
すべての食産業をコミュニティ化するために
7/27(日)
2025年
SHARE
楠本 修二郎 2025/07/23
以前も触れましたが、私が経営するカフェ・カンパニーは、少し特殊な会社かもしれません。もともと「カフェが好き」という純粋な想いを持つ人々が集まって始まった組織であり、その出自からして多様な個性の集合体でした。
さらに2020年に、ZEROCO株式会社を立ち上げました。そこで、雪下野菜(ゆきしたやさい:雪の中や土の下で冬を越した野菜)にヒントを得て、生産者から小売業・外食産業へ、鮮度もそのままに届けるシステムを構築中です。これは、長期保存のきく冷凍技術と鮮度を保てる冷蔵技術の良いところを両立させることで、低温で高湿な環境を作り、野菜や魚を劣化させることなく、届けることができる仕組みです。
今、ZEROCO株式会社で取り組んでいるプロジェクトは、かつてないほど多様な人々との連携によって成り立っています。農家や漁師といった食の生産者から、テクノロジーの専門家、政治家、行政関係者、大企業のビジネスパーソン、そしてスタートアップの起業家まで。都市と地方、異なる分野の垣根を越えて、多種多様な方々と手を取り合っています。これからの食産業が一体となって未来へ向かうためには、これほど広く、多様な人々を束ね、一つの大きな力にしていくことが不可欠であり、それこそが今の私の最も重要な仕事だと考えています。
このような考えに至るまでには、過去の様々な経験が礎となっています。カフェ・カンパニーでは、創業当初から「カフェ・キッズ」という独自の教育プログラムを実践してきました。これは、多様な個性を伸ばすための指標です。それぞれの頭文字には、次のような意味が込められています。
新入社員には、この8つの項目のうち、どれか1つでいいから突き抜けてほしい、と伝えてきました。コミュニケーション能力なら自分の右に出る者はいない、知的好奇心なら誰にも負けない、あるいは、誰よりも誠実に仕事に取り組む勤勉さ。人には、それぞれの強みがあります。まずは自分の得意な分野で一番を目指すことが、多様な組織における成長の第一歩になると考えたのです。
さらに、これらの土台の上に、個人の力を具体的な形にする「スタイル(企画力)」と、それを社会へと広げる「コミュニティ(構築力)」の2つを養うことを目標としました。
社会が大きく変化する中で、私たちの教育方針も進化しています。特にリーマンショックや東日本大震災を経て、短期的なデザインスキル以上に、時代の潮流を読み解く力こそが、これからの時代を生き抜く上で不可欠だと痛感するようになりました。そして、その力は社内だけで培うことはできません。
そこで私は、社外の多様な叡智を集め、共に学ぶ「コラーニング(Co-learning)」の場を創ることを決めました。その一つが、株式会社LIFULLの井上高志さんと共に設立した「一般財団法人Next Wisdom Foundation」です。理事・評議員には、「公益資本主義」を掲げられておられる原丈二さんを筆頭に文化人類学者で私が心から尊敬する竹村真一さん、「触れる地球」の開発者としても知られています。他にも、クリエイティブディレクターの小西利行さんやファッション・ジャーナリストの生駒芳子さんといった素晴らしい方々にご参画いただき、「100年先も価値ある叡智(えいち)」を世代や分野を越えて紡いでいく活動を始めました。そこでのトークイベントの開催や書籍の刊行などを通じて、多くの学びを共有しています。
さらに、この活動を「食」の分野に特化させたのが、「一般社団法人おいしい未来研究所」です。コロナ禍を経験し、私は改めて「食」というテーマに集中する必要性を強く感じてきました。それまでのデザインや都市計画といった広い視点を、今度は「食×デザイン」「食×都市開発」という形で深化させようと考えたのです。
この研究所には、分子調理の研究者や地域再生の最先端を行く学者、そしてその領域で実践を重ね営む方々や意欲あふれる学生など、実に多様な専門家や実践者が新たな風を吹き込んでくれています。ここでもまた、様々な叡智(ウィズダム)が集結し、皆で日本を元気にしよう!という熱意が渦巻いています。
「おいしい流域」や「おいしい学校」といったスクールプログラムなどを通じ、これからも、食を起点とした学びの輪を広げていきたい。そう考えています。