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2025

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    《エリート vs. 庶民》の分断が社会を変える──ポピュリズム拡大の背景

    《エリート vs. 庶民》の分断が社会を変える──ポピュリズム拡大の背景

    欧米を中心に、ポピュリズム勢力がこれまでにない勢いで台頭しています。
    右派・左派を問わず、“民衆の声を直接届ける”という強いメッセージが支持を集め、政治の風景は大きく変わりつつあります。

    本記事では、ポピュリズムとは何か、なぜいま世界中で広がっているのかをわかりやすく解説します。

    ※ この記事は2025年11月時点のものです。

    ポピュリズムとは何か?

    「ポピュリズム」はラテン語の「ポプルス(人民)」を語源としており、19世紀末のアメリカで、政治や大企業に独占された権力を「人民に取り戻すべきだ」と訴えた人民党(ピープルズ・パーティー)がそのはしりとされています。

    既存のエリート層や既得権益、伝統的な政党への反発として、「民意を主役に据えるべきだ」という主張がポピュリズムの根本です。

    右派ポピュリズムは「自国民」を中心に据え、移民や難民への反発を訴え、左派ポピュリズムはエリート層や大企業、既得権益に対する批判を前面に出します。

    なぜポピュリズムが拡大しているのか

    これまでの欧米諸国の政治は、中道右派と中道左派の二大政党による“安定”がありました。それを支えていたのが「中間団体」──例えば、保守政党は教会、革新政党は労働組合といった社会的なつながりです。

    人々は団体を通じて情報を得ながら、政治に参加し「自分の声が届いている」という実感を持っていました。

    しかし、経済のグローバル化、インターネットやSNSの普及、雇用の流動化といった社会の変化により、中間団体の力は急激に衰えました。現代の多くの人は、団体に属さず、情報もネットで自由に得られます。

    これにより、「自分たちの声が無視されている」「エリートばかりが得をしている」という不満が大きくなり、既存政党への違和感や反発が強まりました。

    アメリカのポピュリズム

    トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を掲げ、グローバル化によって職を失ったラストベルト(工業地帯の衰退地域)の労働者や、移民増加による社会不安や雇用競争に不満を持つ市民、さらに行き過ぎた多様性重視(DEI政策)に違和感を覚える層などから大きな支持を集めました。

    「ワシントンのエリート」「高学歴の特権階級」「既成政党」への痛烈な批判を繰り返し、「自分たちの声を代弁してくれる存在」として、多くの“サイレントマジョリティ”の共感を獲得しました。

    トランプ氏の政治手法には、大統領令を多用してトップダウンで政策を決定することや、移民規制やDEI政策の撤回といった特徴があります。また、既存のメディアや大学、官僚組織に対する強い不信感も見受けられます。これらの傾向から、従来の「合議制」や「抑制と均衡(チェック&バランス)」が軽視されていることが目立ちます。

    また近年では、「国家を企業のように経営すべき」「効率と秩序こそが重要」と主張するテックライト(技術系右派)の思想がトランプ政権にも影響を与えつつあります。これにより、民主主義の根幹である「多様な声の尊重」や「少数派保護」が脅かされる危機感も高まっています。

    ヨーロッパに広がるポピュリズム

    ヨーロッパでもポピュリズムは拡大しています。その特徴は「反移民」「反グローバリズム」「EU懐疑」に集約されます。

    イギリス──リフォームUKの躍進

    イギリスでは「リフォームUK」が注目されています。この政党はEU離脱(ブレグジット)を推進したナイジェル・ファラージ氏の流れを引き継いでおり、移民規制や国家主義、そして保守的な経済政策を掲げています。特に、産業が衰退した地域で支持を拡大しているのが特徴です。

    たとえば、イングランド北東部はかつて重工業で栄えたものの、構造改革で経済的に取り残された地域です。失業率が高く、社会的疎外感が強まる中、「既成政党は自分たちを見捨てた」という声がポピュリズム政党への支持に直結しています。

    また、人種的に均質な地域では、「移民による脅威」が想像で増幅されやすく、不安や恐怖が政治利用される構造も見逃せません。

    フランス・ドイツ・イタリア──極右ポピュリズムとEU懐疑

    フランスでは極右「国民連合(RN)」が国民議会選挙で大躍進。「移民規制」「治安強化」「購買力向上」を訴え、「自分たち普通のフランス人こそが犠牲者だ」という論理で支持を集めています。

    ドイツでも「ドイツのための選択肢(AfD)」が、旧東ドイツ地域を中心に急伸。 イタリアではメローニ首相率いる「イタリアの同胞」が政権を奪取するなど、極右・反EU勢力がEU議会で存在感を強めています。

    EU統合への懐疑

    これらの勢力は、「EU統合はエリートのための経済合理主義だ」と批判し、各国固有の文化やアイデンティティの擁護、主権回復、国境の強化、さらにアメリカ主導ではない独自の連帯による“もうひとつの欧州統合”を模索するといった主張を展開しています。

    ポピュリズムが映し出す社会が抱える不安

    なぜポピュリズムが力を持つのか、改めて整理しましょう。

    拡大する格差と不安

    グローバル化によって産業の空洞化や雇用不安が生じていること、さらに急激な移民流入による治安や文化への不安、加えてインフレや生活苦、社会福祉の不安定化といった“日常の不安”が広がっています。こうした状況が「今の政治は自分たちを守ってくれない」という苛立ちを生み出し、「エリート vs. 庶民」という対立構図が有権者の心に響きやすくなっているのです。

    SNS時代の情報拡散と分断

    SNSや多チャンネル化したメディア環境は、ポピュリズムの拡大に拍車をかけています。たとえば、自分と同じ意見だけが見えるエコーチェンバー現象が起きやすくなり、フェイクニュースや陰謀論が拡散しやすい状況も生まれています。また、感情に訴えるメッセージが理性的な議論よりも大きな影響力を持つようになっています。このような環境の中で、合理的な議論よりも「怒り・不安・恐怖」といった感情が政治判断を左右しやすくなりました。

    ポピュリズムは「民主主義の敵」なのか?

    ポピュリズムには「民意をすくい上げる機能」があります。たとえば、既存の政治が“時代遅れ”となった場合には、変化を求めるサインとしてポピュリズムが拡大します。また、「無組織層」や「見捨てられた層」の声をすくい上げ、これらの人々に政治参加の機会を広げる役割も果たします。さらに、民主主義の根本原理である「多数派の意志」を社会に再認識させるという側面もあります。

    ただし、法の支配や少数派の保護といった民主主義のもう一つの原理が軽視されてしまうおそれや、「分断」や「排外主義」が暴走するリスクも存在します。そのため、こうした懸念点も意識しながら、感情に流されることなく冷静に見つめることが不可欠です。

    まとめ

    既成政治やエリートへの不信が、民衆の怒りや不安、恐怖として噴出しています。また、SNSや情報環境の変化が、こうした動きをさらに拡大させています。

    ポピュリズムは「社会の変化を求めるサイン」であり、決して無視すべきものではありません。民主主義の根本である「多様な声の尊重」や「少数派保護」を忘れず、分断ではなく包摂へと導く新たな政治・社会の在り方を模索することこそが、国際社会のポピュリズムから学ぶべき教訓ではないでしょうか。

    これからは、自分自身の視点で社会の動きを見つめていくことが、ますます重要になってくると思われます。

    #ポピュリズム#民主主義#政治動向#格差社会#SNS社会#社会不安#欧米政治

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