日本全国で、道路の陥没事故が少なくありません。しかも一瞬で巨大な穴が開き、車まで飲み込む深刻なケースも発生しています。
なぜ道路が突然陥没するのでしょうか。そして、どんな場所が危険なのでしょうか。
本記事では、道路陥没の「原因」「ハイリスクな場所」「事前にリスクを把握する方法」を解説します。
「自分の住む街は大丈夫?」と感じた方は、最後までお読みください。
なぜ道路が陥没するのか?――主な原因を徹底解説
陥没事故のニュースを目にすると、「地震?」「大雨?」といった自然災害を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、実際には意外な原因が数多く潜んでいます。
最大の要因は「地下インフラの老朽化」
道路下には、下水道管や水道管、ガス管など多くのライフラインが埋設されています。このうち、大規模な道路陥没の多くは、老朽化した下水道管の破損が引き金となっています。
道路陥没のメカニズム
- 下水道管が老朽化や腐食によって穴が開く
- 地中の土砂や地下水が管内に流れ込む
- 管と道路の間に「空洞」が形成される
- 上を通る車やトラックの重みで、空洞の天井が崩落
- 道路表面が一気に陥没
たとえば2025年1月、埼玉県八潮市で起きた事故では、直径5m・深さ10mの大穴が道路に空き、トラックが飲み込まれました。調査の結果、地下10mにあった直径約4.75mの大型下水道管の破損が原因と判明しています。
陥没リスクを高める「3つの要素」
- 管の老朽化・腐食
下水道管の耐用年数は50年とされていますが、実際には設置場所や使用状況により劣化速度は大きく異なります。埼玉県八潮市の事故の原因となった水道管は、約40年使用されていました。
特に、生活排水や工場排水が多い場所では、下水管内で発生する硫化水素がコンクリート管を腐食しやすくなります。
- 地盤の弱さ
埋立地やかつて川や海だった場所、地下水位が高い場所は、地盤が脆弱な傾向があります。地盤が弱いと、下水道管に穴が空いた際、土砂が一気に流入し、空洞が拡大しやすくなります。また、地盤が強ければ多少の空洞が空いたとしても支えられますが、弱い場合には支えきれずに陥没が起きやすくなります。
- 大型管やマンホール付近
管の直径が大きいほど、万一破損したときの影響範囲が広がります。また、マンホールやカーブ部、合流部など、水流が滞留しやすい箇所では、管の腐食が進みやすいことも知られています。
その他の要因
- 地震や豪雨による地盤の緩み
- 大型車両の通行による振動
- 不十分な点検や修繕体制
これら複合的な要因が重なったとき、陥没事故は突如として起こります。
どんな場所が陥没のリスクが高いのか?
日本全国で年間1万件以上も発生する道路陥没。その「危ない場所」には共通点があります。
1. 都市部・人口密集地
都市部では、高度経済成長期(1970~80年代)に集中的に下水道整備が進みました。その結果、現在は「設置から40年以上経過した管」が急速に増加中です。
例:東京都23区の平均下水道管経過年数は38年、再構築未実施分は51年に達しています。
なぜ都市部ほどリスクが高いのか?
