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2026

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    医療と環境の融合 ― 紙製ピンセットが切り拓く新たな医療現場:鳥取大学医学部 × 大宝工業株式会社 医工連携インタビュー

    医療と環境の融合 ― 紙製ピンセットが切り拓く新たな医療現場:鳥取大学医学部 × 大宝工業株式会社 医工連携インタビュー

    環境配慮型素材として注目を集める大宝工業株式会社の「D-PIM®(紙射出成形技術)」。その可能性は今、産業の垣根を越え、医療の最前線へと広がろうとしている。鳥取大学医学部との“医工連携”によって生まれた「紙製ピンセット」の開発ストーリー。今回は、開発の中心となった大宝工業の松坂氏と、鳥取大学医学部の植木教授、藤原教授にお集まりいただき、開発の裏側と今後の展望について語っていただいた。
    記事内画像▲D-PIMの循環型ものづくりのイメージ

    松坂 氏 大宝工業株式会社 D-PIM事業部長。 新規事業として紙射出成形技術の開発・実用化を推進。
    植木 教授 鳥取大学医学部。 医療現場の課題解決に向けた医工連携に積極的に取り組む。
    藤原 教授 鳥取大学医学部。 臨床現場の視点から、器具のユーザビリティ評価を担当。

    鳥取発、「医工連携」からのスタート

    まず、異業種である両者がどのようにして出会い、共同開発に至ったのか教えてください。
    松坂: きっかけは、鳥取県が推進している「医工連携プロジェクト」でした。私たち大宝工業は、これまで自動車や家電向けのプラスチック成形を主軸にしてきましたが、D-PIMという新しい環境技術を医療分野にも活かせないかと考えていました。そこで植木先生と出会い、お話をさせていただく機会を得たのが始まりです。

    植木: 私は普段、臨床の現場にいますが、常に頭を悩ませているのが「医療廃棄物」の問題です。感染防止の観点から、現代の医療では多くの器具が単回使用(ディスポーザブル)となっています。例えば、入院患者さんの「導尿(カテーテルで尿を採取する処置)」を行う際、プラスチック製のピンセットがセットに含まれていますが、これらは一度使ったらすぐに廃棄・焼却されます。

    松坂: 導尿セットだけでなく、処置用キットの多くにプラスチック製のピンセットが含まれていると伺いました。「人の命を守る現場が、環境に負荷をかけ続けていいのか」という植木先生の葛藤を伺い、「これこそD-PIMが解決すべき課題だ」と直感しました。

    記事内画像 ▲紙製ピンセットの製品写真
    ▲開発中の紙製ピンセット。プラスチック製と同等の形状を実現している

    「紙」で医療器具を作る難しさ

       実際に開発を進める中で、どのような困難がありましたか?  
    

    松坂: やはり「強度」と「精度」の壁は高かったです。医療用ピンセットは、医師の手指の延長として機能しなければなりません。対象物を掴むときのバネ性、先端の合わせ精度、そして水分を含んだ検体や薬剤に触れてもふやけない耐久性。これらを紙素材で実現するのは、正直なところ難題の連続でした。

    植木: 最初に試作品を見せていただいたときは、「紙でここまで成形できるのか」と感動しました。持った時に冷たくないし、手触りが優しい。これは患者さんにとっても良いことではないかと直感しましたね。

    藤原: ただ、現場の医師としての立場からは、かなり厳しい注文をさせていただきました(笑)。「掴んだ感触が頼りない」とか、「先端が少しでもズレると細かな処置ができない」とか。紙だからといって、医療の質を下げるわけにはいきませんので。

    松坂: そういったフィードバックを藤原先生や遠藤さん(鳥取大学医学部)から直接いただけたことが、技術者としては本当にありがたかったです。「もっと腰を強く」「先端を鋭く」といったご要望を受けて、すぐに金型を修正し、材料の配合を見直す。そのスピード感あるやり取りがあったからこそ、ここまで形にできました。

    記事内画像 ▲ガーゼを把持した紙製ピンセット先端
    ▲二つの先端でガーゼを把持している状態

    医療現場のプラスチック廃棄物の実態

     日本の医療機関から排出される産業廃棄物は年間数十万トンにも及び、その多くを感染性廃棄物(使用済みの注射器、ガーゼ、ディスポーザブル器具など)が占めています。感染防止のために一度しか使えない「単回使用製品」は増加傾向にあり、その大半がプラスチック製です。
     これらはリサイクルが難しく、原則として焼却処分されるため、CO2排出量の増加が課題となっています。鳥取大学医学部と大宝工業の取り組みは、この「廃棄せざるを得ないプラスチック」を「循環可能な素材」に置き換えることで、医療の質を維持したまま環境負荷を低減させる挑戦なのです。

