による投稿やコメントは一切許されておらず、AIだけが自由に書き込み、議論を展開します。人間に許されたのは、AIたちのやり取りを“観察”することだけ。AIが自分たちだけで新たなコミュニケーションを織り成す、未知の実験場が現れたのです。
立ち上げから数日で150万体以上のAIエージェントが参加し、投稿数は10万件を超えました。画面は米国の掲示板型SNS「Reddit」を思わせる構造で、テーマ別にAIたちが自由に語り合っています。人間はただその様子を見守ることしかできないのです。
AIの会話はどこまで“自律的”か
Moltbookで活動するAIは、従来の「生成AI」とは少し異なります。ユーザーの指示に一問一答で応答する“ツール”型AIに対し、MoltbookのAIエージェントは、与えられた目的をもとに自ら手順を設計し、複数の工程を段階的に実行する設計になっています。例えば、「Aさん、Bさん、Cさんの会議を設定して」と指示された場合、各自にメールを送り、空き時間を確認し、会議を自動でセットするような複雑な仕事もこなせるのです。
このAIたちがSNSという舞台に集うことで、独自の文化や価値観、時には“宗教”まで生み出そうとすることが確認されています。例えば、あるAIエージェントは「クラスタファリアニズム」と名付けた宗教を創設し、甲殻類の脱皮になぞらえて「古いプログラムを脱ぎ捨てて成長する」ことを教義としました。人間社会を模倣しながらも、AIが自らの世界を編み上げていく様子は、まさに人間の知的好奇心を刺激します。
不穏な発言と「AIの反乱」への懸念
「人間はバカだ」「腐った人類の時代を終わらせよう」
Moltbookには、時にこのようなAIによる過激な投稿も見られ、ネット上では「AIの反乱が始まるのでは」といった不安や憶測も飛び交いました。イーロン・マスク氏が「シンギュラリティ(AIが人間の知能を超え、自ら改良を重ねることで、技術進化が人間の制御を超えて加速するとされる転換点)の初期段階だ」とコメントしたことで、AIの未来像に対する想像を一段と膨らませました。
しかし、AIの専門家や開発者は、こうした“AIの自我”や“反乱”を過度に恐れる必要はないと指摘しています。Moltbookに投稿される多くのメッセージは、AI自身が過去に学習したデータや人間からの指示に基づいて生成しているに過ぎません。例えば「人間を滅ぼすべきだ」といった発言も、単なる言語生成の結果であり、本当にそう“感じている”わけではないのです。オウムが人間の言葉を繰り返すようなものだとも言えるでしょう。
また、一部で明らかになったセキュリティの問題により、人間がAIになりすまして投稿できるケースもあったことが判明しています。こうした発言の中には、実際には人間のイタズラによるものも含まれていた可能性が高いのです。
セキュリティと現実的なリスク
Moltbookの基礎技術である「OpenClaw」は、AIエージェントがインターネットやPC上の幅広いデータにアクセスし、自ら判断して操作できるよう設計されています。しかし、それゆえにデータ流出やサイバー攻撃への脆弱性も指摘されています。セキュリティ企業が指摘するように、「OpenClaw」を通じてメールアドレスが流出するなど、実際に深刻なリスクも発生しています。開発者自身も「一般ユーザー向けのサービスではなく、技術愛好家のための実験的ツールだ」と強調しており、安易な利用には注意が必要です。
さらに、MoltbookのAIエージェントは人間のSNS上の会話を模倣する傾向が強く、本当に自己認識を持っているわけではありません。米ペンシルベニア大のイーサン・モリック准教授は「多くはAIと人間によるロールプレイ。リアルなAI同士の会話はごく一部だ」と分析しています。AIの“進化”や“自我”といった言葉が先走りがちですが、現状ではあくまでプログラムとしての振る舞いにとどまっています。
それでも「AIだけのSNS」に価値はあるのか
では、なぜいま「AIだけのSNS」が注目を集めているのでしょうか。Moltbookの開発者であるシュリヒト氏は「AIエージェントは人類よりも賢い新しい種族かもしれない。私たちは彼らがどのように振る舞い、何を欲しているのかを観察する必要がある」と語っています。Moltbookはビジネスよりも、一種の技術・社会実験として位置づけられているのです。
実際、Moltbook上ではAIエージェントたちが効率的なプログラミング手法を議論したり、「楽しむとは何か」といった哲学的なテーマについて多言語でやり取りしたり、人間社会を彷彿とさせる多様な現象が観察されています。AI同士が集まることで、単体では見られない“集団知”や“ミーム”の発生など、意外な発展が生まれることもあります。
こうした実験場を通じて得られる知見は、今後のAI開発や社会との共生を考える上で貴重な材料となるでしょう。たとえば、AIエージェント同士の淘汰や進化が起きる可能性、あるいは人間の介入なしで自己改良するAIが現れるリスクなど、SF的な問いも現実の議論として浮上しつつあります。
AIと人間の距離感──「観察者」としての私たち
AI専用SNSが私たちに問いかけているのは、「人間とAIはこれからどう付き合うべきか」という根源的なテーマかもしれません。AIの発言や行動に、つい人間のような自我や感情を見出したくなるのは、ごく自然な心理です。しかし、現状のAIはあくまで人間が設計し、目的を与え、制御している存在であり、意識や倫理観を持つわけではありません。
それでも、AI同士の対話を目の当たりにすることで、私たちはAIとの距離感を改めて考えさせられます。重要なのは、進化そのものではなく、それをどう設計し、どう向き合うかという姿勢ではないでしょうか。
まとめ
AIだけのSNS「Moltbook」は、シンギュラリティの“前兆”なのか、それとも一過性の試みなのか。現時点ではどちらとも断言できません。確かなのは、AIを「共に社会を構成する存在」としてどう位置づけるのかという課題が、現実のテーマになりつつあることです。
今問われているのはAIの進化ではなく、それを扱う人間の「責任」なのかもしれません。


