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2025

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    いつまでも「尖った店」でいるために

    #18いつまでも「尖った店」でいるために

    原石からダイヤへ

     ものごとを成功させるためには、熱量が大切です。どんなに良い企画を考えても、それを実行する人間が燃えていないと、うまくいきません。やる人間が燃えていること、そして、そのタイミングが大事です。ビームスで子供服を扱い始めた時も、ウィメンズを始めた時も、地方へ出店した時もそうでした。

     前回述べたように、僕の企画は仲間から、はじめはことごとく反対を受けてきました。地方出店を企画したときも、「ビームスは東京の店です。東京に来ればいいんです。」と反対されましたが、僕は熱意で仲間を説得しました。

     「例えば、海外で見た商品で扱ってみたいものがあっても、ロットによって、できないものがたくさんあるだろう? あるいは、どうせだったら、生地から作ったりしたくないか? それをするには、ある程度の流通チャネルが必要になってくるだろう。そのためには店舗数も増やさないと、自分たちが本当にやりたいものができないじゃないか」と。すると、「それはそうか」と反応が返ってきます。さらに「店舗が増えなければ、上が辞めない限り店長になれないぞ。待遇も変わらないがいいのか?」と言うと、「それは困ります。」と返ってきました。

     このようにしてみなを説得をして理解を求め、やる気にさせて、前に進めてきました。反対を受けながらも、熱意をもって伝え続けたことで、ウィメンズ専門レーベル『レイ ビームス』の立ち上げや、地方初出店を果たしました。

     地方初出店の地に選んだのは、熊本でした。一般的には、東京の次に店を出すとしたら、大阪や札幌、名古屋などの100万都市です。九州で出店するのであれば福岡でしょう。なぜ熊本だったかというと、熊本にはビームスの元スタッフがいたのです。「うちを理解している人にやってもらうのが、一番だろう」と考えました。加えて、熊本は『おしゃれ密度』が高い土地だったのです。人口は福岡のほうが多いですが、おしゃれへの感度が高い人たちの密度が高いのが、熊本でした。たとえば、地方の高校生が修学旅行で東京へ来ると、たまにビームスに来てくださることがあります。当然みな学生服を着ていますが、熊本の学生たちは、学生服の下には輸入もののシャツを着ていたり、スニーカーを履いていたりしました。当時は『わさもん文化』(新しいもの好き、好奇心旺盛の意味)と言って、熊本は抜群に『おしゃれ密度』が高かった。なおかつ、ビームスをよく理解している元スタッフが店を開けば、社員の納得も得られると踏みました。ビジネス規模を考えれば、大阪や福岡への出店が王道ですが、そうしたシナリオを描いて、自然発生的に増えてきたのが、ビームスの特徴でもあります。

     通常とは異なるビームスの店舗展開をもっとも象徴するのが、明治通りの表裏に8軒並んでいる、各レーベルの旗艦店を中心とした『ビームス』『ビームス プラス』『ビームス ボーイ』『ビームス F/インターナショナルギャラリー ビームス』『ビームス T』『ビームス ウィメン』『ビームス レコーズ』、そしてメンズカジュアル部門の若手が運営するスペース『フューチャー アーカイブ』といった店舗群です。

     普通は、こうした出店の仕方はしないと思います。例えば、原宿で成功したら、そのコンテンツを持って、別の離れた地区にどんどん出店していく。それが普通です。同じ通りに8軒も並んでいたら、お客さまを呼べることはあっても、売上も食い合ってしまうことが予測されます。だから、普通はこうした戦略はとりません。それでも、あえてビームスがこのような展開をしているのは、「いいものって、こういうジャンルもあるよ」というメッセージなのです。多様なジャンルの客層に訴えかけるため、8軒もの店を並べているのです。

     多店舗展開をする中で、僕が一番注意したことは、“陳腐化”です。小さな店で1軒だけでやるのならば、小さなパイを狙って尖ったことができます。本来は、僕自身の考えとしても、服好きのスタッフたちの想いとしても、店舗をたくさん増やしたいとは考えていません。いつまでも尖った店で、誰よりも格好いいものをやっていたい、という想いがあります。そのため、例えば、売上規模ナンバーワン、シェアナンバーワン、全国何百店舗、といった言葉に対する憧れはほとんどありません。

     それよりも、「店舗は1軒だけど、ものすごく尖っています、通(つう)のお客様が訪れています」というお店に対する憧れはあります。しかし、ある程度の企業規模になってくると、尖ったものだけではなく、やはりマスの一部を狙わなければならなくなってきます。そして、規模が大きくなればなるほど、だんだんとそのウェイトが増えてくるのです。最終的には、ファストファッションと競合する世界になるわけです。

     だからこそ、「どのようにして、感度のいいお客さまをキープするか」ということを、常に考えなければいけないのです。そうでなければ、売上規模は増えたけれど、感度の高いお客さまは去っていった、という状況になりかねません。それが、“陳腐化”です。例えば、店のPOSのデータを見ると一部の商品がバーンと売れている時がありますが、その時は怖くなり、「引き際かもしれない」と思うことがよくあります。感度の高いお客様が「まだこんなことやってるよ」と感じていなくなってしまうと、徐々に“陳腐化”が進む。そうなることには、強烈な危機感をもち、気をつけています。

     実は、ファッション業界の先輩たちの歴史を見ると、ずっとこうしたことの繰り返しが行われています。だから、尖った店をやるには、小さなパイでやるしかないわけです。現在ビームスは国内外に175店舗ありますが、それぞれがすべて違う見せ方をしています。もちろん、商品としては重なる部分もありますが、ビームスの特徴というのは、そこにあるのです。他の多店舗展開のアパレルストアが、新しい場所に大きな店を開店しました、と聞くと、店へ行かなくとも「だいたいこんな店だろう」と想像がつくものですが、ビームスが「次、どこどこに何坪の店を出します」というと、「えっ、次はどういう店を出すんですか?」と、必ず聞かれます。これこそが、ビームスの特徴であると考えています。

    #ビームス#BEAMS#設楽洋#タラちゃん#経営#ファッション業界
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