
新入社員に捧ぐ――「素晴らしい仲間たちと新しいハ...
7/6(日)
2025年
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設楽 洋 2025/06/26
僕は、組織学というのは心理学だと思っています。どのようにして組織を作るか、経営をするかということよりも、やはりスタッフの気持ちが大切だと思います。そのため、自分自身がやりたいこと・伝えたいことは半分で、もう半分は、心理学――人の心を高揚させて熱いものにさせたい、という想いが常にあります。
ビームス社内に浸透している言葉に、「成功したらヒーロー、失敗してもチャレンジャー」があります。『どれだけ前向きに、新たなことにチャレンジするか』ということに、もの凄くフィーチャーしているのです。僕は、失敗は単にマイナスではなく、次のチャレンジのためのデータになると考えており、スタッフにもそれを伝えています。
僕自身、数々の失敗をしてきたことによって「この方法論ではなかったな」ということを学び、理解してきました。また、「進化とは危機からやってくる」とも考えています。人は危機感がなければ、次のステップは踏めません。これは、これまでの経験則であり、かつての成功事例の焼き直しをしていても進化は止まり、やがて終わりが来るということです。
例えば、1989年頃『渋カジ現象』というものが起きました。これは「渋谷カジュアル」と呼ばれる、海外ブランドやスーパーデザイナーが発信したスタイルではない、初めて日本のストリートが生んだスタイルです。紺のブレザーにデニムを履いて、足元はローファーやモカシン、これにインディアンジュエリーといったスタイルが、爆発的に流行りました。
この渋カジ現象に一部貢献したのが、ビームスです。当時販売した、金のメタルボタンを付けた紺のブレザー、これが飛ぶように売れたのです。あまりに売れるので、僕は社内でこの商品をどんどん量産するよう、指示を出しました。そしてそれがブームになってくると、似たようなデザインの安い商品が出てきて、全国に行き渡りました。すると、流行に敏感な人たちは突然着るのをやめ、パタッと流行が止まったのです。ここで、ビームスは大量の在庫を抱えることとなります。「しまった…」と思いました。
この失敗から、「いくら売れるからと言って、追いかけすぎてはいけないのだ」ということを、身をもって痛感しました。何事も、引き際なのです。ある商品が熱狂的に売れるとき、似て非なる安価な商品が世の中に出回る。そうすると、店の売上のPOSデータは跳ね上がっていますが、流行の先を行く顧客は既に去ってしまっています。これが、“陳腐化”に繋がるのだと思い知りました。これは、失敗から痛い思いをしたからこそ学べたことです。
そして、これまでも述べた通り、やはりスタッフの熱い想いこそが大事だということです。例えば、「ビームスで子供服をやりたい」「ウィメンズをやりたい」「ゴルフを…」と企画したときに全員が反対し、時を改めたことを以前も述べました。これらのプロジェクトはいずれものちに実現し成功していますが、だからといって、「早くやっておけばよかった」とは思っていません。それは、どんなに良い企画であっても、実行するスタッフたちが熱意を持ってそれにあたらなければ、うまくいかないことが分かっていたからです。だから、タイミングは今ではない、と感じたのです。
失敗にもさまざまな事例があります。だからこそ、たくさんの挑戦をして失敗を経験し、そこから学ぶこと。企画として良くなかったのか、スタッフがまだその熱気を帯びないのか、あるいは挑戦する人間に対して、協力する人間のパワーが足りなかったのか、など諸々の原因を分析しなければならないと思うのです。
もちろん、不得意なジャンルだったために、生まれる弱点や失敗もあります。しかし、「弱点は伸びしろだ」と僕は常々言っています。欠点や弱点といったものは、凄い伸びしろになる。だから、苦手なことでも挑戦することはやめないほうがいいと思うのです。
世の中に、自分のできる範囲内で仕事をして、『能力がある』という人はいるでしょうか。自分の能力の範囲内でできることというのは、チャレンジではないと思います。限界を突破すること、自分の能力以上のことをやることがチャレンジであり、そこにどれだけの熱狂と熱意があるか。それをいかに養って、仕事に生かしていけるか、ということだと思います。
ただ、現在のビームスほどにスタッフの数が多いと、考えを一人ひとりに浸透させることは容易ではありません。大変だからこそ、組織は評価や制度も合わせてつくらなければなりません。例えば「人が大切なんだ。皆をスターにしていくぞ!」というメッセージを伝えるため、スタッフの本を作ったこともあります。店舗スタッフが別プロジェクトに参加するとき、いかに正当に店への貢献度合いを評価してあげられるかということも、具体的な制度として示してきました。前述した『TANE.MAKIプロジェクト』を通じて、挑戦する機会も与え、スタッフが出した企画でグランプリを受賞したものは、現実化しています。
また、ファッションブランドにおいて服を作る人と売る人は別であるのが通常ですが、ビームスでは、店舗スタッフに対して、1シーズンごとに「反省と展望」と称して「次にどういったものが来そうか」というレポートを出してもらい、良いアイデアは商品化をしています。スタッフにとっては、ただ売るだけでなく、自分が提案したものが形になって手許に来るということです。他にも、店舗スタッフがバイイングに同行して商品を買い付ける機会も創っており、単に「あなたは売る人ですよ」と狭めないことで、喜びや醍醐味を味わってもらうようにしています。