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2025

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    「仕事ができる」人間ではなく「仕事が来る」人間になるには

    #21「仕事ができる」人間ではなく「仕事が来る」人間になるには

    原石からダイヤへ

     前回、リーダーとしてもっとも大切なことは、「モチベーションをデザインする」ことだと述べました。方法論ややり方を教えるよりも、“社員のやる気をいかに引き出すか”ということです。どんなにいい企画を考えても、仕事を任せる相手がそこまでやる気がないと、うまくはいかないものです。逆に、そこまで際立った企画ではなくとも、託した相手がものすごい熱量でやってくれると、成功することもあるのです。

     では、どのようにして社員のモチベーションをデザインするかというと、やはりその人のニュートラルな魅力に賛同し、その人と仲間になり一緒にやりたいという気持ちを、リーダー自身が持つことだと思います。これは、僕が幼い頃から身に染みて感じていることです。創業10周年のとき、もう電通の看板もない中、仲間たちが「タラちゃんのためだったら、手弁当で参加するよ」って言ってくれたときの嬉しさは、言葉にし尽くせないものでした。「この人たちは一生大事にしよう」と思いました。そうして集まってくれた人には、自分も協力してあげたい、「頼まれたら動くぞ」といつも思っています。

     2024年には、ビームスの社是を「ハッピー・ライフソリューション・カンパニー」から「ハッピー・ライフソリューション・コミュニティーズ」へと変更しました。その理由は、やはり創業10周年の時と同じように、「一緒に何かやりたいよね」という同好の士、想いに共感するコミュニティをつくりたいからです。これは、ビームスのスタッフ、ファミリー、ブレーンの方、お客さま、お取引先、みなに対してです。もちろんビジネスである以上、そこにお金は介在します。しかし、お金を払ってくれるからやっているというのではなく、「ビームスとだったらやりたいよね」と言ってくれる人たちとともに仕事をしたい、というのが僕の想いです。それが、きっと会社のブランディングにもつながると思いますし、そう思われるような会社であらなければならない、と常に考えています。

     最近よく会社内で、「うちは本当のファミリー企業にするぞ」と言っています。通常「ファミリー企業」というのは、「創業一族が代々経営を担う」ということを意味しますが、僕が考えているファミリー企業は、これとは異なります。ビームスの社員には、「みんなの子どもや親族なら歓迎するぞ」といつも伝えています。僕は、それが本当のファミリー企業であり、それこそがもっとも強い会社だと思っているのです。例えば、「私、ビームスに入りたいんだけど」と親に相談した時、「やめろよ、もっといい会社があるだろう」と言われるような会社では、駄目だと思うのです。「いい会社だからおいで」と親が子に言えるような会社が、本当に強い会社だと思います。

     実際に、当社の社員の子どもや親族が、近年ビームスへ入社してくれています。つまり二世代、親子でビームスという状態です。それこそが、本物のエクセレント・カンパニーだと思うのです。単なる「会社組織」ではなく、「コミュニティ」なのだという想いをともにもてる会社。「ビームスと仲間になりたい」「ビームスと一緒にやりたい」というのが、もっとも大切だと思うことです。

     そうした人との人間関係をつくっていくためにも、人への接し方は大切だと思います。僕のポリシーは、決して威張らず、へりくだることもしない、ということです。部下や年下の人、発注先の取引先に対して、決して威張ることはしません。逆に、立場が上の人や年上の人に、過剰にへりくだることもしません。誰に対しても、等しくオープンな気持ちで臨むことで、人間関係ができてくるのだと思います。

     そのため、僕には学生の友達もたくさんいるのですが、みんなに「タラちゃん」と呼んでもらっていますし、社員もそう呼んでいます。ただ、少し年下の社長たちからは、「いや、さすがに『タラちゃん』とは言えないですよ」「せめて『タラさん』にしてください」と言われることもあります。不思議と、関係が近い人ほどそのように言うのですが、関係が遠いと、学生でも「タラちゃん」と呼んでくれます。そう呼ばれることで、お互いにオープンマインドで話し合えるのです。どこへでも顔を出して、どんな人ともオープンにやっていけることが、自分の一番の強みなのかもしれません。

     スタッフが辞めるとき、挨拶に来てくれたら、僕はこう伝えます。 「君は仕事ができる。だけど、『仕事ができる』というのと『仕事が来る』というのは違うからな」。

     会社の中で仕事が与えられて、ものすごく仕事ができるということと、会社の肩書がなくなってフリーになっても仕事がやってくる人というのは、まったく別物だということです。僕は、僕自身を仕事ができる人間だとは思いません。でも、有り難いことに、僕には仕事がやって来るのです。だから、辞める人にも「『仕事が来る』人間になりなさい。そのためにどうするかが大事なんだ」ということを伝えています。

     常にオープンマインドで、ニュートラルに人と接する。さまざまな人と会って仲間になっていく。そうすると、「一緒にやりたい」と思ってくれる人たちが出てきて、そこからビジネスが生まれていきます。もちろん、名刺交換から始まるところはあっても、それだけではない関係というのはすごく大切だと思います。

    #ビームス#BEAMS#設楽洋#タラちゃん#経営#ファッション業界
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