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レアメタル供給の現実と未来:中国依存からの脱却は進むのか?
ビジョナリー編集部 2025/11/25
「レアメタル」という物質をご存じでしょうか。じつは、スマートフォンやパソコン、電気自動車のバッテリーなど私たちの生活に欠かせない商品に使われている非鉄金属です。今、この物質の流通が世界の政治や経済を大きく揺れ動かしています。
特に最近、中国がレアメタルの対米禁輸を1年間解除したというニュースが大きな話題となりました。
本記事では、レアメタルの基礎から最新の国際動向、そして今後の日本や世界経済への示唆まで解説していきます。
※ この記事の情報は2025年11月時点のものです。
レアメタルとは
レアメタルは、「希少金属」とも呼ばれます。その特徴は大きく2つです。
- 地球上に存在量が少ない、または採掘・精錬にコストや技術が必要
- 産業用途が広く、特にハイテク分野に不可欠
31種類に分類されており、リチウム、コバルト、ニッケル、チタン、ガリウム、インジウムなどが代表的です。
レアアースとの違い
レアアース(希土類)は17種類の元素の総称です。ランタン、セリウム、ネオジムなどがあり、レアメタルの中の1グループと考えることができます。
- レアメタル:希少な非鉄金属全般(31種)
- レアアース:そのうちの希土類元素(17種)
用途や特性で区別されるため、混同せず理解するのが重要です。
レアメタルの主要な用途
- 電気自動車(EV)バッテリー
リチウム、コバルト、ニッケルは、高エネルギー密度が求められるEV向けバッテリーで幅広く利用されている素材で、産業の発展に欠かせない存在です。 - スマートフォンやパソコンの部品
レアメタルの一種であるガリウムやインジウムは、液晶ディスプレイやタッチパネルの透明導電膜、半導体などに利用されています。タンタルはコンデンサー(電気を蓄えたり放出したりする電子部品)に不可欠です。 - 再生可能エネルギー
風力発電や太陽光パネルの高効率化にもレアメタルが貢献しています。たとえばカドミウムやテルルなどが太陽光パネル材料として使われています。 - 医療・環境分野
チタンは人工関節やインプラントに、酸化チタンは光触媒として空気・水浄化に利用されています。高い生体適合性や化学的安定性が評価されています。
世界の供給網と中国の圧倒的存在感
中国の独占的シェア
- レアメタル:鉱山・精錬・加工の多くが中国に集中
- レアアース:採掘7割、精錬9割、加工9割以上が中国
このように中国に集中していることが、世界のレアメタル供給網を大きく左右しています。
多くの先進国は、労働・環境コストや法規制強化からレアメタルの精錬を手放し、中国への依存度が急増しました。
輸出規制の影響
例えば、2010年に中国が日本向けレアアース輸出を規制した際には、たった数ヶ月でジスプロシウムやネオジムの国際価格が最大10倍に跳ね上がり、日本企業は原材料調達に大混乱しました。特に自動車や電子部品メーカーへの影響は極めて深刻でした。
今回の禁輸解除
中国政府は、米国向けのガリウムやゲルマニウムなどのレアメタル輸出規制を、約1年間一時解除すると発表しました。この背景には、米中首脳会談での合意や、両国の経済的な駆け引きがあったと言われています。
一時解除の意義
今回の措置によって、先端半導体やハイテク製品を支えるサプライチェーンの混乱は一時的に緩和されました。自動車産業や電子部品メーカー、再生可能エネルギー関連の企業にとっては、まさに胸をなでおろす展開です。価格高騰のリスクもいったん回避され、「ひとまず、ほっとした」と語る日本や欧米の経営者も少なくないでしょう。
根本のリスクは解決していない
とはいえ、根本的なリスクが消えたわけではありません。中国はいつでも規制を再発動できる立場にあり、米中対立が再び激しくなれば、供給ショックが起こる可能性も依然として残っています。“中国依存”からの脱却はまだ道半ばであり、グローバル企業にとって今回の一年は「猶予期間」にすぎません。調達先の多角化、リサイクル体制の強化、代替材料の開発など、リスク分散に向けた取り組みを加速させる必要があります。
日本を含む各国の対応
レアメタル偏在リスクに各国がどう動いているのか
レアメタル資源の偏在リスクを抑えるため、各国政府や企業は複数の対策を同時に進めています。
調達先の多角化
まず重要なのが、供給源の幅を広げる取り組みです。オーストラリアやアフリカ、南北アメリカなど、中国以外の地域からの調達を強化し、鉱山開発や精錬に対する官民投資も拡大しています。
備蓄とリサイクルの強化
国内備蓄の確保も欠かせません。日本では31鉱種(55元素)を対象に、消費量の60日分を官民で備蓄し、供給リスクの分散を図っています。
一方で、廃スマホや家電からレアメタルを取り出す“都市鉱山”の活用も進展中です。日本の都市鉱山には、世界埋蔵量の1割以上に相当するレアメタルが眠っているとも言われ、タングステンやコバルトなど、リサイクル優先度の高い鉱種も重点的に回収されています。
代替素材の研究開発
さらに、レアメタルを使わない新素材の研究開発も進んでおり、物性や量産化に課題はあるものの、長期的なリスク分散には欠かせない取り組みとされています。
枯渇リスクと今後の課題
レアメタルの埋蔵量には限りがあり、EVや再エネ技術の急速な普及によって需要は急増しています。モリブデンやタングステン、コバルトは2050年までに現有埋蔵量を使い切る可能性があるとされ、リチウムやインジウムも消費ペースが埋蔵量を上回る懸念があります。
そのため今後は、「持続可能な利用」「リサイクル」「環境負荷低減」「新技術開発」などを軸に、産業界と社会全体で議論と取り組みを加速させる必要があります。
まとめ
中国の輸出規制解除は、世界経済に一時的な安堵をもたらしました。しかし、根本的なリスクは解消しておらず、私たち一人ひとりの生活、そして次世代の産業・環境にも深く関わる課題を残しています。
この機会に、レアメタルの現状と未来に目を向け、リサイクル製品の選択や省エネ行動など、できるところから行動を始めてみてはいかがでしょうか。
今後も世界の動向を注視しつつ、持続可能な社会づくりの一歩を、皆さん自身の生活から踏み出していきましょう。