- 下水道管の更新時期が一斉に到来
- 交通量が多く、大型車両も頻繁に通行
- 工場や飲食店などの排水による腐食進行
2. 埋立地・旧河川跡・海沿い
地盤がもともと弱い地域は、陥没リスクが高まります。過去に川や海だった場所、埋立地、地下水位が高い場所は特に注意が必要です。八潮市の事故現場も、かつて海だった地質で地盤が緩かったと推測されています。
3. 下水道大型管・マンホール集中エリア
- 直径の大きい下水道管が通る地域
- マンホールやカーブ部が多い道路
これらは滞留した下水による硫化水素の発生、管の腐食進行が起こりやすいポイントです。
4. 点検・修繕が遅れている地域
- インフラ更新計画が進んでいない
- 維持管理の予算や人手不足が深刻
こうした場所では、老朽化したままの管が放置されている場合があり、特に注意が必要です。
陥没リスクを把握するためのチェックポイント
「自宅や通勤路、子どもの通学路は大丈夫?」
そんな不安があれば、誰でもできるリスク確認方法があります。
1. 自治体のインフラ情報やハザードマップを活用
公開資料をチェック
- 各自治体のホームページで「下水道台帳」「インフラ長寿命化計画」等を確認
- 例:東京都「公共下水道台帳」では、自宅周辺の下水道管の種類、設置年、太さ、マンホールの位置などが分かります
- 「道路管理課」「下水道課」など担当部署に問い合わせれば、より詳細な状況や今後の補修計画も教えてもらえます。
ハザードマップで地盤・災害リスクを調査
- 「液状化マップ」「地震ハザードマップ」「洪水マップ」などを確認
- 国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」も便利です
ポイント
・埋立地や旧河川跡は特に地盤リスクを要確認
・過去の陥没事故や冠水の履歴も参考にしましょう
2. 現地での「目視チェック」
- 周辺道路や建物のひび割れ・傾き・沈下がないか観察
- アスファルトやマンホール周辺に「波打ち」「ずれ」「沈み込み」などの異常がないか確認
- 雨の日や雨上がりに水はけの悪い場所がないかチェック
こんな兆候は要注意!
- 道路や歩道に亀裂、大きなひび割れがある
- 電柱やガードレールが傾いている
- マンホールが周囲より沈んでいる
- 建物に不自然な傾きや沈下がある
3. 地域住民や不動産会社へのヒアリング
- 近隣住民や管理人、不動産会社に「過去に道路の陥没や沈下があったか」聞いてみましょう
- 水害や冠水の有無、大型工事の履歴も情報収集ポイントです
4. 必要に応じて専門家に相談・地盤調査
- 新築や購入前なら、専門業者による地盤調査を依頼するのも有効です(費用:3~10万円程度)
- 特に地盤沈下や液状化が懸念されるエリアでは、調査結果をもとに判断をしましょう
今後の課題と対策――インフラ老朽化社会にどう向き合うか
インフラ更新の波が一斉に到来
高度経済成長期に整備された下水道や道路インフラは、今まさに「老朽化の集中期」を迎えています。
国土交通省のデータによれば、下水道管のうち耐用年数50年を超える管は今後さらに増加し、2042年度末には全体の約40%(約20万km)に達する見込みです。※1
修繕・更新には「人手」「予算」「技術」の壁
- 多くの自治体で維持管理コストが財政を圧迫
- 専門人材や技術者の確保が困難
- 目に見えない地下インフラへの関心が低い
- 新技術導入による効率化も進行中だが、全域への普及はこれから
住民一人ひとりがリスクを知り、行動することが重要
- 地下インフラの老朽化は「他人事」ではありません
- 普段から自分の暮らす街・道路に関心を持ち、異変を見つけたら自治体へ報告しましょう
- 住宅購入や移転の際は、「安全性」も必ず検討材料に
まとめ――あなたの「足元」に潜むリスクを見逃さないために
道路の陥没は、インフラの老朽化だけではなく、「地盤の弱さ」「維持管理体制」「地域特性」などが複雑に絡み合って発生します。特に都市部や埋立地、大型下水道管のあるエリアでは、リスクが一層高まります。
今日からできるリスクチェックをまとめると――
- 自治体の下水道台帳やハザードマップを活用する
- 現地や周辺の目視チェックを行う
- 住民・不動産会社から過去の事故歴を聞く
- 必要に応じて専門調査を依頼する
「何もなければ安心」ではなく、「自分で情報を集め、注意を払う」ことが、家族や地域を守る第一歩です。インフラの老朽化が進む今こそ、あなたの街の「足元」にぜひ関心を向けてみてください。
参考文献
※1:国土交通省-令和5年度下水道管路メンテナンス年報
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001769140.pdf