
日本メンズファッション協会理事長の奮闘――存続危...
6/2(月)
2025年
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八木原 保 2025/05/23
私は、ニットや衣料品の決め手は素材の良さだと思っている。
気候が暑くなった現代は、ポリエステル100%やナイロン100%など、洗濯しやすく機能性の高い化学繊維の製品が市場で優先されている。しかし、私はもともと天然繊維の綿に麻、ウールにカシミヤなどにこだわり、本当に良いものを市場に提供することを通して差別化を図ってきた。他がアクリル50%ウール50%、あるいはアクリル70%ウール30%などに行くところを、GIMのニットはウール100%にこだわる。しかもウールにも毛足の長いものと短いものとがあるので、我われは15マイクロンから16.5マイクロンの細い糸を使って、繊細な肌触りの製品を提供し続けた。良い糸を使った服作りをやり通していることが、我われGIMの強みになっていると考えている。
そのように素材にこだわるうちに、関係する業界団体の責任も請け負うようになった。海島綿西印度諸国協会とモンゴルカシミヤ協会などがそうだ。
以前、世界で最高品質といわれるシーアイランドコットン(海島綿)を分けていただいたという話をしたが、あれはカリブ海にバルバドスという島でしか生産できない、イギリス王室御用達の最高級品だ。カシミヤのような肌触りとシルクのような光沢が特徴とされている超長綿で、生産量も少ないまさに高嶺の花。日本にも少しずつ分けてもらっていたのだが、なかなか売ってくれない。そのうち、いつの間にか私が相談役みたいになり、海島綿西印度諸国協会の会長となった。
これは46年か50年くらい前に作られた団体で、共同組合という形で運営されていた。つまり、各企業が300万円や500万円もの資金を拠出し、組合体制が形成されているのだが、そのような体制のもとでは、経営上の課題も噴出していた。そこで、私が会長となるや、まず共同組合を解体し一般社団法人へと作り変え、団体を継続できる体制をつくった。
シーアイランドコットンは、1キロで1万1千円くらいの値段がするものだ。日本でも西川産業やミキハウスなど、コンスタントに使うところは5、6社に限られている。そのようなものなので、バルバドスにとっても重要な輸出品である。バルバドスの外務大臣や東京の大使館にいる大使などとも、たびたびやり取りをしている。
モンゴルカシミヤ協会は、政府から頼まれて設立した。安倍首相の時代、当時日本からは400億円ぐらいの輸出がモンゴルにあった一方、モンゴルから日本への輸出は19億円ほどしかない。向こうには、産業がないのだ。国土面積は日本の4倍にもかかわらず、総人口は300万人。しかも100万人が首都のウランバートル周辺に住み、それ以外は夜マイナス50℃に下がるような環境でテントを張って生活する遊牧民である。
そうした背景もあり、「日本の輸入を増やさなければ」と経済産業省から要請を受け、産業の掘り起こしに掛かった。鉄鉱石の次に、カシミヤの糸が重要な輸出品になる。これを日本に入れようと、経産省と組んで30回ほど訪問した。インフラが機能せず資金も乏しい国で、先方からは「出資してくれ」「工場を一緒にやらないか」という話ばかりが来て苦労したが、最終的にモンゴルの糸を中国で紡績し日本に輸入する販路を確立した。
いずれも、GIMとしての強みを追求したことで、図らずも外交の一端にかかわることになったケースだった。