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2025

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    縮小していく日本において描く食の未来

    #16縮小していく日本において描く食の未来

    原石からダイヤへ

    2011年は、私にとって大きな転機の年でした。東日本大震災や社会全体の揺らぎの中で、リーダーとしてのあり方を深く考えさせられた年でもあります。これまで感性だけで走ってきた自身の経験を、地方の未来に役立てられないか──そう考えるようになりました。

    もちろん、私ひとりで地方を変えることはできません。例えば古民家を改装して何か素敵な拠点をつくる、といったことが果たして私の仕事なのだろうか、そんな疑問も浮かびました。結論として、そうした実業は、これから出てくる若い世代が担えばよいと考えました。センスのある若者たちが、地域に飛び込んで、新たな挑戦をしていく。そして、私がやるべきことは、そのための土壌をいかにして育てていくか。そうした人材を増やすことと地方の食が元気になるその仕組みそのものに力を注ぐべきだ、と考えるようになったのです。

    ただ、それを「どのようにしてやるか?」となると、話は簡単ではありません。そこには、テクノロジーの力が不可欠です。

    数年前まで830万人いた食産業従事者の数は、確実に減少しています。それでもなお、日本の食産業の市場規模は120兆円にものぼります。日本の基幹産業と言われる自動車産業でさえ60兆円ほどにもかかわらず、です。

    そして、それほど大きな産業でありながら、農業、漁業、食品製造、小売、外食といった各分野が、個々に存在しているのです。それぞれが「別の産業」として捉えられている現状に、私は問題意識を抱えていました。「食」という共通項でつながる産業同士が、なぜ分断されているのか。これまで「コミュニティづくり」を生業とし続け、改めてその意識を強めました。

    かつての日本経済は「旺盛なる内需」に支えられ、製造業や輸出産業は飛躍的な成長を遂げましたが、それも過去の話です。失われた30年と呼ばれる期間は、まさに人口が減少へと転じた30年でもあります。とはいえ、まだ日本の人口は1億2千万人を超えており、急激な減少が本格化するのは、これからです。

    人口が減れば、当然労働力も減ります。特に食産業では、その影響が他業界よりも早く、深く表れていくことが予想されます。人口増加と同じペースで人口が減少していくのではなく、もっと急激にワイングラスに比喩される様に、人が減っていくのです。食産業の各分野を支えているのは、一次産業である農業です。外食産業も小売産業も、農家から仕入れてはじめて販売ができます。しかし、農家の平均年収は100万円にも届かないケースが多く、漁業でもせいぜい230万円ほどとなっています。翻って海外を見ると、ノルウェーの漁業では平均900万円を超えています。これは単なる経済の問題ではなく、日本の「食」を支える構造そのものの問題にあり、原因の一つに他の食産業との関係があります。

    たとえば、外食産業は前述の通り農業に支えられていながら、ほとんどの企業は「原材料費と人件費の高騰が課題」とし、その対応として「企業努力による原価抑制に努める」と考えざるを得ない構造になっています。これはすなわち、生産者への圧力を強めるということです。

    小売も同様です。生産者に対し、「規格通りの商品を、できるだけ安く出させる」という圧力をかけることで、競争力を高めています。これは、エネルギー政策とも似ており、自分たちで自国の首を絞めているような構図に陥っているのです。

    こうした歪みのすべてが、農家にのしかかっています。現在、農業従事者の平均年齢は69歳。70歳以上が6割を超え、75歳を超えている人も少なくありません。このままでは、あと数年で半数以上が離農することになります。これは、まさに国家的な危機です。

    また昨今、米の価格高騰が社会問題になっていますが、本質的な問題はもっと深いところにあります。私は、2050年や2100年といった未来から逆算し、今なすべきことを考えてきました。

    そしてたどり着いた答えは、『分断された食産業の構造を変える』ということです。

    これまでのように、サプライチェーンを分業化し、大量生産・大量消費を前提にした構造のままでは、日本の食の未来はありません。人口が急減する時代に、なぜ旧来のやり方を維持し続けているのか。今こそ、食産業の再統合に向けた発想の転換が必要です。未来の日本を、食から変えていくために。

    #楠本修二郎#食産業#foodbusiness#コミュニティ#zeroco#一次産業
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