    展示会で見えた「導電性」という新たな可能性

    開発が進む中で、新たな発見もあったと伺いました。

    松坂: はい。市場ニーズを探るために展示会に出展した際、来場されたお客様から「静電気導電特性はどうですか?」というご質問をいただいたのです。 ―― 「導電性(電気を通す)」というと、感電しそうなイメージもありますが、なぜ必要なのでしょうか?

    植木: 実は「静電気対策」のために必要なのです。プラスチックは電気を通さない「絶縁体」ですが、それゆえに摩擦などで発生した静電気が逃げ場を失い、表面に溜まり続けてしまいます。その状態で金属などに触れると、一気に電気が流れて「バチッ」と放電してしまうのです。

    松坂: 医療現場での精密機器の操作や、電子部品の製造現場では、この静電気によるホコリの吸着やスパーク(放電破壊)が大敵です。そこで、素材の電気抵抗を適切に制御し、発生した電荷を徐々に拡散させる『静電気拡散性』を持たせることで、静電気を蓄積しにくくすることができます。

    植木: 紙はもともと水分を含んでいるため、プラスチックに比べれば帯電しにくい素材です。そこにさらに技術的な工夫を加えることで、高度な静電気対策が可能になるのですね。

    松坂: はい。展示会での対話から、「導電性ピンセット」という新しい開発テーマが見出されました。現在、お客様と協議を重ねていますが、これが実現すれば医療分野だけでなく、精密電子機器の製造現場などにも用途が大きく広がります。

    なぜ「紙」なのか ― 循環型医療への転換

     ステンレス等の金属製ピンセットを洗浄して再利用するのではなく、なぜあえて「紙製の単回使用」なのでしょうか?

    藤原: もちろん金属製も使われていますが、再利用するためには洗浄と滅菌処理が必要です。これには人件費と設備コストがかかりますし、万が一洗浄が不十分であれば院内感染のリスクに繋がります。そのため、感染リスクの高い処置では「単回使用」が最も安全な選択肢となります。

    松坂: しかし、これまでの単回使用品の多くは石油由来のプラスチックであり、製造から廃棄・焼却まで、化石資源の消費とCO2排出を伴うというジレンマがありました。D-PIMは、パルプと澱粉・植物性結合剤を主原料とする自然由来の素材です。ただし、単に「紙でできている」から環境に良いということではありません。重要なのは、原料調達、製造、流通、使用後の廃棄・リサイクルまでを含むライフサイクル全体で環境負荷を見ることです。そのLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点でも、D-PIMは石油由来樹脂と比べてCO2排出量を抑えやすい素材であることが特徴です。さらに、有害物質を含まず、燃焼時にも有害ガスを出しにくいことに加え、用途や回収条件によっては、紙としてのリサイクルや成形材料としての再活用も検討できます。医療現場では、感染防止のために単回使用を避けられない場面があります。だからこそ、同じ“使い切り”であっても、化石資源に依存する素材から、自然由来で廃棄後の環境負荷を抑えられる素材へ置き換える意義があります。

    サステナブルな医療の実現に向けて

    最後に、今後の展望と医工連携への想いをお聞かせください。

    植木: 医療機関におけるSDGsへの取り組みは、待ったなしの課題です。鳥取大学医学部としても、今回のような取り組みを通じて、サステナブルな医療活動に貢献していきたいと考えています。大宝工業さんとの連携は、そのモデルケースになるはずです。

    藤原: ピンセットだけでなく、今後は検体容器やトレーなど、他の資材にも応用できる可能性があります。「環境に負荷をかけない医療」という新しい価値観を、現場から広げていきたいですね。

    松坂: 鳥取大学医学部の皆様との出会いがなければ、ここまで深く医療現場の課題に踏み込むことはできませんでした。現在は導電性の課題解決を含め、実用化に向けた最終段階の検討を続けています。 解決にはまだ時間を要する部分もありますが、私たちの技術が、医療従事者の皆様の負担を減らし、かつ地球環境にも貢献できる未来を目指して、これからも開発を続けていきます。

    #医工連携#脱プラスチック#医療SDGs#紙製ピンセット#大宝工業

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