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2025

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    21世紀の「三種の神器」は、農業・漁業・畜産業

    #1821世紀の「三種の神器」は、農業・漁業・畜産業

    原石からダイヤへ

    日本経済の在り方を考えるとき、よく言われるのは、「ものづくり国家・日本」というイメージです。戦後の復興から、日本は製造業を軸に成長を続けていました。白黒テレビ、洗濯機、冷蔵――それらが「三種の神器」とされ、日本の競争力の源泉だったのです。

    しかし、この失われた30年間はどうでしょうか。円安が進行する中で、「円安はまずい」と言われ続けていますが、それに対して私はいつも「本当にそうだろうか?」と疑問を抱いてきました。かつての日本は、1ドル360円の時代に当日の豊富な労働力に支えられてものをつくって売ることで繁栄してきたのです。もう一度、少子高齢化においても生産効率性を劇的に向上させることができる産業、そして若者達が夢を持って参加できる産業としての「ものづくり」に光を当てるべきではないかと考えています。

    日本の自動車産業は、今復活の兆しも見せています。特に、トランプ政権の脱EV政策の影響によって、アメリカの製造業復興の流れが日本の自動車メーカーにとって追い風となる可能性が出てきました。EV(電気自動車)シフトに出遅れたとも言われる日本勢ですが、トヨタ社はトランプ関税リスクに対して、円高対策によって収益吸収可能な体質を作り上げていると言われている程です。

    とはいえ、こうした産業は常に国際政治や技術革新の波に晒されています。世界でAI技術の軍事利用が進む状況を受け、G7は2024年の広島サミットで「AI技術の平和のための活用」を掲げる共同声明を出しました。しかし、現実には各国の思惑は交錯しており、結果的に、「AI技術で平和を守る」という理想が「武力への備え」に転じる可能性を否定できないのが現状です。

    だからこそ私は、別のアプローチで日本の未来を描くべきだと考えています。それが、「食」です。そしてその根幹を支える「農業・漁業・畜産業」こそ、21世紀の日本における新たな「三種の神器」の一つだと思うのです。

    食は、非常に模倣されにくい分野です。例えば、昨今はアニメやマンガもAIで生成できる時代となっていますが、それでもなお日本のアニメが評価され続けているのはなぜか。それは、単なる技術ではなく、日本人が持つ精神性や審美眼に基づいた表現がそこにあるからです。長い歴史に根差した伝統文化も工芸技術もしかり、そして食も、同じです。素材や技術だけではなく、それを支える文化や精神性があるからこそ、世界は日本の食に惹かれているのです。そう、これから先の三種の神器は日本が他国にない特異性に基づいたもの、すなわち「精神性や審美眼」「伝統文化」そして「食」なのです。

    そしてもう一つ重要なのが、日本の食文化が「現地で体験する価値」を生むことです。「本物を学びたければ日本に来てください」と言えるだけのクオリティを、日本はすでに持っています。観光庁が掲げる訪日観光客6,000万人という目標も、単なる経済政策ではなく、「学びの対象としての日本」を世界に示す重要な戦略なのです。

    もちろん、インバウンドを支えるには、地域の受け皿が必要です。温泉地に観光客が訪れても、料理がカップ麺では残念です。老朽化した施設で地元ならではの食材を使ったお食事を出せない、となっては顧客満足度も下がります。そもそも、里山、そして農村の風景を喪失し、人の営みの無い地方に訪れることはなくなってしまいます。だからこそ、食を軸にした地方創生が今こそ必要なのです。

    そして、食の未来を切り拓くには、業界の壁を超えた連携が必要です。農家が外食産業に関わり、外食企業が農業・漁業・畜産業に参画し、その流れが海外展開にもつながっていく。そんな「ダイナミックな食の産業構造」をつくることで、儲かる仕組みも見えてくるのです。

    「儲かるからやる」というのは、決して後ろ向きな発想ではありません。人が集まり、地域が潤い、文化が継承されるという意味で、食産業の可能性は無限大です。農業も、漁業も、畜産業も、決して衰退産業ではありません。むしろ日本が世界に誇るべき資源であり、未来の柱になるべき産業なのです。

    “食大国”と言われて久しいフランスやイタリアは、食品国内生産高のうち、なんと、25%を海外輸出しています。イギリスでさえ、21%も輸出しています。前述の通り、今の日本は世界で最も「食」でリスペクトされる国になりました。しかし、海外輸出高は2年前に悲願の1兆円を達成しましたが、それは、食品国内生産高のうちの約1%にすぎないのです。他国との比較と、日本の食のポテンシャルを考えると海外輸出のニーズは今の25〜30倍、つまり30兆円産業が誕生する可能性が高いのです。

    かつての高度経済成長を支えたのは、豊富な労働力でした。しかし、今回のイノベーションにおいて、日本にはもはやその労働力は存在しません。一次産業の担い手は急速に減少し、人口減少の波は止まりません。それでもなお、食は30兆円規模の産業へと成長する可能性を秘めています。だからこそ、テクノロジーの力が不可欠なのです。

    2050年、世界の人口は100億人に達し、食糧不足や食品ロス、CO2排出による地球温暖化など、地球規模の課題が待ったなしで迫っています。一方、同じ2050年の日本では、人口減少と食の担い手不足が加速している——しかし、私はそれでもなお「大丈夫」だと信じています。なぜなら、日本には「世界一おいしい国」としての誇りがあるからです。

    健康的でサステナブル、そして人類の文化的功績ともいえる日本の食。それを支える知恵と技術こそが、未来を切り拓く鍵となります。そこで、私が着目したのは「鮮度」というキーワード。雪下野菜(ゆきしたやさい)の知恵に着想を得た温度約0度、湿度100%という極めて自然に近い環境を安定的に再現する——それが、鮮度保持技術「ZEROCO」です。

    H2O——水と氷だけで成り立つ、最もシンプルで、ナチュラルで、ヘルシーな技術。長期保管による“時間”を超え、冷凍技術と掛け合わせることで“食のレコーディング”を可能にし“空間”を超えることができる。日本が持つ感性と知恵を融合したこの技術によって、私たちは世界中のおいしさと健康にもっと貢献できるはずです。

    いま、開かれようとしているこの“ブルーオーシャン”。その扉の先にあるのは、日本の未来を支える、新たな食産業のかたちなのです。

    #楠本修二郎#食産業#foodbusiness#コミュニティ#zeroco#一次産業
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