桁違いの巨大市場・中国の胎動と、「日中ペット産業...
SHARE
#18稲盛和夫氏から学んだ誠実さと、リーダーの要諦
越村 義雄 2026/07/18
これまでのビジネス人生において、私は数多くの経営判断を下し、組織を率いてきました。その中で一貫して守り続けてきた管理職としての哲学、そしてリーダーとしての絶対的な条件があります。それは、「人を大切にする気遣いと、圧倒的な思いやりを持つこと」です。
私は現役時代、社内で公然と「どれほど仕事ができて高い数字を上げる人間であっても、周囲への思いやりや気遣いのない人間は、私は絶対に評価しない」と言い切っていました。組織というのは個人の集まりではなく、一つの「ワンチーム」です。お互いをリスペクトし、気遣う優しさがあるからこそ、全員が気持ちよく働くことができ、結果として最大のパフォーマンスが生まれます。自己中心的な優秀さなど、チームを崩壊させる引き金にしかなりません。この人間関係の本質の大切さは、幼少期から多くの大人たちの背中を見て、そして私自身が様々な経営者と交わる中で、確信へと変わっていったものです。
私自身、経営の要諦を学ぶために、松下幸之助氏や稲盛和夫氏といった偉大な先人たちの著作を貪るように読み、その思想に触れてきました。なかでも、JAL(日本航空)の再建に尽力されていた頃の稲盛和夫会長との間に起きた、ある個人的な出来事は、私の「誠実さ」に対する価値観を決定づけるものとなりました。
当時、私はジャペルさん(ペット用品専門商社)のツアーでイギリスを訪れており、ロンドンのヒースロー空港からJALの帰国便に乗る際のことでした。私は自分のマイルを使って、エコノミークラスからビジネスクラスへのアップグレードを事前に正規に完了させていました。しかし、搭乗手続きの段階になって、現地の女性スタッフから突然「正規の料金を支払う別のお客様が来られたので、あなたはエコノミークラスに移ってください」と告げられたのです。
私はその対応に強い疑問を感じました。「事前に確定している座席を、当日の都合で一方的に変更するのは組織としておかしいのではないか」と毅然と主張し、現地の責任者を呼ぶよう交渉しました。結果、こちらの主張の正当性が認められ、無事にビジネスクラスで帰国することができたのですが、私は帰国後、どうしてもひと言伝えずにはいられなくなり、当時、JALのトップであられた稲盛会長へ向けて直接、一通の手紙を書いたのです。
内容は「先日このような理不尽な対応を受けました。これは、稲盛会長が日頃から社員の方々に指導されている利他の心や、正しいおもてなしの姿勢に合致するものなのでしょうか」という、若輩ながら大変生意気な意見書でした。一国の巨大企業のトップですから、一顧客の手紙など読み捨てられてもおかしくありません。しかし、稲盛会長の対応はあまりにも誠実でした。なんと、私宛てに直筆の手紙を当時担当されていた部長と課長がヒルズ社の私にお詫びのお品と共にご持参いただいたのです。そこには、大変丁寧なお言葉が記されていました。
「大変ご迷惑をおかけしました。ご指摘のような対応は到底あってはならないことです」
私はそのあまりの徹底ぶりに深く感銘を受け、すぐさま丁寧な御礼状をお返ししました。「本物の偉大なリーダーというのは、ここまで一人の人間の声に誠実に向き合い、迅速に動くものなのか」と、その器の大きさに震えるほどの感銘を受けたのです。
偉大なリーダーというのは、自分自身が輝くだけでなく、必ず次の「優れたリーダー」を育てています。私自身、その領域にまで達しているかは分かりませんが、自分がこれまでの人生で得てきた経験や失敗の教訓は、惜しみなく部下や次世代へ伝えていきたいと考えています。人はそれぞれ全く異なる環境で育ってきますから、時にはこちらの想いが一回では伝わらないこともあります。しかし、相手の懐へと自ら進んで飛び込み、諦めずに素直な気持ちで対話を重ねていけば、最後は必ず心が通じ合えると信じています。
自分の信念を貫き、常に旺盛な好奇心を持ち続け、人への思いやりを忘れないこと。これこそが、いかなる激動の時代であっても、大きな事業を成し遂げるための不変の鉄則なのです。


