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2025

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    リーマンショックで失ったもの、東日本大震災で得たもの

    #15リーマンショックで失ったもの、東日本大震災で得たもの

    原石からダイヤへ

    前回は、世界最高峰の食の祭典で日本の食が絶賛され、世界への扉が開きかけたお話をしました。今回は、時を同じくして私が国内で直面していた、もう一つの大きな挑戦と転機についてお話ししたいと思います。

    当時、私はサントリーの緑茶「伊右衛門」のブランディングに携わり、「ジャパン・モダニズム」というコンセプトを追求していました。日本のモダニズムは、アメリカのミッドセンチュリーや北欧のデザインと深く影響し合っており、その思想は世界と繋がっています。この想いを形にしたのが、京都にオープンした「伊右衛門サロン」でした。

    京都という町は、新しい試みが受け入れられにくいと言われることもありますが、幸いにもこのサロンは、多くの方から称賛の声をいただくことができました。これは何よりも、共に挑戦してくださったサントリーの皆さんのおかげだと感謝しています。「伊右衛門サロン」には、京都から日本のモダンを世界に発信するのだ、という気概を込めていました。

    そして、京都の次はいよいよ海外へ。サンフランシスコに日本酒の魅力を届けるのだ――。そう意気込んでいた矢先、世界を揺るがす一大事件・リーマンショックが襲います。計画は志半ばで頓挫せざるを得ませんでした。

    世界への夢が一度は断たれましたが、2010年に「ワールド・オブ・フレーバー」で新たな希望を見出します。まさに夢と希望、ピンチとチャンスが同時に押し寄せてきたような時期でしたが、ここでまたも、大きな出来事が起こります。それが、2011年の東日本大震災です。被災地の状況を受け、私はオイシックス・ラ・大地の高島社長をはじめとする仲間たちと共に、もともと別の目的で準備していた団体の計画を、すべて東北の復興支援へと切り替えることを決断しました。こうして生まれたのが、「一般社団法人 東の食の会」です。

    この団体を通して、東北の生産者の皆さんと企業とを繋ぐ活動を始めたのですが、現地では、何を支援できるのかと思わされるほど、逆に私たちが彼らの不屈の精神に勇気づけられることばかりでした。「私に支援できることなどないのではないだろうか」――そう思いながらも、それでも何かしたい。そう考えた結果、皆さんとマーケティングの知見を共有し、共に学ぶことから始めよう、と考えました。

    これから5年後、10年後、世の中の関心が「復興」から離れてしまうときを見据えなければならない。今こそ、生産者自らがブランディングや販売までを手がける新しいモデルを東北から生み出すことができれば、それは日本の農業や漁業全体の未来を照らす光になるはずです。無策でいれば、日本の地方はいずれ没落するリスクを抱えています。そして、東北が直面した課題は、いずれ日本中の地方が直面する、未来の縮図でもあります。だからこそ、ここで踏ん張り、復興の中から新たな時代のヒーローを生み出すこと。それを、私たちの目標に掲げました。

    現在、三陸の若きフィッシャーマンは自らの経験を活かし、現在日本全国の漁港の「担い手不足」という切実な危機に瀕する中、だからこそ、漁師自らがマーケティングを学び、新たな価値を創造していくことをサポートしています。また、復興から立ち直った友人は現在オーストラリア政府との包括提携を結ぶまでに自身の事業を拡張させています。

    こうした挑戦を経て、東北は今や日本の食のアントレプレナーを牽引するリーダーとなっています。

    #楠本修二郎#食産業#foodbusiness#コミュニティ#zeroco#一次産業
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