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「自社の困りごと」から始まった勤怠管理No.1※――ヒューマンテクノロジーズ 家﨑社長が語る、愚直なプロダクト開発と「月額300円」の覚悟
ビジョナリー編集部 2026/08/31
クラウド型勤怠管理システム市場でトップシェア※を誇る「KING OF TIME(キング・オブ・タイム)」。今や数多くの企業で業務インフラとして親しまれているが、その始まりは「自社で起きた不正を防ぎたい」という切実な課題解決からだった。
大手ベンダーの高額な見積もりに直面し、自前で開発したASP(クラウド)サービスは、いかにして市場を牽引するプロダクトへと成長したのか。自社ブランドでの展開にこだわらず価値の最大化を図ったアライアンス戦略、デジジャパン様をはじめとするパートナー企業との試練と歩み、そして「月額300円」を貫く経営哲学まで。第1回となる今回は、ヒューマンテクノロジーズの家﨑晃一社長が「KING OF TIME」の開発秘話と「時間の価値」について語る。
原点は「携帯ショップの不正防止」。大手見積もり数千万円からの逆転劇
「KING OF TIME」誕生のきっかけと、初期の構想について教えてください。
実は、最初から「勤怠管理ビジネスをやろう」と思って立ち上げたわけではないんです。2000年代初頭、当時グループで運営していた携帯電話の販売店で、遅刻や開店時間になってもオープンしないといった問題が相次ぎ、本部からはそうした現場の状況がまったく見えないという切実な課題がありました。
何とかしようと大手メーカーに見積もりを依頼したところ、提示された金額は数千万円。当時の私たちが投資できる予算規模を超えていただけでなく、自分たちが求める柔軟な運用にも対応できるものではありませんでした。そこで「それなら自分たちで作ろう」と、自社のエンジニアに開発を依頼したのがすべての始まりです。
開発にあたって設定したキーワードは2つ。1つは、当時はまだ珍しかったASP(現在のクラウド)環境で構築すること。もう1つは、本人以外の代理打刻を防ぐために指紋認証(生体認証)を取り入れることでした。ちなみに「KING OF TIME」という名称は、「勤怠(きんたい)」の語呂合わせと「時間の王様」を掛け合わせたダジャレのような発想から生まれたものです。
当時の競合他社システムと比べて、どのような違いがあったのでしょうか。
一番の差別化ポイントは「日次(日別)で打刻データが見えること」でした。
従来の勤怠管理や給与計算システムは、集計の手間を減らすために「月の合計労働時間」を算出することを目的に作られていました。しかし、私たちの原点は「不正を防ぎ、誰が、いつ、どこの店舗に来たのかをリアルタイムに把握すること」です。そのため、最初から日別の詳細なデータを保持する構造になっていました。
営業先でデモをお見せした際、お客様から「日別で打刻状況が確認できるのはすごい」と褒められ、そこで初めて「これが自分たちの強みなんだ」と気づかされたほどです。正しい時間をリアルタイムで捉えるというこの原点こそが、現在に至るまでサービスの核になっています。
ブランドへの執着より「広めること」。パートナーとの“縁”が手繰り寄せた成長
自社ブランドでの展開にこだわらず、他社へのOEM提供を積極的に進められたのはなぜでしょうか。
当時の私たちには、自社で大規模なプロモーションを打つ資金も、全国に売り歩く営業力もありませんでした。であれば、自社ブランドにこだわるよりも、「本当に良いサービスを、お客様を持つパートナー企業を通じて世の中に広めること」の方が重要だと考えたのです。私自身、商社出身というバックグラウンドがあったことも影響しているかもしれません。
幸いにも、私たちは素晴らしいパートナーとのご縁に恵まれました。寺岡精工様のグループ会社であるデジジャパン様との提携(「Touch On Time」としてのOEM提供)では、まだ実績もなかった私たちのために、サポートセンターの立ち上げというリスクを取ってまで事業を二人三脚で育ててくださいました。
また、某通信キャリア様からOEMのお話をいただいた際も大きな転機となりました。当時の大手キャリアが求めるセキュリティ要件は非常に厳格で、某通信キャリア様のご協力のもと、1年半もの歳月と費用をかけて脆弱性診断と改善を徹底的に繰り返しました。この時に鍛え上げられたからこそ、現在の高いセキュリティ水準が確立され、その後の大手企業様への導入にも繋がったのだと深く感謝しています。
現場のニーズを取り入れながら、どのように機能を拡張してきたのですか。
例えば、北海道を中心にスーパーを展開するアークスグループ(ラルズ様)には、機能がまだ十分に揃っていない初期の頃から導入していただきました。店舗経営において生産性を極めて重視されるお客様で、日々のシフト予定と実績の差分(予実管理)や部門別の管理など、多くの厳しいご要望をいただきました。
ここで大切にしたのは、特定のお客様の要望をそのまま形にするのではなく、「幅広いお客様に使っていただけるSaaSの機能として昇華させること」です。営業と開発が議論を重ね、普遍的な価値に落とし込んで実装してきたからこそ、20年以上経った今でも拡張性を保ちながら多くの企業にご愛用いただけているのだと思います。
「1日10円なら払える」から始まった、月額300円・全部乗せの逆張り戦略
「月額300円」という低価格をずっと維持されている理由をお聞かせください。
創業者が「パートやアルバイトの時給を考えた時、1日10円、30日で300円なら中小企業でも無理なく払えるだろう」と考えたのがこの価格のスタートです。
競合となるSaaSベンダーの多くは、機能を追加するごとにアドオン(オプション料金)を設定して単価を上げるモデルをとります。しかし、私たちは途中であえて逆張りし、「全部乗せで300円」という攻めの決断をしました。人事労務や給与計算、データ分析といった機能まで含めて1ユーザーあたり月額300円で提供し続ける、という方針に切り替えたのです。
資本力のある競合他社と同じ土俵で戦っても勝ち目はありません。投資を受けている他社は容易には値下げができませんが、私たちは積み重ねてきた実績と利益があったからこそ「低価格・高品質」に振り切ることができました。パートナー様にとっても「圧倒的にコスパが良く、売りやすいサービス」であることが一番の強みになると確信していたからです。
時間は有限で全員に等しい。「正しい時間」の可視化が企業の生産性を変える
日本企業の労働生産性の課題と、勤怠管理が果たすべき社会的意義についてどうお考えですか。
日本には「長く働くこと=頑張っていること」と見なされる空気や、「最後までやり切る」という真面目な文化があり、欧米などに比べると「限られた時間内で効率よく終わらせる」という時間に対する意識が希薄になりがちです。しかし、時間はすべての人に等しく与えられた有限の資産です。
特に日本企業の多くを占める中小企業において、利益を出し、従業員の賃金を上げていくためには、全員が時間に対する意識を高め、1人あたりの生産性を最大化していくことが不可欠です。そのためにはまず、すべての前提となる「正しい労働時間を可視化する」という基礎固めが欠かせません。
締め作業のたびに現場とやり取りし、肩身の狭い思いをしている人事・総務担当者の負担を軽減すると同時に、適切な時間管理によって組織全体に時間に対する意識革命を起こす。愚直に「正しい時間」を記録し続けるインフラとして、これからも多くの企業の生産性向上を足元から支えていきたいと考えています。
※ シェアNo.1表記について 富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2026年版」勤怠管理ソフトSaaS/PaaS市場 利用ID数 2025年度実績 ベンダーシェア


