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2025

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    無人タクシーが現実に。世界で加速する“自動運転革命”の今

    無人タクシーが現実に。世界で加速する“自動運転革命”の今

    自動運転はいま、“未来の話”ではなく、世界の街中で実際に動き始めています。
    アメリカでは無人タクシーが営業し、中国は都市ごとに大規模な実証を進め、欧州は安全基準の整備を着実に進行。日本でも自動運転サービスの実用化が始まり、日常の風景が少しずつ変わりつつあります。

    しかし、その進み方や戦略は国によって大きく異なります。

    本稿では、世界で今どこまで自動運転が進み、これからどんな社会が描かれていくのか──最新の動きから分かりやすく紐解きます。

    自動運転とは

    自動運転車とひとことで言っても、その自動化の度合いによって6段階(レベル0~5)に分けられているのをご存じでしょうか。これはアメリカの自動車技術会(SAE)が策定した国際基準に基づくものです。

    たとえば、いま市販されている多くの車に搭載されている「車線維持支援」や「追従クルーズコントロール」は、ドライバーが責任を持つレベル2。条件付きでシステムが運転を担うレベル3になると、高速道路の渋滞時など限定条件下で「アイズオフ(前方を見なくてよい)」が実現します。

    最先端は「レベル4」と「レベル5」。レベル4は決められたエリアや条件内で完全自動運転が可能となり、例えば中国やアメリカの一部都市で走る無人タクシーが該当します。そして究極がレベル5。これは天候や場所、時間帯を問わず、すべての運転をAIが担い、ハンドルすら不要になる世界です。まさに「乗るだけでどこへでも行ってくれる」未来型モビリティの象徴といえるでしょう。

    世界の自動運転はどこまで進んでいるのか?

    ここで、世界の主要地域の現状と計画を見てみましょう。

    アメリカ

    アメリカは、自動運転の技術開発で世界をリードする存在として広く認知されています。Google系のWaymoやGM傘下のCruise、そしてテスラがその代表格です。とくにWaymoは、フェニックスやサンフランシスコなどで完全無人の自動運転タクシー(レベル4)を24時間365日営業し、すでに累計200万回を超える乗車実績を誇ります。

    テスラは「Full Self-Driving(FSD)」という自動運転支援システムを推進し、ソフトウェアのオンラインアップデート(OTA)を駆使して機能改善を高速で進めています。世界中から集まる膨大な走行データをもとにAIの精度を高めているのが特徴です。ただし、現時点でのテスラFSDは国際基準ではレベル2相当であり、完全自動運転の実用化はもう少し先になりそうです。

    アメリカの強みは、民間主導のスピードと柔軟な規制環境。州ごとに規制が違うため、カリフォルニアなどでは野心的な実証実験が次々に行われています。

    中国

    中国は、政府主導で自動運転技術の実用化を驚異的なスピードで進めています。北京や深圳などの大都市では、既にレベル4の無人タクシーやバスが市民の「足」として利用され始めています。

    例えばIT大手、百度(Baidu)が展開する自動運転タクシーサービス「Apollo Go」は、2025年時点で累計800万回超の乗車を達成。都市ごとに特区を設け、法整備やインフラ整備を一気に進める「政策ドリブン型」“国が後押しするスピード重視モデル”の社会実装が中国流の勝ち筋です。2030年には新車販売の1割をレベル4~5にするという目標を掲げ、世界最速の実用化を目指しています。

    欧州

    欧州は、法整備や安全規格を先行させるアプローチが特徴です。メルセデス・ベンツやBMW、アウディなどの大手メーカーは、すでにレベル3を搭載したモデルを市場投入しています。特にメルセデスは「DRIVE PILOT」をSクラスなどに採用し、2027年までにレベル5の実現を見据えた開発を進めています。

    また、EUは2030年にレベル5の標準化というビジョンを掲げ、域内統一ルールを整備中。オランダやノルウェーでは、自動運転バスが日常の公共交通として定着し始めています。段階的な社会実装を重ねながら、着実に“完全自動運転社会”へと歩みを進めている印象です。

    日本

    日本メーカーの技術水準は世界でも高く、運転支援技術や信頼性、悪天候下での安定性は海外からも高い評価を受けています。

    日本は、安全性と社会的受容性を最優先するため、実証実験や法制度整備を着実に積み重ねています。2023年にはレベル4自動運転バスが福井県や茨城県で実用化され、2027年にはレベル5の公道実証も計画されています。ただし、全国一律の社会実装には、インフラ整備や法改正、国民の合意形成など多くのハードルが残ります。

    なぜ「完全自動運転」は難しいのか?

    レベル5である「完全自動運転」が難しい背景には、AIとセンサー、通信インフラ、そして法制度や社会の受け入れ体制など、解決しなければならない課題が山積しているためです。

    たとえば、荒天時や複雑な市街地、予測不能な歩行者や自転車が入り乱れる状況でも、安全に走行できるAIの開発は容易ではありません。道路の白線が消えていたり、標識が見えにくかったりする道路環境では、高難度な認識性能が求められます。

    さらに、AIが誤作動した場合の責任問題も未解決です。自動運転中の事故では、ドライバー、メーカー、ソフト開発者、地図会社、通信事業者など、誰がどこまで責任を負うべきか。この議論は国際的にもまだ道半ばです。

    そして、サイバー攻撃対策も大きな課題です。ネットワークにつながる車は、悪意ある第三者による遠隔操作やシステムの乗っ取りにさらされるリスクが伴います。安全性確保のための法規制やセキュリティ技術の進歩が不可欠となっています。

    実現に向けて動き出した「社会全体のアップデート」

    自動運転の普及には、クルマだけでなく社会全体の大幅なアップデートが必要です。たとえば、全国の道路に鮮明な白線や最新の標識を維持し、リアルタイムで変化する道路状況を反映する高精度3D地図の整備が求められます。

    また、5Gや将来の6Gといった超高速通信インフラの普及は、車と車、車と信号、さらには歩行者のスマートフォンとの「瞬時の情報共有」を可能にします。これによって、渋滞の緩和や事故の予防、より効率的な移動が実現できるのです。

    とくに日本は、道路インフラと車両、保険や自治体までを一体化した「社会実装型エコシステム」を構築することが、世界で勝負するための現実的な戦略といえるでしょう。

    自動運転がもたらす新しい社会

    自動運転が社会にもたらす変化は計り知れません。最も期待されているのは交通事故の劇的な減少。人間のヒューマンエラーをAIが補うことで、死亡事故や居眠り事故のリスクが大幅に減ると予想されています。

    また、移動の効率化や快適性も大きな魅力です。運転から解放された時間を、読書や仕事、家族との団らんに使える未来が現実になります。高齢者や障がい者、交通弱者にも新しい移動の自由をもたらすことが期待されています。

    一方で、課題も残されています。システムの不具合やサイバー攻撃への脆弱性、事故時の責任の曖昧さ、さらには運転手という職業の雇用に及ぼす影響など、慎重な議論が求められています。

    未来への展望

    自動運転は、いまや世界の多くの都市で現実になりつつあります。AIやセンサー、6G通信など、テクノロジーの進化は今後も加速します。完全な自動運転は「まだ実現していない」からこそ、世界中の企業や都市に平等なチャンスが広がっているのです。

    自動運転がもたらす未来は、技術の進歩以上のインパクトを社会にもたらすでしょう。これからの数年、数十年で、私たちの移動や暮らし方は大きく変わることでしょう。

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