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2026

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    高速道路60年目の岐路──リニューアル時代に入った日本インフラの現実

    高速道路60年目の岐路──リニューアル時代に入った日本インフラの現実

    高速道路が生活の一部になって久しい現代。渋滞を避けて走る車列、ネット通販で頼んだ商品が翌日届く便利さ──こうした日常は、日本全国に張り巡らされた高速道路網があるからこそ実現しています。しかし今、この“日本の大動脈”が大きな転換点を迎えています。

    高速道路60年、見え始めた「老朽化」という現実

    日本で初めて高速道路が開通したのは1963年、名神高速道路(栗東―尼崎間)がそのスタートでした。当時の日本は高度経済成長のまっただなか。物流効率や移動の自由度を飛躍的に高めるインフラとして、次々に新路線が建設されていきました。今や総延長は約1万4000km。都市と地方をつなぎ、産業と生活を支えてきた功績は誰もが認めるところです。

    しかし、開通から半世紀を超えた高速道路の多くは、今なお昼夜問わず酷使され続けています。大型車両や、ネット通販需要の爆発的な伸びによる交通量の増加が、高速道路の老朽化を加速させているのです。

    NEXCO(日本の高速道路運営会社)3社によると、特に床版(橋や高架道路の路面を支えるコンクリート部分)の劣化が深刻化しています。交通量が多く建設から年数が経過した東名高速道路や名神高速道路などでは、床版の損傷が顕著で、もはや「小手先の補修」では対応しきれない段階に差し掛かっています。

    「リニューアル工事ラッシュ」がもたらす新たな風景

    最近、「通行止め」「車線規制」の案内を目にする機会が増えたと感じていませんか?これは、まさに高速道路の大規模リニューアル工事が各地で進行している証拠です。

    例えば首都高速道路の大師橋。1968年に完成し、55年もの間、1日8万台以上の車両が行き交ってきましたが、老朽化のため2023年に大規模な架け替え工事が行われました。たった2週間で300メートル、4000トンにも及ぶ橋梁を新旧丸ごとスライド交換するという世界でも珍しい工法が採用され、社会インフラの維持には“技術革新”と“現場の知恵”が欠かせないことを改めて示しました。

    こうした工事の舞台裏には、綿密な計画と新技術の導入があります。NEXCO東日本が導入した「ロードジッパーシステム」は、上下線のコンクリート防護柵を専用車両で移動させ、工事区間の車線を柔軟に切り替える仕組みです。これにより、ドライバーへの影響を最小限に抑えながら、作業員の安全も守ることができます。

    なぜ今、これほどのリニューアルが必要なのか

    そもそも、なぜこれほどまでに大規模なリニューアル工事が急ピッチで必要とされているのでしょうか。その理由は三つあります。

    第一に、物流需要の増加です。都市部人口の増加やEC(ネット通販)の拡大で、トラックなど大型・重量車両の通行が増えました。第二に、重量超過車両の存在。道路設計時に想定されていなかった負荷が構造物に日々蓄積されています。第三に、寒冷地での凍結防止剤散布による塩害。冬季に路面の凍結を防ぐため撒かれる塩分がコンクリート内部に浸透し、鉄筋の腐食を促進してしまうのです。

    結果として、コンクリート床版の沈下やひび割れ、鉄筋の腐食、鋼橋の亀裂といった損傷が目立つようになり、定期的な点検と補修だけでは対応しきれない“抜本的なリニューアル”が不可欠となっています。

    NEXCO東日本の事業費を見ると、建設費用の約6割が修繕や維持管理に充てられている現実があります。新設よりも「守る」ことにリソースを割いているのです。

    都市の景観も変えるリニューアル──日本橋の地下化プロジェクト

    高速道路の再生は、単なるインフラ維持にとどまりません。都市の景観や地域活性化にも大きな影響を与えています。象徴的なのが、東京・日本橋の首都高速道路地下化プロジェクトです。

    1963年に開通した日本橋上空の高架道路は、長年歴史的景観を分断し続けてきました。しかし、60年が経過し損傷も顕在化。都市再生の一環として地下化が本格的に始動し、2035年には地下ルートが完成、2040年頃には高架橋撤去が予定されています。これにより、かつての空が広がる日本橋の姿がよみがえり、周辺のまちづくりも新たなステージを迎えます。

    「もぐらたたき」から抜本対策へ──地方道路の苦悩と未来

    高速道路ほどではないものの、一般国道や県道、市町村道など全国津々浦々の道路も同様に老朽化しています。しかし、これらには高速道路のリニューアル並みの予算がなく、通常の維持修繕費で“もぐらたたき”的に補修を繰り返しているのが現状です。とりわけ小規模自治体では、道路や橋のストックは多いのに予算も人材も不足し、今後深刻なインフラ危機を迎える懸念が高まっています。

    民間資本導入や新たなメンテナンス事業化など、抜本的な制度設計が求められています。「作る時代」が終わり、「守る時代」にふさわしい仕組みの再構築が急務です。

    海外の高速道路事情──速度、幅、運営形態も多様化

    海外の高速道路は日本とどう違うのでしょうか。まず目を引くのは「速度」の違いです。フランスやイタリアでは最高速度が130km/h、イギリスは70マイル(約112km/h)と、日本より一回り速い設定が一般的です。法定の最高速度が設定されていない区間があることで有名なドイツのアウトバーンは“無制限”のイメージが強いですが、現在は安全性や環境負荷の観点から多くの区間で130km/hが推奨速度となっています。

    また、工事やメンテナンスの実施方法も異なります。ドイツなどでは車線幅を一時的に狭めてでも車線数を減らさずに工事を進めるなど、渋滞回避のための工夫がなされています。さらに、通行量の多い区間には並行して別の高速道路が整備されており、片方で通行止めになっても他方に迂回できる“リダンダンシー(冗長性)”が確保されています。日本でも東名や名神などで「複線化」が進められていますが、今後はより一層のリダンダンシー強化が必要になるでしょう。

    運営形態にも違いがあります。日本の高速道路は原則有料ですが、ドイツはかつて無料だったものの大型車両から有料化が進み、今や有料化や料金値上げの波が欧州各国に広がりつつあります。環境対策やインフラ維持の財源確保、モーダルシフト促進(鉄道への転換)など、社会的要請の変化が高速道路制度にも影響を与えています。

    ヨーロッパや北米、アジア各地では高速道路の新設が今なお進んでいます。例えば中国では、2017年時点で高速道路の総延長が13万1000kmに達し、アメリカを抜いて世界一となりました。毎年のように新路線が開通し、大量の人と物資を短時間で運ぶインフラとして国家規模で整備が進められています。

    こうした新興国のインフラ整備の速度には驚かされるばかりですが、日本をはじめとする先進国では「新設」から「維持管理」「リニューアル」へと、高速道路の役割や課題も大きく変化しているのが現実です。

    高速道路の未来──私たちは何を選択するべきか

    高速道路は、日本の経済成長をけん引し、日常の便利さや安心の根幹を担ってきた社会インフラです。しかし、60年という長い年月と、想定を超える酷使の果てに、今や「どう維持し、どんな形で未来へ引き継いでいくか」が問われる時代に入っています。

    最新技術の導入や工事中でも平常時と同等の利便性を保つ工夫、都市景観との調和、そして持続可能な財源確保。いずれも簡単な課題ではありません。

    「作る時代」から「守る時代」へ。高速道路のリニューアルは、私たちの生活の安心・安全を未来につなぐための、社会全体の挑戦なのです。

    #高速道路#インフラ老朽化#インフラ維持管理#社会インフラ#道路リニューアル#物流#交通インフラ#都市再生

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