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2025

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    多くのチャレンジをした結果、心身に異常を来した留年時代

    #15多くのチャレンジをした結果、心身に異常を来した留年時代

    原石からダイヤへ

    教育という仕事の何よりの魅力は、子どもたちが毎日面白いということです。彼らは、尽きることのない驚きと発見の源です。例えば、これから始まるサマースクールを前にしても、私の心は高揚感で満たされています。子どもという存在は、何度向き合っても飽きることがなく、常に新しいワクワクを与えてくれるのです。

    しかし、その情熱だけでは仕事は成り立ちません。日々の実務をこなし、他社との差別化を図り、企業として成長していくための課題を一つひとつクリアしていく必要があります。

    振り返れば、20代はずっと迷走していました。しかし、それは何事にも一生懸命だったからこそ。一度のめり込むと、それが何であれ、とことん突き詰めないと気が済まない性格なのです。例えば、競馬や競輪といったものも、徹底的にやりきると本質が見えてきます。常に賭け続けることが確率論的にいかに無意味か、当然の結論に行き着くのです。しかも、25%は寺銭(てらせん)を取られます。その時にやり切ったからこそ、ギャンブルで身を持ち崩すことがなくなったのだと思います。

    世の中には、40代、50代になってからふと始めたことにのめり込み、それまで築き上げた人生を台無しにしてしまう人が少なくありません。「若いうちに何でも経験しておけ」という言葉は、真理なのだと思います。人生の触れ幅の大きさは、教育者としての器の大きさに直結します。様々な背景を持つ子どもたちと向き合う上で、その経験が活きてくるのです。

    「哲学時代」の一年間は、今でも私の大きな支えです。ある程度答えも出て、よし、これからよく生きようと思ってしばらくしてからのことです。今で言う統合失調症の前段階だったのかもしれません。あまりに観念的な世界に集中しすぎていたのでしょう。歩いていると、ある木が「うーん」と私に話しかけてくるような感覚に襲われたのです。現実との境界が曖昧になっていくのを感じ、一方の自分が「やばい、やばい。俺、壊れ始めているぞ」と、必死に警鐘を鳴らしていました。そのまま思索の世界を突き進むか、普通の人間世界に戻るかの岐路に立ちましたが、最終的には後者を選びました。下北沢に引っ越して、私はあえてパチンコや競馬、女の子を追いかけることをやるような生活に身を投じ、何とか心のバランスを取り戻したのです。

    そしてもう一つ、今の私に繋がる大きな出来事が、25、6歳の頃の留年です。それまでの留年は意図的なものでしたが、4回目の留年は、うっかり1単位を落としたことによる、全くの不本意なものでした。その時、私の心に芽生えたのは、「ここで何か誰もやっていないようなすごいことを成し遂げ、自分の力を誇示したい」という浅ましい見栄でした。それまで「自分の心が震えるかどうか」を基準に行動してきた私が、初めて「他者からの称賛」という評価軸に向かって突き進んだのです。

    そして始めたのが、「10か国語同時学習」という無謀な挑戦でした。フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語……。手当たり次第に講義を申し込みましたが、当然ながら無理がありました。5月にもなると予習は全く追いつかず、もはや楽しいという感覚は一切ありません。それでも「自分で決めたゲームだ」と自分を追い込み、ついに心身が悲鳴を上げたのです。

    率直に言うと、精神疾患を患いました。今でいうパニック障害です。

    連休明けのフランス語の授業中でした。突然、足元から「うーっ」という地鳴りのような音が響き、「わっ、地震だ!」と思って教室を飛び出しました。家屋が崩れ落ちるかのような、猛烈な揺れを感じたのです。

    しかし、私の後に続いて逃げてくる人は誰もいません。不思議に思って教室を覗くと、何事もなかったかのように授業が続いています。「おいおい、それどころではないぞ!」。そう思った瞬間、再び地鳴りが襲い、心臓が張り裂けんばかりに鼓動を打ち始めました。「もう、死ぬかもしれない」。得体の知れない力によって、自分だけが殺されるのではないかという恐怖に襲われました。

    私は、かつて「哲学時代」を共にした西郡に電話をかけ、「助けてくれ!」と叫びました。方角も真逆の場所に住む彼に、「今すぐ来てくれ。俺は死ぬかもしれない!」と。駆けつけてくれた西郡に必死に状況を訴えましたが、彼は冷静でした。「でも、お前ここまで走って来られたじゃないか。それで死ぬわけないと思う」。

    たまたま共通の友人に医学部の人間がいたため、この症状について尋ねてみました。ちょうど彼のところに医師免許を取ったばかりの仲間がいて、詳しく話したところ「それ、心身症じゃないか」という結論になりました。

    「俺が心を病むわけがない」。そう思うプライドとは裏腹に、彼の言葉は的を射ていました。他人の評価を得るために楽しくない取り組み方をして、自分を追い込んで無理をしたことで、私は、間違いなく心を病んでしまっていたのです。

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