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2025

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    高濱流「壁の乗り越え方」

    #29高濱流「壁の乗り越え方」

    原石からダイヤへ

    今、私が子どもたちに一番伝えたいメッセージは、実にシンプルなものです。

    「人生は短い。だから、毎日を心から楽しんで生きてほしい」ということです。

    自分の子どもの成長を見ていると、時間の経つ速さを実感します。あっという間に大人になり、気づけば社会の中心で活躍し、そして次の世代に道を譲る時が来るのです。まさに光陰矢の如し。だからこそ、一日一日を「ああ、生きているな」と実感しながら過ごしてほしいと、心から願っています。

    もちろん、人生は楽しいことばかりではありません。私自身、小学5年生の時にいじめに遭い、本気で死を考えたことがあります。しかし、その非常に辛い経験を乗り越えたことで、得られたものがありました。それは、自分の身に起きた出来事を俯瞰的に捉える視点です。「人生にはこういう辛いことも起こるものだ。でも、きっとどうにかなる」。そんな風に思えるようになったのです。人は皆、こうした経験を通して、少しずつ強くなっていくのではないでしょうか。

    そもそも、熱量をもって何か面白いことを成し遂げようとすれば、必ず数多くの壁が立ちはだかります。そして、その壁を突破した時にこそ、「やったぞ!」という大きな達成感が得られるのです。

    しかし、現代社会は子どもたちを嫌なことから遠ざけすぎる傾向にあります。人間関係のトラブルはあってはならない、みんな仲良くすべきだ、という風潮が強まり、教育現場ではいじめの存在自体を認められないほど、大人が追い詰められています。その結果、子どもたちは成長の糧となるはずの「良い壁」に当たることができなくなっているのです。

    日本の歴史を振り返れば、人々は幾度となく大災害に見舞われ、その度にたくましさを身につけてきました。あるいは今のように恵まれた時代だからこそ、私たちの心は少し弱くなってしまっているのかもしれません。

    そうした問題意識に対する私たちの一つの答えが、野外体験活動です。私たちのスクールではあえて、子どもたちに適度なストレスがかかる環境を用意します。例えば、参加は一人で申し込むのが原則。仲の良い友達と一緒ではありません。さらに、年齢の違う子どもたちが混ざり合う「異学年」のグループで過ごします。そこでは、今までの常識は通用しません。ゼロから自分の魅力を伝え、新しい関係を築いていく必要があります。

    3泊4日の活動の中では、当然、喧嘩もしますし、泣く子もいます。しかし、必死でその状況を乗り越えた子どもたちは、最後には決まって「楽しかったね」と笑い合っているのです。「適度なストレスと、それを乗り越える経験」の枠組みの中で、子どもたちは自らの力で壁を乗り越える体験をします。

    かつての旧制中学で行われていた遠泳、例えば鹿児島だったら錦江湾を泳いで行って戻る課題や50キロの長距離走といった行事も、まさに同じ目的を持っていたのでしょう。「そんなの無理だ!」と思うような課題でも、やり遂げた経験は揺るぎない自信につながるのです。

    教育機関の役割は、こうした適切な負荷を子どもたちに与えることです。ただ優しくしたり、闇雲に厳しくしたりするだけでは、教育とは言えません。

    歴史を紐解くと、今なお語り継がれる思想の多くが、戦国時代のような極限状況で生まれています。人は追い詰められた時にこそ、必死で考え、新しい価値を生み出すのです。その意味で、現代は平和で恵まれていますが、次の時代への変化が訪れた時に、果たして私たちは対応できるでしょうか。未来を見据えるならば、今から「心と体を鍛えておく」必要があるはずです。

    では、実際に壁にぶつかり、大きな挑戦に失敗した時、私たちはどう向き合えばいいのでしょうか。

    まず、自分自身を責めるのは少し違うと私は思います。もちろん反省は必要ですが、それは感情的に自分を追い詰めることではありません。「どの部分がダメだったのか」を冷静に分析し、次の一手を考えるのです。この分析が的確にできるかどうかは、その人の思考の「回転数」にかかっています。

    壁にぶつかって混乱している人の中には、この分析の的が外れているケースが少なくありません。「そこを反省しても、問題の解決にはつながらないのに」と感じることがよくあります。典型的なのが、自分の不遇を「親ガチャ」のせいにするような、安易な原因分析です。しかし、同じような環境でも成功している人は数多くいます。問題の本質は別のところにあるはずです。

    本当に必要なのは、PDCAサイクルを回すように、冷静に問題点を洗い出し、「次はこうすればいい」という対策を立て直ちに実行することです。諦めずにそのサイクルを回し続ければ、ほとんどのことはいつか必ず結果につながると信じています。

    人間の能力には限りがありますが、私たちが人生で直面する壁の多くは、決して乗り越えられないものではありません。医師になる、起業して成功する。誰かがすでに成し遂げたことであれば、正しい努力を続ければ道は開けるはずです。

    そして何より、「あの人ができたのだから、自分にもできるはずだ」と思える感覚が大切です。それは「根拠のない自信」と言えるかもしれません。しかし、「なんだかやれそうな気がする」。この感覚を持てるかどうかが、壁を乗り越える上で、非常に大きな力になるのです。

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