
リーマンショックで失ったもの、東日本大震災で得た...
7/27(日)
2025年
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楠本 修二郎 2025/07/14
カフェの運営が軌道に乗ると、ルミネ、アトレ、東急、阪急、三井、三菱、森ビルといったデベロッパーの方々からありがたい出店依頼のお声がけをいただくようになりました。まさに、私を引っ張り上げてくださるようなお話でした。しかし、感謝の気持ちと同時に、私は深く悩みました。「どうすれば、ただ出店するだけでなく、その施設に新しい価値を貢献できるだろうか」と。
そこでひとつテーマとして考えていたのが、私たちが培ってきた「コミュニティが集う場所」というカフェの概念をもって、商業施設という新しい舞台に貢献することでした。例えば、アパレルフロアにカフェがあったら面白いのではないか。そんなアイデアをルミネの担当者の方にぶつけてみたのです。
一般的に、アパレルフロアは夜になるとお客様が少なくなるため、飲食店は集客が見込めるレストランフロアに出店したがるものです。しかし、それではありきたりで面白みに欠ける。そうではなく、様々なファッションブランドが並ぶフロアの真ん中に、私たちの「WIRED CAFE」が自然に溶け込んでいる。そんな景色を想像したら、とてもワクワクしたのです。
この新しいカフェのスタイルを考えていた丁度同じタイミングで、今度はTSUTAYAを運営する増田社長から「面白いから、ぜひ一緒にやらないか」と声をかけていただき、TSUTAYA書店の隣に「WIRED CAFE」を出店することになりました。ファッションフロアにカフェ、書店の隣にカフェ、さらには銀行の隣にも。東京都民銀行(現・きらぼし銀行)からのご依頼では、「TOKYO PEOPLE'S CAFE」と名付けました。こうした異業種とのコラボレーションによってカフェの可能性を広げていく試みがユニークだと評価され、次々と新しい出店の機会に恵まれました。
ひとつのアイデアが形になり、多くの方に受け入れていただけたことで、私の興味は「次なるコミュニティの形とは何だろう?」と考えるようになりました。
そんな矢先、大きな転機が2つ訪れます。今回はそのひとつ、世界へと目を向けるきっかけとなった出来事についてお話しします。
アメリカに、CIA(カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ)という世界最高峰の料理大学があります。ニューヨークに本校、ナパバレーに大学院を構え、「食のハーバード」と称されるほどの教育機関です。その成り立ちが面白く、第一次世界大戦後、帰還兵に対して主婦たちが「これからはもう武器を捨てて、フライパンと包丁を手にしなさい」と、料理を教えたのが始まりだといいます。料理を覚えた男性たちが次々と食のビジネスを立ち上げ、欧米のフードビジネスの礎を築いていきました。その成功者たちからの寄付によって、さらに学校が発展するという素晴らしい循環が生まれているのです。
このCIAが毎年開催する「ワールド・オブ・フレーバー」は、まさに「食のダボス会議」ともいうべき、世界的なイベントです。2007年、私の恩師であり外食のホスピタリティを教えてくださった力石寛夫先生のご縁によって、私はこのイベントでアジア特集のプレゼンテーションをさせていただくこととなりました。
さらに2010年、同イベントで待望の日本食特集が組まれることになったのです。私はディレクターとして、日本を代表する39名のシェフの方々と共に現地へ向かいました。
プレゼンテーションが終わると、会場は割れんばかりの拍手とスタンディングオベーション。その光景を目の当たりにし、「これだ!世界に本物の日本食の魅力を届けることこそ、私が次に挑戦すべきことだ」と確信します。この瞬間から、私は本気で世界展開を考え始めました。