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2025

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    2025年バリアフリー法改正で何が変わる? ユニバーサルシート普及の現状と今後

    2025年バリアフリー法改正で何が変わる? ユニバーサルシート普及の現状と今後

    あなたは、外出先で「着替えやおむつ交換をする場所が見つからない」と感じたことはありますか?

    多くの人にとっては意識することすらない問題ですが、介助が必要な大人や、一般的なおむつ交換台の対象年齢を超えた子どもを抱える家族にとって、この“場所のなさ”は外出の自由を奪う深刻な壁になります。

    実は、全国の公共施設や商業施設で不足しているのは、トイレそのものではありません。 大人も横になれる「ユニバーサルシート」 です。

    外へ出たい気持ちがあっても、介助やケアを安心して行える場所がない——。

    そんな理由で、外出や旅行、イベント参加を諦めざるを得ない人が今も少なくないのです。

    ユニバーサルシートの存在意義

    近年、ショッピングモールや公共施設で「バリアフリートイレ」や「多目的トイレ」を見かける機会が増えました。車いす利用者やオストメイト(人工肛門・膀胱)対応、手すりの設置、ベビーチェアやおむつ交換台など、多様な人が使える設計が進んでいます。しかし、実はここに“見落とされがちな設備”が存在します。

    それがユニバーサルシート(介助用ベッド、大型ベッド)の問題です。

    ユニバーサルシートは、おむつを必要とする大人、または一般的なおむつ交換台の対象年齢を超えた子供や、介助が必要な方の着替えなどに不可欠な設備なのです。

    ところが、多くの施設では乳幼児向けのおむつ交換台は整備されているものの、「大人用の介助ベッド」や「ユニバーサルシート」は、未だ設置率が低く、家族や介助者は苦労を強いられています。

    • 大人用紙おむつの利用者は年々増加し、2040年には人口の7%に達すると予測されています。※1
    • 自力で立つことが難しい障がい児の家族は、対象年齢を超えた子どもの着替えやおむつ交換のために、やむなくトイレの床でシートを広げて対応することさえあります。
       

    衛生面のリスクや、当事者・家族の尊厳の問題、そして「もう外出したくない」「旅行やイベントを諦めざるを得ない」という“見えない壁”を社会に生んでいるのです。

    法改正が促すバリアフリー

    2025年6月のバリアフリー法改正では、トイレのバリアフリー基準が一段と引き上げられました。
    一定規模以上の施設では、これまで建物内に1箇所以上の設置が求められていましたが、改正後は各階ごとに多目的トイレの設置が義務化されました。「誰もが安心して外出できる社会」の実現に向けた一歩といえるでしょう。

    一方、世界に目を向けると、バリアフリーやユニバーサルデザインの考え方はさらに進化しています。

    北欧諸国では、段差や障壁が“存在しない設計”が当たり前となり、アメリカではADA法に基づき、違反には罰則が伴います。
    公共交通機関や観光施設でも、「利用者目線」の配慮が徹底されています。

    これに対し日本では、制度や設備のハード面は整いつつあるものの、現場での運用や意識面、バリアフリー設備が形だけ整っていても、実際には使いづらい、案内が分かりにくい、メンテナンスが行き届いていないなど、“見せかけ”だけのバリアフリーが問題視されています。

    ユニバーサルシートの現状と課題

    日本のユニバーサルシートは、大規模ショッピングモールや空港、主要駅などでは設置が徐々に進んでいる一方で、地方都市や中小規模の施設では依然として“ゼロ”に近い状態が多く見受けられます。

    ユニバーサルシートの普及が進みにくい背景には、いくつかの構造的な課題があります。

    まず、施設側にとって大きな負担となるのが 設置コストや維持管理に対する懸念 です。導入には一定のスペースや設備費が必要で、清掃やメンテナンスにも人手がかかります。

    さらに、 そもそもスペースを確保しにくい施設設計の制約 も大きな壁となっています。特に既存の建物では、広い多目的トイレや介助ベッドを設置する余裕がなく、改修にも時間と費用がかかるため、導入が進みにくい現状があります。

    加えて、 ユニバーサルシートを必要とする利用者の実態や社会的ニーズに対する理解不足 も見逃せません。必要性が十分に認識されていないことで、整備の優先度が上がらず、当事者の切実な困りごとが社会に届きにくい状況が続いています。

    「心のバリアフリー」と社会全体の意識改革

    真のバリアフリー社会を実現するためには、設備を整えるだけでは十分とはいえません。2018年の法改正以降、「心のバリアフリー」という考え方が重視されるようになり、利用者の立場に立った配慮や、多様な背景を持つ人を受け入れる意識づくりが、国民や企業の責務として明確に位置づけられました。

    その流れを受け、ソフト面での取り組みも各地で広がっています。自治体はバリアフリー基準の策定や現場検証を進め、企業では障がい理解のための研修やヘルプマークの導入が進展。さらに、当事者や家族の声を積極的に取り入れた施設設計や運営を行う動きも増えてきました。

    こうした意識改革と仕組みづくりが重なり合うことで、ようやく「誰もが安心して外出できる社会」に近づいていくのです。

    まとめ

    ユニバーサルシートの普及は、単なる設備の充実ではありません。

    「行きたい場所へ行けるかどうか」——人の自由と尊厳そのものを支える取り組みです。

    たった一つの施設にユニバーサルシートが設置されるだけで、外出を諦めていた家族が「ここなら行ける」と思えるようになる。
    その積み重ねこそが、社会を静かに、しかし確実に変えていきます。

    ユニバーサルシートが“あるのが当たり前”の社会へ。
    その未来をつくる一歩が、今まさに求められています。

    参考文献

    ※1:https://www.mlit.go.jp/common/001272510.pdf

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