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2025

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    ビームス百変化――100人いれば100のビームスがある

    #22ビームス百変化――100人いれば100のビームスがある

    原石からダイヤへ

     前回、リーダーとしてもっとも大切なことは、『モチベーションをデザインする』ことだと述べましたが、さらに詳しく言うと、熱狂や感動を引き出すこと、夢中を与えられることが、リーダーの使命だと思います。仕事というのは、さまざまな要素があります。しかし、大事なこととは、非常にシンプルだと思っています。やる気がすべて。そのやる気を引き出すためには、尊敬、共感、楽しさ、そうしたものを伝えてあげることが重要です。

     そのためには、「自分自身が言葉に感情や魂を乗せ、伝える」ということが大切です。自分自身が、どれだけ熱い想いで日々を生きることができているか。そして、どれだけその熱い想いを周囲に伝えることができるのか、ということです。その対象とは、同僚や後輩、クライアント、取引先、そして最終的にはお客さまです。僕はスタッフに常々、『商品よりも自分を売れ』と伝えるのですが、それはやはりスタッフの熱い想いがお客様に伝染していって、どういうふうに世の中が変わる瞬間を迎えられるか、ということが、すごく大事だと思うからです。

     また僕は、若い人たちが提案してくるものは、極力OKするということを大切にしています。もちろん、中には採用できないものもありますが、極力OKをするのです。「まずやってみなさい」と伝えることが、自身の熱意を伝えることだと思うからです。その結果、失敗することもあります。それでも、本人にとっては「やらせてもらう」ということの喜びのほうが大きいと思うので、やりたいと言うことには、基本的に背中を押すようにしています。

     僕は僕自身のことを、『直感派、ソフト型』の経営者だと思っています。一方、僕のパートナーである遠藤恵司氏(元・ビームス副社長、現・ビームス最高顧問)は、『マネジメント型』の経営者でした。僕には、東証プライム上場企業の社長のような、骨太の経営能力があるかというと、そうではないと思います。ただ、瞬間的な直感やセンス、感覚、これが合っているのかいないのかを見抜く力は強いと感じており、大事にしてきました。

     ビームスには、『TANE.MAKI(タネマキ)グランプリ』と題した、全スタッフが新たな企画を提案できるコンペがあります。僕はそうした社内コンペにおいては、企画を見ると一瞬で、ある程度いけるかどうかを見抜けるほうだと思っています。もちろん神様ではないので、100%当たることはありませんが、少なくとも8勝2敗くらいまでは持っていけます。ともあれ、まずはやらせてみて、経験させて、もし失敗したならば、「この方法論じゃなかったんだ」という学びになれば良いと思っているのです。

     やる気を削ぐよりも、そうやって経験させたほうがいい。それが、自分の弱点でもあるかもしれません。しかし、ビームスには、一つの均一な商品や店舗にとどまらない、さまざまなスタイルが存在しており、それが強みです。だから僕は、社員のやりたいことや欲しい商品があるならば、「それ、うちでやれば?」とアドバイスします。もちろん、ストリートファッションが好きな人もいるし、クラシカルなファッションが好きな人もいます。ビームスの多様性は、必ずどこかのカテゴリに当てはまります。結果、どんどんブランドや商品が増え続け、アイテム数も店舗数も手に負えないほどの規模になってきていることは確かです。

     100人いれば100のビームスがあります。例えば、ビームスが「車を作ってください」と言われたときに、スポーツカーを想像する人もいれば、ヴィンテージカーを想像する人もいれば、あるいは4WDのアウトドアを想像する人もいます。または、「ビームスでホテルの部屋を作ってください」と言われたときに、ドレスの『ビームスF』のようなクラシックな内装を思い浮かべるのか、ストリート系のラフなものを思い浮かべるのか、人によってまったく違ったものを想起するのです。

     この、『たくさんの顔を持っている』ということが、どんな時代でも強い企業である側面だと思います。反面、ブランディングという点では、明快に一つのものを打ち出すことが難しいという難点はあります。それでも、スタッフが好きなことであれば、「それをやればいいじゃん」と、僕は言います。「うちにはないんです」と言われたら、「じゃあ作ればいいじゃん」と返します。そうして、ビームスはどんどん拡がっていったのです。

     僕がスタッフに、常々言うことがあります。  「一人ひとりが『これが好きな人、この指止まれ』と言える会社にしよう。100人いれば、100本の人差し指が上がるような会社に」。

     100人いれば、100のビームスがある。やりたいことは、どんどんやる。なければ、作ればいい。「好きを仕事にする」とは、そういうことだと思います。

    #ビームス#BEAMS#設楽洋#タラちゃん#経営#ファッション業界
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